王都脱出
ディーアたちと合流するとジントはケンを背負い、ヒカリとディーアでルリ姉を運びながら進み、ときどきディーアがケンに治療を施していた。
後ろから追手が来るかと警戒しながら移動していたが結局追手はやってこなかった。
おそらく師匠が最後まで奮戦して時間を稼いでくれたということだろう。
ちょうど王都を抜けたあたりでルリ姉が目を覚まし「あらあら、おねえちゃん怖くて失神しちゃった~みんな迷惑かけてごめんね~」とのことだったがとりあえず無事だったことにオレもディーアもヒカリも安心した。(あとはケンをどこか落ち着ける場所で治療しないと。)
地下通路なのにやたらと登り階段の多い所が続く。
やがて地下通路を抜けるとそこはどこかの山森の中の祠みたいなところだった。
まだ夜明け前なのであたりは真っ暗だ。
「ディーア、ここがどこか分かる?」と聞いてみる。
「確かこの地下通路は王都の西側に出るはず。。。もう少し西へ行けばイルカナムの村があってそこの教会には王家の非常用隠れ家があるはずなの。」
(この山の反対側が王都だからイルカナムはこのまま前に進めば着くだろう。しかしサハリが敵だった以上各地の教会も敵かも知れない。)
ジントが考えているとヒカリが口を開いた。
「ディーア様、イルカナムも王都と同じ状況になっているかも知れません。もし今大丈夫でもすぐに追手が来てしまうでしょう。ハルアに向かった方が良いと思います。」
「ハルア?ってどこ?」ジントが横から聞き返す。
「アンタ精霊族のハーフのくせに何で知らないのよ!ハルアはサリサラ(精霊の森)の集落の1つでアタシとケン兄の両親がいるの。そこなら多分安全だわ。」
「確かにイルカナムに行くのは危険かもしれないわね。それでハルアはここからどのくらいかかるの、ヒカリ?」ディーアが問いかける。
「徒歩だと10日くらいかかっちゃうかしら・・・ケン兄のこともあるし馬車が欲しいところです。」
(10日・・・その間ずっとジントにケンを背負わせるってわけにもいかないわよね。。。)
「・・・エン・・・タンダ・・・」そのときジントに背負われているケンシーが何かつぶやいた。
「ケン、大丈夫か!?」ジントが声を掛けるが返事はない。だがとりあえず命に別状はなさそうだ。ディーアの治療が聞いたのだろうがディーアもかなり疲労しているように見える。
「やはりこのまま強行軍ってわけにはいきそうにない。危険かもしれないけどまずイルカナムへ行って馬車を手配しよう。ディーア、王家の隠れ家とやらはそこの司祭に気づかれずに入れるか?」ジントが問いかける。
「ええ、隠れ家が教会にあると言っても裏手の枯井戸が入り口だからこの時間なら見つからないんじゃないかしら。あの村人たちがあの黒いのになってなければだけど・・・。」
「じゃあひとまずそこに隠れて今晩は休もう。朝になったらすぐにハルアに向けて出発だ。」
夜闇に紛れてイルカナムの村まで移動すると枯井戸から隠れ家へと辿り着いた。少し見たところでは村の様子は暗くてよく分からないがあの黒い結界は王都内のみで展開されておりここまでは及んでいないので問題はなさそうだ。
隠れ家には乾燥食料と水、それと結構な額の金が置かれている。
(これで当面路銀には困らなくて良さそうだ。)ジントたちは交代で休みながら朝まで休息を取ることにした。
「うう・・・こ、ここは・・?」朝方ジントが仮眠を取っているとケンが目を覚ました。
「ケン!気が付いたのか、体は大丈夫か?」
「なんかすごく長い夢を見ていたような・・・は、腹が痛い・・・けど、何とか大丈夫そうだ・・。はっ!アイツらは・・戦いはどうなったんだ!?」
「負けだ・・。オレたちの完敗だよ・・。」ジントはケンに王都を奪われたこと。師匠が命を懸けて自分たちを逃がしてくれたこと。今はイルカナムの隠れ家にいてこれからハルアに向かうことを伝えた。
「そうか・・・。でもまだ希望が無くなったわけじゃないな。ディーア様とオレ達が無事・・とは言い難いけどとりあえず生きてる。」確かにそれはケンの言う通りだった。
「ケン、早速で悪いんだがこの村の様子とできれば王都の様子を探ってくれないか?」
ジントはケンに言う。ケンのもうひとつの能力は力で造った鳥を飛ばして半径3km程度の様子を窺うことができる。直接の戦闘向きの能力ではないが諜報は戦局を左右する。
「ああ、そういう状況であれば多少の無理はしなくちゃな・・。」「「遠視」」
ケンが能力を使いあたりの様子を探る。20分程してケンの意識がこちらに戻ってくる。
「ケン兄~!目を覚ました、良かった・・!死んじゃうかと思ったんだからね!」
「ケンシー、気が付いたのね。良かった。」
「ケンシーちゃん無事でよかったわ~~。」
ちょうどみんなが目を覚ましてケンが起きていることに気が付いた。
「ルリィさん、ディーア様、ヒカリ・・みんな心配かけてゴメン。もう大丈夫だから。あと周りの様子を探ってきたんだけど。まず、この村は今のところ前と変わりない、大丈夫そうだ。あと王都だけど上から見た限りでは平穏・・・と言っていいのかな。黒騎士が王都内をうろついてはいるけど住人に危害を加えている様子は見えなかった。おそらく全員が敵に支配されている状況なんだと思う。」
「つまり住人ごと王都を乗っ取られたってことか。」
「そう見えるな。それに、あの結界みたいなやつが少しずつ広がり始めてる。10分ほど他と一緒に観察してたけど60~70mくらい拡大してた。このペースだとここもあと7~8時間であの結界の中に飲み込まれてしまう。」
「まずいな。村人を避難させないと。この村の司祭と村長に会いに行くか。」
ジントは部屋を出ると教会へ向かった。すると外で掃き掃除をしている初老の司祭らしき人物を見つけることができた。
「あの、すいません。」ジントは慎重に話しかける。大丈夫そうだが敵である可能性は0ではない。
「はい?おや、あなたは・・・。確か王城の騎士殿ではないですか?どうしてこんな朝早くからこんな場所に?」と司祭らしき人物が聞き返してきた。
「オレを知ってるんですか?あなたは?」ジントが尋ねる。
「私はこの教会の司祭をしているキミクと言います。あなたのことは王城の教会に行ったときに何度か見かけたことがありますよ。確か騎士団長殿の直属で王女様の護衛をされているとか。」
「ならちょうど良かった。・・実はディーア王女もここに来ているんです。村の皆に話があるのでみんなを教会に集めてもらえませんか?」
「ええっ?王女様がいらしてるんですか?」キミクは驚いた様子で
「すぐに皆に知らせてきます。」と言って教会を出て行った。




