こんな人生なら、異世界召喚は悪くない。
「はっここは……いきなりのファンタジー溢れる景観、エルフっぽい長耳。ここは異世界だな」
きりっと推察してみせる。長耳の美女が説明してくれて、まさにその通りだと分かる。
「異世界召喚をした理由は魔王討伐のためなのですが……勇者様、ご年齢をお聞きしてもよろしいですか?」
「二十七です」
「なんとそれは…………若すぎる! 赤子ではないか!」
エルフ基準で赤子認定され、まず俺は十分に育ちきるまで世話をされることになった。
「勇者様のお世話で忙しいというのに、魔王はうっとうしい……。このままでは勇者様が無事成長できぬではないか!」
「長! 我らに魔王討伐をさせてください! それをなした暁には、このわたくしめに勇者様のお世話をするお役目をください!」
「勇者様のお世話役は我が娘の役目だ! 決して譲りはせぬ! ただ魔王討伐はしてこい! 幼き勇者様のために!」
俺は成人済みだということは信じてもらえなかった。エルフはエルフ以外の人種に興味なく、俺のような短い寿命の人間の存在は知らなかった。魔王率いる魔族も長寿だった。
「長! あの邪魔な魔王は討伐しました! そんなわたくしめには勇者様のお世話をするのが相応しい―――」
「ええい、魔王だけでなく残党の魔族も討伐してくるのだ! 幼き勇者様が世界を知りたいと言っておるのにも関わらず、残党のせいでのびのびと成長が―――」
俺は成人済みだと説得するのは諦め、悠々自適だった。異世界に来たからには、ファンタジーを味わいつくす。
「長! 残党を狩りつくしました! わたくしめに勇者様のお世話―――云々」
「お前の入り込む隙間などない! 儂だって世の悪を知らない純粋な勇者様のお世話をしたいのに―――云々かんぬん」
俺は甲斐甲斐しく世話されながら、のびのびと異世界を堪能する。
エルフ的には未成年だがこれだけは説得して、長の娘と結婚もできた。世界を見て回った後は、エルフの里で悠々とした老後を過ごす。
「勇者様、ご加減はいかがですか」
「ああ、とってもいいよ。…………あのさあ、もう俺お爺ちゃんだから、勇者様って呼ぶのやめてくれない? 結局儂お世話されただけだし」
「うふふ。これからもお世話しますよ、勇者様」
なんかよく分からないが可愛がられて、危険な魔王討伐もすることなく、安泰な人生を送った異世界生活だった。
こんな人生なら、異世界召喚は悪くない。