最終話 さすがにもう一滴も出ないぞ
最初はティエナで、そのあとにガード部分に目とかがあるっぽいと教えられたレイシャルラとミューリールが続く。
「愛しているわ、マーラ」
「私も、あい……しています……」
「私だって、あの、駄目です。言えません!」
「チッ! 仕方ないな。じゃあ二人分でもオーケーだ。滾ってきぃぃたぁぁぁぜえぇぇぇ!」
マーラの中で欲望が暴走気味にふくれあがる。半裸の女性に愛を囁かれたのだ、男なら張り切って当然だった。
「ミューリール、貴女は離れていてください」
扇情的な格好ではあるが、愛の言葉を囁けなかったせいで他の二人よりも滾らせ度合いが劣る。
レイシャルラの忠告に従ってミューリールはすぐに離れたが、黙って見物しているつもりはないみたいだった。
再び交差した両手を上にして、ランク四の神聖魔法ソードオブジャスティスの詠唱に入る。
自らのマナをすべて使ってでも、援護してくれようとするミューリールを見た瞬間、マーラは歓声を上げた。
「ひゃっほう! 両手を上げてるおかげで、誰よりも丸見えだぜ。大きさだけじゃなく、形も良いとは最高だな!」
自分がどのような状態なのか気づいたミューリールは、急速に羞恥を蘇らせ、反射的に手を振り下ろして胸を隠す。
「ひいっ! 見ないでくださいっ!」
その結果、いやらしい視線を送りつけた主にソードオブジャスティスを放ってしまった。
「う、嘘だろ! いくらなんでやりすぎ――ぎゃああ!」
ティエナとレイシャルラに盾とされたマーラは、ランク四の聖魔法をまともに食らった。これで人生は終わりかとも覚悟した。
けれどやってきたのはダメージではなく、むしろ体の奥底からこみ上げてくるような力だった。
「な……!? そんなことがありえるなんて……」
初めてディグルの顔に驚愕が満ちた。
「放出したマナの代わりに魔法の聖なる力を取り込んだ? 信じられない。現にさっきは……そうか! これも例のドラゴンの仕業か!」
「なんかあの魔神が色々言ってるけど、どうなってんのよ!?」ティエナは慌てる。
「俺が知るか。ただ、おかげで聖力が漲ってるのだけは確かだぜ。これなら聖なる力もぶちかませる。必殺の聖射だ! 今がチャンスだ、すぐにでも俺を聖射させろ!」
「え……!? なんか、素直に頷きにくい響きの必殺技なんだけど……」
「聖なる力が満ちてる今がチャンスなんだよ。左右から俺を挟んだ刺激で聖射だ。奴を逝かせてやれ!」
微妙な戸惑いを見せるものの、それこそ背に腹はかえられないと判断したのだろう。言われた通りに、ティエナとレイシャルラはマーラの左右へ移動した。
「恥ずかしいですが、悪魔を滅せるのであれば仕方ありません。ですが……二度とごめんです!」
「同感だけど、お父様とお母様の仇を討てるのなら我慢するわ。滾らせて聖射させてあげるから、イッちゃいなさい!」
「おい、ティエナ。勘違いするなよ、逝かせるのは俺じゃなくて奴だ」
「もうどっちでもいいわよ、この際。レイシャルラさんも準備はいいわね!」
レイシャルラが頷き、ティエナと一緒にふくよかなマシュマロをマーラに押しつける。
二人の肌を斬らないように注意するマーラは、まるで顔を左右から挟まれているような感覚に脳みそを蕩けさせた。
「くっ! さすがに今度のはマズい。発動させる前に殺させてもらうよ!」
「させません! ホーリーライト!」
残っていた最後のマナを使い、ミューリールは聖なる光をディグルへ浴びせた。
「この程度の攻撃が僕に効くと思ったのかな!?」
「思ってません。でも不意打ちになったおかげで、僅かながら時間を稼げました。私の役目はそれで終わりです」
「き、貴様あァァァ!」
怒りの咆哮を発したディグルが、黒い弾丸でミューリールを撃ち抜こうとしたその時、二人の女に挟まれたマーラのマナが爆発した。
「滅しなさい、魔神よ」
「これで終わらせる! お父様とお母様の無念を思い知るといいわ!」
ティエナとレイシャルラの声が重なる
「――イッけえぇぇぇ!」
「――イッてしまいなさい!」
「これで今日は打ち止めだ! 盛大にぶちかましてやる! うおらあァァァ!」
マーラが命名した聖射に、滾った従来のマナもプラスされ、放たれたオーラは黒一色ではなく虹のように煌めいていた。
天井から降り注ぐ光のように地下室全体を七色に染め、魔神であるディグルの全身を焼き尽くす。
「そ、そんな! うああっ! ち、ちくしょう! ぼ、僕はまださらなる知識を……ぐあ、あああ……ぎいィィィ!」
断末魔の悲鳴が響き終わると、ディグルの姿も消えていた。
「やっと、終わったな……さすがにもう一滴も出ないぞ。疲れた……」
「何言ってんのよ。美女のおっぱいをたくさん見られたんだから、大満足でしょ。ご褒美もあげたし、これで約束は果たしたわね」
余韻に浸ることもなく、ティエナはさっさと服を着始める。レイシャルラとミューリールも同じだった。
「ま、待て。いくら何でも味気なさすぎるだろ。こういう時は余韻に浸りながら愛のトークをするのが一般的じゃないか!」
「残念ですが、魔神を倒した以上、貴方は用済みです。溶岩で焼却するのが世のためです」
「賛成です」
瞬く間に衣服を整えた三人が、氷よりも冷たい目でマーラを見る。あんなに頑張ったのに、あんまりな仕打ちだった。
マーラを持っていたティエナが、地下室の真ん中へ強引に突き立てた。
「ま、両親の仇を討たせてくれたし、溶岩は許してあげる。ただし、ここに封印させてもらうけどね」
「……本気で?」
「ええ、もちろん。でも、たまには様子を見にきてあげるわ。私がこの家を追い出されない限りはね」
「その心配はありません。教会から王国へ今回の件について進言をさせていただきます。王位継承者に戻るのは難しいと思われますが、この屋敷で暮らし続けるくらいは可能でしょう」
助かるわと、ティエナはレイシャルラへ頭を下げた。その間もマーラはひとりぼっちである。
「仕方ないな……とは言わないぞ! お互いひとりなんだし、傷を舐め合って生きていこうじゃないか。お風呂も一緒。寝る時も一緒。これでもう寂しくないよ、ハニー!」
「うわ、気持ち悪い。早く退散しないと」
自分を温めるように、両腕を擦りながら地下室を出ようとするティエナだったが、レイシャルラとミューリールを先に行かせたあとで、最後に一度だけ振り向いた。
「またね!」
初めて見る、屈託のない笑顔だった。
「……フン。ここが俺の部屋だと考えれば、悪い気もしないか」
誰も居なくなった地下室で、ポツリと呟く。
言葉を返す者は誰もいない。
――はずだった。
「そうですね。色々とお話をしたいこともありますし」
「ティエナがいない今のうちだな。生前はお人好しと言われていたが、娘を半裸に剥かれて笑っていられるほどではないのだよ」
真っ暗な空間にぽっと浮かぶ白い人影。見たことのない中年の男女は、揃ってこめかみに怒りマークを浮かべていた。
「はじめまして、ティエナの母です」
「ティエナの父だ。これからよろしくお願いするよ」
マーラの同意を得ないうちに始まる、ティエナの両親だと名乗った幽霊による説教と叱責。
孤独は感じないかもしれないが、決して好ましい状況ではない。
「大丈夫ですよ。お互いに時間はたっぷりあります。今後もティエナに関わるつもりなら、是非とも真人間になっていただかなくては。剣ですけど」
にっこり笑うティエナの母親には、威圧感が満ち溢れていた。
例えようのない恐怖を覚えたマーラは、ティエナに届けとばかりに叫ぶ。
「ご両親への挨拶を、俺ひとりにさせるなあァァァ!」




