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第32話 さあ! 俺に愛を注いでくれ!

 レイシャルラとミューリールが二人でマーラを握る。能力強化の影響は分割されるのではなく、滾り度に応じてそれぞれ個別に与えられる。


 言い換えれば、二人分の滾り度が同時にマーラの中へ存在していることになる。


 つまり、威力は先ほどの倍。


「これぞまさしく夢の三人プレイ。パワーアップした共同作業でカチコチだあぁぁぁ! さあ、声を合わせて頼むぜ」


 羞恥の涙を瞳に滲ませながらも、ディグルを倒したい一心で、レイシャルラとミューリールが声を揃える。


「イッてしまいなさい!」


「イッてください!」


 二人によって滾らせられたマーラのエネルギーは確実に先ほど以上。これなら倒せると、敵を消滅させる暗黒の光に変換されたマナを全力で放つ。


「食らいやがれえぇぇぇ!」


 放出される暗黒の闇は、光と同等の速度で敵に迫る。スピードで回避できる存在は皆無だった。


 逃げようもなく全身を絡めとられたディグルが悲鳴を上げる。いかに魔神といえど、力が弱っている状態では耐えられるはずがない。


 マーラだけでなく、レイシャルラやミューリールもそう思っていた。だからこそ、恥ずかしい思いも我慢したのである。


「ぐ、ううう……やって、くれたね。さすがに少し、余裕を見せすぎたようだ。だけどこれで理解できたかな。君たちの切り札でさえも僕を消滅させるには至らない。もしかしたら闇の波動では不可能かもしれないね」


 食らった一撃でほぼ裸となった上半身には傷ひとつない。しかしディグルは間違いなく弱っている。けれどそれはマーラも同じだった。


「嗚呼、人はどうして争うのだろう。何故に世界は悲しみに満ちているのだろう。すべてが空しい……」


「マ、マーラ!? 何を燃え尽きているのですか。まだ戦いは終わっていないのですよ」


「無駄だよ」ディグルが含み笑いをした。「あれは精神の消耗が大きいからね」


 近づいてくるディグルを警戒し、ミューリールを背中に隠してレイシャルラが後退りする。


「知らないのかい? 彼の技は自身のマナを使って、すべての生命を奪う暗黒の波動を撃っているんだよ。使用すればマナは一時的に空っぽになる。再び溜まるまでろくに役には立たないだろうね。生気がないというより、極端にあらゆる事象に対する意欲が消滅しているのはそのせいさ」


「すべての生命を奪うというのであれば、どうして貴方は平然としているのですか」


「平然とはしていないよ。肉体は無傷でも魂にダメージを負っているからね。さっきの一撃は本当に見事だったよ。現在の僕のマナを上回っていた。けれど僕は魔神。そこいらの悪魔と一緒にしないでもらえるかな。暗黒エネルギーのみで倒すつもりなら、蓄積ではなく一回でさっきの五倍は用意してもらわないと」


「……さすがに言いすぎではないですか?」


「なら、試すといいよ。ただ次も不発に終わると、君たちの負けはほぼ確定だ。一日に五回が限度らしいし」


 歩み寄るディグルに対し、レイシャルラは言葉に詰まりながら後退する。


「そもそもあの技は、彼が僕のマナを得た魔剣だからこそ可能なんだ。人間でいうところの魔法と同じ仕組みだからね。もっとも彼の場合は大気のマナを使用するのではなく、女性の淫気で補っているみたいだけど。不思議だよね。手に入れたら、色々と実験しないと。フフフ、楽しみだな」


 屈託のない笑みにレイシャルラがおぞましさを覚える。先ほどから冷や汗が止まらず、これほどの恐怖を感じているのは生まれて初めてだった。


 規格外の敵が相手では、鍛えてきたレイシャルラの聖なる力も役に立たない。マーラが調子を取り戻さない限り、どうにもならなかった。


「これ以上、悪魔に大切な人を奪わせません!」


 レイシャルラの背中に守られていたミューリールが、決意に満ちた声を上げた。両手を前に出し、交差させて上に伸ばす。


「またランク四のやつかい? 今の弱った僕の魂なら滅ぼせると思ったのかな。悲しい勘違いを優しい僕が正してあげよう。ほら、撃ってごらん」


「この一撃に私のマナをすべて注ぎます。倒せるとは思っていませんが、時間は稼げるはずです」


「なるほどね。では、少しばかり抵抗させてもらおうかな」


 ディグルが右手を顔の前に出し、空気を弾くように人差し指を動かした。直後に出現した飴玉のように小さな黒い球体が、ミューリール目掛けて飛んだ。


 なすすべなく吹き飛ばされたミューリールが、半裸で石床を転がる。あまりにも圧倒的な一撃だった。


「何を驚いているのかな。僕のマナを与えられたマーラと、似たような技を使えても不思議はないよね。ほら、避けないと死んじゃうよ」


 マーラが滾っていれば強化された身体能力を活かして、ミューリールを助けられる。しかし今のマーラは賢者モードに突入しており、レイシャルラが期待するような力は発揮できなかった。


 罪を犯したとはいえ、妹のように思っていたミューリールの窮地を放ってはおけない。レイシャルラはマーラを床に置き、自身の服装も忘れて白銀の剣を手に持つ。


 抱き締めるようにミューリールを守り、自身の背中を盾にする。真っ白な肌に次々と黒い弾丸が命中し、悲鳴とともにレイシャルラも吹き飛ばされる。


「所詮は人間だね。君たちが今まで悪魔や魔神である僕と対峙していられたのは、すべてマーラのおかげなんだよ。普通ならもっと感謝して、どのような行為でも捧げるよね。そうすればもっと力も得られたろうし。少しばかり、いいや、かなり理解できないね」


「当たり前でしょ。アンタは魔神なんだから」


 マーラのすぐ側で声が聞こえた。失意のどん底から、ティエナがいつの間にか立ち直っていた。


「これはこれはティエナ姉様。父様と母様の葬儀はもう済んだのかな。出席できなくてごめんね」


 悪いとは微塵も思っていない、獲物を見つけた蛇のような笑顔だった。


 そんなディグルを前にしても、ティエナは取り乱さなかった。


「気にしないで。他人のアンタがいても、不愉快なだけだろうしね。それに次はアンタの番だもの。色々と準備で忙しかったでしょ」


 ティエナには狂気とは違う、どこかすっきりとした様子さえあった。


 右手でマーラを掴んだと思ったら、いつまで惚けてるのよと地面へ叩きつける。


「ぐおっ!? ずいぶんと久しぶりにこの痛みを感じた気がするな」


「たまには苦痛もいいものよ。滾ったでしょ?」


 微笑むティエナに、マーラは「アホか」と告げる。


 腹立たしさよりも妙に嬉しい。軽口を叩いたティエナの普段と変わらない姿に、不思議な安堵感も覚えた。


「なら、滾らせてあげるわ。私が落ち込んでる間に、レイシャルラさんとミューリールさんに頑張らせちゃったみたいだしね」


 レイシャルラやミューリールと同じように、ティエナも服を脱ぐ。


「私たち家族をもてあそんでくれた魔神に復讐できるなら、おっぱい程度いくらでも見せてあげるわよ!」


 上の下着も自ら剥ぎ取り、出し惜しみするようにしていた双丘の全貌をとうとうマーラの前で露わにしてくれた。


 レイシャルラとミューリールも立ち上がり始めている。見渡せば半裸の女が三人。揺れるおっぱいが六つ。


「これだ……これこそ俺が求めていたハーレムだ。剣になったのは誤算だったが、言わせてもらおう。異世界は最高だと!」


「はいはい。最高なのはいいけど、さっさと滾ってよ。勝手に私の愛情を操作してくれたチビ魔神をぶちのめさないと気が済まないんだから!」


「ずいぶんと嫌われたものだね。あれだけ僕を愛してくれていたのに、ねえ、ティエナ姉様」


「フン。偽りの愛情を手に入れて得意気か。つくづくお子様だな」


 ティエナの代わりに応えたのはマーラだ。差す指はないが、男らしくビシッと指摘する。


「本物の男ってのは、口説いてその女を手に入れるもんだ。この俺のようにな!」


「私、口説き落とされた記憶ないんだけど」


「私もです」


「あ、あの、同じくです」


 ティエナだけでなく、レイシャルラやミューリールにも否定されてしまったが、マーラは挫けない。


「あーあ、俺、拗ねちゃった。三人に愛してると言ってもらわないと、滾れないなー。このままじゃ全滅だなー」


「……半ば脅しも同然に手に入れる愛情も偽りではないのかな?」


「だからお前はお子様なんだよ。この違いがわからないうちは、本物の男になれないのさ。さあ! 俺に愛を注いでくれ!」


 微妙そうな顔でそれぞれを見ていたティエナたちだったが、やがて大きなため息をついた。仕方ないと割り切り、それぞれがマーラのガード部分に唇を寄せる。

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