第31話 イエス、ダイナマイッ!
「たいした力だけど、この程度じゃ僕には通じない。レッサーデーモンなら一撃で消滅させられるだろうけどね。ちなみにグレーターデーモンが相手でも、致命傷を与えるのは難しいと思うよ。つまり故郷を失った君の怒りと努力では、ここが限界ということさ」
向かってきた光の剣を右の手のひらで受け止める。ニヤニヤするディグルの余裕ひとつ崩せぬまま、光の剣は闇の力に押されて向きを変える。すなわち術者であるミューリールの方へと。
「特別に僕の力もブレンドしてあげたよ。美味しく飲み干してごらん」
ランク四の聖魔法を発動させ、肩で息をしているミューリールに、跳ね返された光の剣を回避する力はない。このままでは確実に命中する。
「ミューリール、伏せなさい!」
マーラを持ったレイシャルラが、ミューリールを守ろうと彼女の前へ進み出る。
「マーラ。お願いします、受け止めてください」
「いや、受け止めろって言ったって、俺はまだお前に滾らせてもらってないし――うぎゃあァァァ!」
グチグチ言っている間に、ソードオブジャスティスの威力をマーラは全身で受け止めるはめになった。
全身がバラバラになりそうな苦痛に悲鳴を上げ続けるマーラの後ろでは、両手で支えているレイシャルラも押し寄せてくるダメージに唇を噛んでいた。
普段は凛としているレイシャルラだけに、まるで悪の組織に捕まって拷問をされている時みたいな顔に見えた。
こんな時にまで、そんなことを考えてしまう自分をさすがのマーラも悲しく思ったが、難局を打開するには効果的な手段だった。
勝手に滾ったおかげで剣内に性のエネルギーが満ち、跳ね返されたミューリールの神聖魔法になんとか堪えきれた。
「おい、レイシャルラ。俺は盾じゃないぞ……」
「すみません。理解してはいるのですが、咄嗟の出来事だったのであれしか方法を見つけられませんでした」
珍しく素直に謝罪され、それ以上何も言えなくなって視線を動かしていると、マーラの両目は絶望の涙を流すミューリールを見つけた。
「そ、んな……必死に習得した神の刃が通じないなんて……」
今にも全身の力が抜け落ち、倒れそうになるミューリールへ、ディグルがとどめの台詞を放つ。
「神の刃には程遠いね。あれで僕を倒せると思ったのなら、さすがに舐めすぎだよ。ティエナの両親やトルドール、それに君の故郷の人たちの命のおかげで、多少は力が回復してるんだ」
「うあ、あ、ひぐっ、ううう……」
「泣くな、ミューリール!」
号泣しそうなミューリールを、マーラが強い言葉で支える。
「見てろ、俺が仇を取ってやる。レイシャルラ! 気に入らないあの野郎をぶっ潰すために力を貸せ!」
協力を求められたレイシャルラは、軽く閉じた瞼をすぐに開いて、瞳へ決意の炎を宿らせた。
「わかりました。貴方が魔神を滅し、ミューリールやティエナさんのご両親の仇をとってくださると言うのなら、私は喜んで羞恥にまみれましょう」
白銀の胸当てを外し、神聖騎士の誇りと象徴である改造された修道服を脱ぐ。下着姿になったレイシャルラの行動に一切の迷いはなかった。
人前で脱ぐ恥ずかしさで頬を赤くしながらも、レイシャルラは堂々と立つ。どうぞお好きに見てください状態だ。
「遠慮なく、レイシャルラで滾らせてもらうぜ!」
散々お預けされてきたレイシャルラの肢体である。下着姿とはいえ、興奮を煽るには十分すぎる素材となった。
「うおおォォォ! 滾ってきたぜえぇぇぇ!」
「うん、確かに凄い力の盛り上がりだ。さすが僕のマナが源になっているだけはあるよ。でも、それだと一割も使えていないんだけどね」
「ほざけっ! いくぞレイシャルラ!」
頷いたレイシャルラが駆け、一気にディグルとの間合いを詰める。無駄のない、流れるような動きから放たれる剣技はティエナとは段違いだ。
しかしディグルにはその一撃一撃を、余裕をもってかわされてしまう。空を切るばかりの攻撃に、レイシャルラの息は上がり、動きに疲れが見え始める。
「誰でも自由に僕の力を使わせないためかもしれないけど、ドラゴンも甘いよね。能力解放の条件が特殊すぎて、満足に力を発揮できていないじゃないか。もしかしたら、それが狙いだったのかもしれないけど、これだとあまりにもつまらない。少し、サービスをしてあげるよ」
そう言うとディグルは腕を伸ばし、反撃を行ってきた。マーラのおかげで強化されているはずなのに、その動きは楽々と神聖騎士のレイシャルラを上回る。
剣戟の隙間へ器用に腕を入れ、下着しかないレイシャルラの上半身に触れる。そのまま心臓をひと突きにするつもりかとも思ったが、ディグルの狙いは命ではなかった。
「ほら。これでもっと滾れるよね」
底抜けに明るい口調で言ったディグルが、剥ぎ取るようにしてレイシャルラの純白のブラジャーを奪ったのである。
押さえつける役目の布地が消失すれば、二つのやわらかなふくらみが姿を現すのは当たり前。反射的にそちらを見たマーラは、双丘の全貌をはっきりと目撃する。
「イエス、ダイナマイッ!」
無意識に叫んだマーラの剣身が熱くなる。耳孔に響くレイシャルラの悲鳴も、エネルギーの充填速度をアップさせる。
「ううう……! こ、この恨みや恥ずかしさはすべて魔神にぶつけます。ティエナさんの実弟ではなかったのです、配慮もいりませんっ!」
慌てて左手で乳房を隠したレイシャルラが、右手一本で持ったマーラの剣先をディグルへ向けた。羞恥の涙を滲ませた瞳には、わかっていますよねという強いメッセージが書かれていた。
「ああ、わかっているとも! 目撃した生のおっぱいで、俺のビートは八百倍ィィィ!」
興奮のしすぎで意味不明な言動をしてしまっているが、そんなのは気にしない。
昂る感情そのままに、マーラはディグルを滅ぼすべく、溜まってきたマグマのごときエネルギーを一点に集中する。
「ティエナがグレーターデーモンを倒した時のことは覚えてるな。あの決め台詞が必殺技発動の条件だ。遠慮なく俺に発射させてくれ!」
「な、何か実行が躊躇われる言動をされているような気もしますが、今回ばかりは我慢します……! 不愉快な魔神を滅するために!」
意を決したレイシャルラが、さらに顔を赤くしながら口を大きく開いた。
「これで終わりです。悪しき魔神よ。元は己のマナだった力を浴びて……その、あの……い、イッてしまいなさい!」
「いよっしゃあァァァ! 食らいやがれえェェェ!」
溜まったマナを一気に爆発させる。水平に伸ばされていた剣身から立ち上る漆黒のオーラが、凶悪な勢いで前方に立つディグルへ覆い被さろうとする。
闇一色のカーテンに包まれそうになっても、ディルグはまったく慌てない。歓迎するように両手を広げ、あえて何もせずに飲み込まれた。
手ごたえはあるはずなのに、どうにも倒した気がしない。そう感じたのはマーラだけではなかった。
「グレーターデーモンを倒した時よりも、威力はあったはずです。あれで倒せなければ……」
レイシャルラはいつになく不安そうで、マーラを握る指が小刻みに震えている。
「素晴らしい」
充満する闇が振り払われる。現れたディグルは、左手で真横に切ったあとみたいなポーズで立っていた。服こそボロボロだが、肉体へのダメージはあまりないように思えた。
「溜めこんだマナを一気に放出するというわけだね。たいした威力だよ。けれど残念。僕を消滅させるには、僕の命よりも多くのマナが必要になる。今のでは不十分だったね」
「ならばもう一度放つまでです」
「威勢がいいね。でも、できるかな? 女性の君は何度でも放てるかもしれないけど、彼には結構な負担がかかるみたいだよ」
レイシャルラの視線を感じたマーラは、素直に限界について話す。
「最高記録は一日五回だったので、頑張ればそこまではイケそうだな。今日はあと三回だ。しかし、連続は少し厳しい」
「少々意味不明な言動ではありますが、今はそれどころではありません。奴を滅ぼすために頑張ってください」
「いや、でもな。あれだけ盛大に発射したあとで、また滾れってのは無理があるぞ」
魅力的なレイシャルラの肢体を眺めても、先ほどみたいには滾ってこない。決して口にはできないが、やはりあの大技はアレに似ている。
「それなら! 私もお手伝いします。あの悪魔にマナを与えてしまった責任は、グレーターデーモンを召還してしまった私にもあります。弱い心を見抜かれ、いいように使われたままでは終われません!」
恥ずかしがり屋で、マーラを嫌っていたはずのミューリールが勢いよく修道服を脱いだ。
上下ワンセットだったのもあり、白無地の下着が顔を見せる。次いで決意が揺らがないうちにと、ブラジャーを自らの手で剥ぎ取った。
「ミューリール! いけません。自分を大切にしてください」
「いいえ、私にも手伝わせてください」
マーラの目の前で、ひしっと抱き合う二人。剥き出しの乳房が密着し、押し潰されて形を変える。
浮かぶ汗が谷間を滑り落ちるのはありえないくらい扇情的で、先ほど大量の魔力を放出したばかりだというのに、マーラの剣身が熱くなってくる。
「咲き誇る百合の花を見せられたら仕方がない。俺も覚悟を決めるぜ。賢者から再び勇者に戻る覚悟を!」
「またしても意味不明ですが、やる気は戻ったみたいですね。ではミューリール、貴女にもお手伝いをしてもらいます」
「はいっ!」




