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第2話 待って、置いていかないでぇ!

 マーラ自身の目で確認はできないが、魔剣らしくマーラの全身からは漆黒のオーラが放出されるようになっていた。


 真の力を発揮し始めた魔剣。


 現在のマーラをそう認識したレイシャルラは「ああ、もう!」と叫び、右手に持っていた白銀の剣を鞘におさめた。


「ミューリール、時間を稼いでください」


「わかりました。ホーリーライト!」


 ミューリールの持つワンドから放出された聖なる光が、直線的に伸びてレッサーデーモンの全身を照らした。


 回復や支援効果の多い聖魔法において、数少ない攻撃魔法だった。魔を滅するために作られただけあって、レッサーデーモンには通常よりも効果を発揮する。


 それでも相手は並の魔物ではなく、悪魔に分類される種族。下級種であろうとも、ホーリーライト一撃では足止め程度のダメージしか与えられない。


 レッサーデーモンの足止めを指示されたミューリールは、手を休めずに二発目のホーリーライトを放つ。詠唱中は足を止める必要があるので、距離を取っては魔法を使うの繰り返しだ。


 イラついた様子のレッサーデーモンが、ミューリールに敵意を向ける中、レイシャルラが洞窟の横で横たわっていたマーラを手に取った。


「おおうっ! そんなに強く握られるとたまらないぜ」


「くっ……どうして私は、こんなにも不快で下品な剣を手に取ってしまったのでしょうか……!」


 後悔先に立たずと思っているのかもしれないが、現状を何とかするにはマーラの力が必要となる。


「滾って敏感になりだしてるから、握られてるだけでも結構効くぜ。やるな、レイシャルラ」


「黙っていてください!」


 レイシャルラはもう聞きたくないとばかりに首を左右に振り、マーラを片手に再びレッサーデーモンと相対する。


 背後へ新たな標的とされたミューリールを隠し、魔剣としての能力を解放させつつあるマーラを構える。


「聞け、レイシャルラ。どうやら俺は滾れば滾るほど力を発揮できるようだ。これは魔剣としての特性みたいなものだな」


「……本音は聞きたくなどありませんが、一応質問をしておきます。どのような方法で、貴方を滾らせるというのですか?」


「レイシャルラが生まれたままの姿になって、お尻の割れ目に俺を挟めば完璧だ」


「素直に聞いた私が愚かでした。ああ、神よ。この糞ったれ――もとい、呪われた魔剣を使う私をどうかお許しください」


 神聖騎士に似合わない言葉が一部混じっていたが、その程度のことを気にするようなマーラではなかった。


「さあ、実行するんだ。目の前の悪魔を倒すために!」


「黙りなさい、不埒者! 悪魔とともに滅しなさい!」


「おい、ちょっと待て! 一体、何を――うわあぁぁぁ!」


 質問が終わる前に、マーラは宙を舞った。正確には、槍のように投擲されたのである。


 よほど腹が立っていたのか、もの凄い速度で剣先がレッサーデーモンに向かう。


 槍で弾こうとするが、半滾りで魔力の宿ったマーラにその程度の妨害は意味をなさない。


 逆に槍を弾き飛ばす。放たれる漆黒のオーラの影響で、元々黒かった剣身がより濃度を増したように見えるマーラは、深々とレッサーデーモンの胴体へ突き刺さった。


 生物であれば心臓はある。それは悪魔も同じ。不死の存在であろうと、核と呼ばれる部位を破壊されれば消滅する。


 誰に教わらなくとも、転生した時点でマーラはわかっていた。不思議だったが、今では人生はそんなものだと受け入れている。


 鳩尾のすぐ上、正確に心臓部を貫かれたレッサーデーモンが苦悶の表情を浮かべていたのは、ほんの数秒だった。


 突き刺さったマーラを両手で抜こうとしているうちに、体がどんどんと黒い霧みたいになって四散していく。


 消滅する際の悪魔がどうなるのかは知らなかったので、マーラにとってはちょっとした驚きである。


「凄い……忌むべき悪魔を、あんなにあっさり消滅させるなんて……」


 童顔で可愛らしいミューリールが、胸の前で十字架のネックレスを抱き締めた。


 耳はないがマーラにもしっかり聞こえた。胸を張りたいが、生憎と魔剣のマーラは突き刺さっていたレッサーデーモンが消えると、何もできずに地面へ落ちるしかなかった。


「ふふん。俺の力を思い知ったか。半滾りでもあの威力だ。完全に滾らせればもっと凄いぞ?」


「も、もっと? すべての悪魔を消滅させられるほどにですか?」


 普段はどことなくおっとりした感じのミューリールが、一瞬だけ真剣な顔つきになった。短い付き合いだから当然かもしれないが、マーラが見たことのない表情だ。


 どう答えるべきか悩んでいると、レッサーデーモンを倒し終えて満足げなレイシャルラが、ミューリールの肩を抱いた。


「ミューリール、よく頑張ってくれました。今回は普段の魔物と違い、下級種とはいえ初めての悪魔が相手でした。なんとか消滅させられたのも、貴女のおかげです」


「そんな……レイお姉様のお役に立てて、私こそ光栄ですわ」


 どこか凛としたレイシャルラに対して、ミューリールの口調は丁寧ながらもやはりおっとり気味だ。


 だが、それがいい。心の中で理由もなく頷きながら、マーラはミューリールを改めて見る。


 ショートボブの髪型に、緑色という組み合わせがなんとも可愛らしい。ブルーアイのレイシャルラと違い、ミューリールの瞳は透き通るような茶色だ。それがまた子猫みたいな愛らしさを演出し、実にたまらなく男心をくすぐる。


 マーラはすでに魔剣で、男性という概念から外れた存在になってしまっているが、心の底からそう思う。


 何より特筆すべきは、今も絶賛修道服を盛り上げ中のたわわな果実だ。上半身で豊かに育ち、収穫時期を迎えている。マーラに手があれば、間違いなくレイシャルラの目を盗んで刈り取りに走っていただろう。


 後先すら考えられなくなるほど、ミューリールのふくらみは驚異的だ。最終兵器と表現してもいいくらいである。


 いわゆるモデル体型のレイシャルラとは異なり、身長が低いのもミューリールの魅力のひとつだ。小さくて童顔で巨乳。天に三物を与えられた贅沢者である。


 だからといって、レイシャルラに魅力がないわけではない。スリットから覗く生脚の太腿の瑞々しさはもちろん、すらりと伸びる膝からふくらはぎにかけても絶妙かつ素晴らしいラインを描いている。マーラに手があれば、是非とも肌の上を滑らせて楽しみたいところである。


 胸の大きさはミューリールに負けるものの、世間一般的な大きさはある。巨乳も素晴らしいが、手のひらにすっぽり収まるサイズというのも、揉み応えがあってよさそうだった。


「レイ様……なんだか、邪悪な気配を感じますわ」


「発生源を詳しく調査する必要はありませんね。あそこに決まっていますし」


 レイシャルラがそう言って、マーラにジト目を向けてくる。その瞳はどこまでも冷徹だ。情の欠片すら感じられない。


「レッサーデーモンも倒したことですし、このまま洞窟に封印していきましょう。初めての悪魔退治に不安を覚えたとはいえ、正体不明の魔剣に頼ろうとした私が愚かでした」


 冷たく言い放ったレイシャルラの態度に、ないはずの背中がなんとなく寒くなったようにマーラは感じた。


「は、はは。冗談きついぜ。熱血に滾る俺がいなければ、今後は不安だらけだ。そうだろ?」


「貴方を手にしていた方が、もっと不安だらけになりそうな気がします。よってこの場に放置――もとい、封印をさせていただきます」


 ミューリールから手を離したレイシャルラが、薄ら笑みを浮かべながらマーラの元へやってくる。


 何の感慨もなさそうにグリップを掴むと、決して柔らかくはない床岩にマーラを突き刺す。


 痛いと抗議しても、気にするそぶりすら見せない。レイシャルラの顔に浮かんでいるのは、シャワーを浴びたあとのような爽快感だけだった。


「好きこのんで、このような洞窟の奥にやってくる者はいないでしょうし、これで問題はないですね」


「大ありだよ、こんちくしょう。俺と一緒に風呂に入って、尻の割れ目に挟んで洗ってくれる約束はどうした!」


「そのような約束をした覚えはありません! いい加減にしてください! 暇さえあれば卑猥な話ばかり……もう、うんざりです!」


 親の仇でも見るような目を向けたあと、レイシャルラはミューリールを連れて足早にこの場を立ち去ろうとする。


「待って、置いていかないでぇ!」


 捨てられそうな女が、男の足元にすがりつくような声を上げてみたが駄目だった。よほど怒っているらしく、レイシャルラはマーラの言葉にまったく耳を傾けない。


 何を言っても、マーラの声は空しく洞窟内に響くだけだ。剣に転生して手足を失ったせいで、駄々っ子みたいに暴れることもできない。


「マジか。本当に置いていきやがった……」


 呆然と呟くマーラ。左右を見渡してみても、人っ子ひとり見当たらない。


「そういや、前世でもぼっちだったな」


 寂しいのでひとり言を呟く。


 マーラはずっと剣だったわけではない。元は人間、しかも、こことは違う世界の住人だった。


 残っている記憶の中に、よく自室でテレビゲームをしている自分の姿があった。しかもちょっとエッチなのが多い。


 元々が超のつくスケベなのだから、エロを求めて当然だった。加えてラノベやアニメも好きだった記憶がある。

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