第17話 間近で見る健康的な胸元はまさに絶景。男なら一度は見てみたい三大名所のひとつだ!
通常の状態とは違うマーラを見て、ようやくティエナはどうして闇の中でも視界を得られたのかを悟る。
だがマーラのおかげで、人間では難しいほどの夜目の力を発揮できているのは紛れもない事実。怒るに怒れない。そんな表情を浮かべるしかなかった。
「体も軽くなったような感じがするし、やっぱり持ち主に身体能力向上のスキルを与える特殊効果を持ってるのね」
「そうみたいだな。もっと感謝してもいいぞ。特別に俺におっぱいを見せる許可をやろう」
「丁重にお返しするわ」
冷徹に申し出を却下してきたティエナを前に、マーラはいいのかと口端を歪める。ニヤリとしても相手には伝わらないだろうが、こういうのは気分の問題でもある。
不安を覚えたのか、意味ありげに言われたティエナが反射的に身じろいだ。足を滑らせて転びそうになるのを堪えた際、唐突にマーラの剣身が柔らかい部位にぽにゅんとタッチした。
「おうふっ。もふっ、もふふっ」
「ちょっと、気持ち悪い声……って、これ何!?」
驚いたティエナが周囲を慌てて見渡す。先ほどまで暗いとしか認識できなかった場所が、両目の中に明かりでも得られたかのようにはっきり見えるようになったのである。
「いやあ、至福至福。くうう、顔をグリグリできないのが恨めしい!」
卑猥な文句を言うマーラをジト目で眺めながらも、ティエナはため息をつくだけで怒鳴ったりはしなかった。
「もしかして、これがアンタの見えている光景なの?」
マーラを胸から離したティエナが、ガード部分に目線を合わせて質問する。
「お前の視界がわからないから何とも言えないが、さっきよりもずっと夜目がきくようになってるな。明かりがついたのかと錯覚するほどだ」
「やっぱり。滾ったアンタが能力を上昇させるのに合わせて、持ち主である私も強化されていくんだわ」
「ようやく気付いたか。だからこそ、先ほどのいいのか、という言葉に繋がるんだ。今ならわかるだろ。俺が萎えればどうなるか」
うっとティエナが言葉を詰まらせる。理解できているのだ。マーラが萎えれば、自身へのプラスの効果も失われる事実に。
「このままだと萎えちゃうなー。そうなったなら、両親やディグルも救えないかもなー。大変だー」
「わざとらしく不安を煽るような口調はやめなさい。性格悪いわよ! アンタも魔剣なら、触れている空気で滾らせなさいよ」
「ふむ。今の無茶かつ優しさと愛情の欠片もない発言で、吾輩は一気に萎え萎えである」
「また変な言葉遣いを……って、ああっ! 本当に視界が悪くなってるじゃない。ちょっと! ここからが大事なんだから気合を入れなさいよ!」
ティエナが叱咤するほどに、マーラの萎えっぷりが加速していく。責められるのは好きでも、ドMというわけではない。怒られるよりは、エロく優しくされたいのが本音である。
「ちゃんと約束は果たしてあげるから、その時を夢見て頑張りなさいよ!」
「五十年後のティエナを夢見たら、余計に萎えるだろうが!」
怒鳴り返したマーラは、実際にほとんど欲望の熱を失っていた。高まるのも早いが、何もしなければ落ち着くのもあっという間だった。
「貴族の令嬢なんだ。男についてあれこれ知ってるだろ。もっとこう、上手く滾らせてくれよ」
「アンタ、貴族の令嬢を何だと思ってんのよ。娼婦じゃないのよ! 男性経験なんてあるわけないでしょ!」
「ということは処女か! 確かレイシャルラやミューリールもそうだったな。何気に異世界は処女率高いぞ。ばんざーい!」
「喜ぶより滾らせなさいよ! ほとんど見えなくなっちゃったじゃない!」
マーラの前に広がる闇の濃度に変化は一切ない。見えなくなった原因は、ティエナに与えられていた夜目の能力が回収されてしまったからだ。
再び得るには、スキルを付与していたマーラを滾らせるしかない。脅しても無意味。興奮度の上昇に合わせて、勝手に所有者が強化されるのであって、どうやっているかはまったく知らないのだ。
「だったら胸の谷間に俺を埋めるんだ。そうすれば一発で滾りまくるぞ」
「うぐ……で、でもっ! 胸から離したら、またすぐに萎えるじゃない。それじゃ、駄目なのよ!」
「なら全裸に――」
「却下!」
あれも駄目これも駄目で、力だけ寄越せという。とんでもない我儘ぶりに、マーラはわざとらしく息を吐いた
。
悪びれもせずに何よと見てくるティエナに、仕方なく妥協案を提示する。
「せめて胸元くらいは露わにしてくれ。洞窟では弟を守るために下着姿になったんだ。それくらいはいいだろ。俺だってだいぶ譲歩してるんだぞ」
「わかってるわよ! 時間が無いってこともね」
ディグルが何者かに攫われたのであれば、こうしている間にも危害を加えられている可能性はゼロではないのだ。弟想いのティエナが、放置しておけるはずがなかった。
やや悩んだあと、ティエナはすぐ横の壁にマーラを立てかけ、自由になった両手でドレスの襟元を縦に破いた。
露わになった谷間に、マーラの視線が吸い込まれる。下着姿よりも露出度は少ないかもしれないが、これはこれで趣がある。単純にエロければいいというものではなく、シチュエーションも大事なのだ。
囁く本能が欲望に火をつけさせ、ムラムラッとマーラの体温を上昇させる。汗ばみそうな熱気と興奮に包まれ、鎮まっていた男心が再び目を覚ます。
「間近で見る健康的な胸元はまさに絶景。男なら一度は見てみたい三大名所のひとつだ!」
「何をわけのわからないことを言ってんのよ。うう、恥ずかしい。だけど、色々と強化されるのは事実なのよね。こうなったら、女は度胸よ!」
意を決したように叫んだティエナは、なんとマーラの見ている前で長かったスカートの裾を強引に破いた。
ミニスカートみたいな丈になれば、当然のごとく瑞々しい太腿が露出する。すらりと伸びていながらも程よく脂肪が乗っていて、肉感的な魅力が見ているマーラのリビドーを直撃し、クラクラするほどの興奮を生じさせる。
「ぬおおーっ! た、たまりませんぞおぉぉぉ!」
興奮のあまりに我を忘れるマーラのグリップを、ティエナがどこか嫌そうにしながらも掴んだ。
その直後、ティエナは弾けるように跳躍した。気が狂ったのではなく、真っ直ぐに突き当りの扉を目指すために。
視界に捉えた鉄製の扉は、強烈な力で強引にこじ開けられていた。恐らくは洞窟で倒したレッサーデーモンの仕業だろう。
だが、そんなものに構ってる暇はない。ティエナの右手の中で、マーラは全力で目を凝らす。
縦に切れ込みが入り、露出度が増えた襟首では下着と胸元が覗ける。視線を下げれば、超ミニとなったスカートの裾からパンティが見え隠れする。
この状況下では、滾らせないほうが難しい。荒くなる呼吸を隠そうともせずに、マーラは邪な感情を昂らせる。
一方のティエナも、マーラを不気味がっている余裕はなかった。闇を見通せる力を得た両目を使い、まずは無残に壊れている鉄製の扉を確認する。
鍵があっても意味がない有様になっているので、開ける必要もなく地下室には入れる。ティエナの視界には、今のところ脅威となりそうなものは映っていない。
「もしかしたら敵がいるかもしれないわ。覚悟はいいわね、マーラ」
「おう! いつでもいいぞ。胸でも尻でも――」
「――突入するわよ!」
最初から付き合うつもりはなかったらしく、マーラを無視してティエナは地下室へ足を踏み入れた。
誰もいないと安堵したのも束の間、予想以上に広かった地下室の奥から、奇妙なにおいが湿った空気と一緒に鼻孔へ侵入してくる。
屋敷のホール以上の面積を誇る地下室はすべて石で造られていて、小部屋はない。だだっ広い空間のみが存在する。
無機質さが不気味さを演出し、この場にいるだけで言いようのない不安が募る。ティエナの緊張が、右手を通してマーラに伝わる。
「明かりはついてないな。誰かがいる気配もない。俺を滾らせておいて正解だったな」
「そうね。今回だけは感謝してあげるわ」
注意深く周囲を見渡すも、何もない大部屋だけに異変があればすぐに察知できる。
「このあたりには何もなさそうね。やっぱり奥に――キャア!」
可愛らしい悲鳴を上げて、ティエナが転んだ。どうやら足元にあった分厚い本に躓いたらしい。
大丈夫かと心配しつつも、マーラの両目は剥き出しになった太腿と純白のショーツを注目してしまう。
マーラの視線がどこに向けられているのかを敏感に察知し、ティエナは慌ててスカートを直して下着を隠す。
「こんな時にまでエロ心を出さないで。時と場合を考えてよ」
「仕方ないだろ。どんな時でもエロがあれば、引き寄せられるのが男なんだ。それに時と場合を考えてたら、大事な時に役立たずだぞ」
「わかったわよ。それにしても、私は何に躓いたのよ」
「そこにある分厚い本だよ。表紙に変なマークがあるな」
地下室で無造作に転がっている本。あまりにも意味ありげすぎて、逆に怪しくなる。
マーラを右手に持ったまま、ティエナは左手で本を確認する。
「表紙にタイトルが書いてあるわね。これは古代文字かしら。ええと……あく……? ディグルがいればすぐにわかるんだろうけどね。私には無理そうだわ。アンタは?」
興味がなかったので横目でティエナの女体ばかりを見ていたが、ご指名を受けたら無視はできない。名残惜しいが仕方なく視線を本へ向ける。
この世界の古代文字など習っていないのだが、マーラには簡単に理解できた。まるで慣れ親しんだ母国語であるかのように。
「書かれてる内容はわかったが、あまり口にしたくはないな」
「何を今さら気を遣ってるのよ。古代文字が読めるのなら教えて。私なら覚悟はできてる」
それならばと、マーラはティエナが手に持つ本の表紙に書かれている古代文字を読んだ。
「悪魔召還秘術書らしいぞ。タイトルがストレートすぎて、俺なら偽物じゃないかと怪しむけどな」
「いや、そうでもなさそうよ。あっちを見て」




