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第14話 体力とお尻が自慢の女だからな

「本気で折れたらどうするんだ。女の子になっちゃうかも。ぽっ」


「うわあああ! 気持ち悪い! 最低! 最悪! 信じられないっ!」


 大騒ぎしているのだが、先ほどまで滞在していた洞窟が人けのない場所にあったのもあり、誰かが聞きつけてやってくるような気配はない。


 もしかしたら逃げる最中に、他の人を巻き添えにしないよう選んだルードなのかもしれない。だとしたら、少しばかりティエナを見直す。


 とことん足蹴にされまくり、ようやく解放されたからか、そんなことをマーラは考えていた。


「本気でここに捨てていこうかしら」


 汗をかくほど蹴り尽くしてもまだ怒りが残っているらしく、吐き捨てるようにティエナが言った。


 どうせその気もないくせにとからかおうとした矢先、誰かが地面で放置されたままのマーラのグリップを握った。


 埋もれるようになっていた土から救出し、手に持ったマーラに顔を近づけてきたのはディグルだった。


 興味津々の瞳は無邪気なように思えるが、魔剣の内側にあるマーラの心の中まで見通そうとしているかのようだ。はっきり言って気持ち悪い。


「姉様がマーラさんを捨てるのなら、僕が貰ってもいいよね?」


 楽しそうに問いかけるディグルに、ティエナだけでなくマーラも拒否の言葉をぶつける。


「変態魔剣の名前通り、こいつは見境ないんだから、アンタに女装させて襲うかもしれないし、認められない」


「確かに俺はスケベで変態かもしれないが、男に女装させて喜ぶ趣味はないぞ。男は男だからな。従って少年だろうと、野郎に持たれるのは勘弁だ」


 ちえっと唇を尖らせるも、素直にディグルはマーラをティエナへ手渡した。


 受け取ったティエナはマーラを持ち上げ、今度はしっかりとガード部分に視線を合わせる。


「ディグルへの被害を防ぐためにも、嫌々だけど私が所有者になっていてあげるわ。感謝しなさい」


「おう、感謝するぞ。だからパンティをくれ」


 すぐさま地面に投げつけるかと思いきや、マーラを手にしているティエナは、三度ほど深呼吸をした。どうやら自力で怒りを鎮めたようだ。


「挑発には乗らないわ。それより話を元に戻すわよ。魔法のことだったわよね。生憎と私は使えないんだけど」


「体力とお尻が自慢の女だからな」


「せっかくだから私もディグルの講義を受けておくわ。学校で習った内容なんてすっかり忘れてるし」


「体力とお尻が自慢の女だからな」


 二度同じツッコミをしたところで、アンタは黙っててと一喝される。


「そういえばアンタの口はどこなの? 閉じておきたいんだけど」


「さあな。目も鼻も口もないが、外は見えるし、においも嗅げる。言葉も喋れる。思考能力はあるし、基本的には人間と変わらない。臓器とかは一切ないけどな」


 ティエナではなくディグルが「その点も不思議だよね」と言った。


「生物だけでなく、武器や防具にもマナは存在するんだ。それが魔力を帯びた魔法武具として重宝される。マーラさんはその中でも、内部にある魔力量がぶっちぎりのトップクラスだよ。膨大という表現でも足りないかも。だから他の魔剣にはない特徴が備わっているのかもしれないね」


「なるほど。しかしディグルは博識だな」


 十代半ばくらいにしては、頭脳明晰すぎる気がする。実姉のティエナは何の疑問も抱かずに、私の弟なんだから当然でしょと自分の事のように胸を張っているが。


「全部、本で得た知識だよ。少しでもマーラさんの役に立つと嬉しいな」


「聞いた!? アンタと違って慎み深い性格をしているし、本当にディグルは最高よね」

 うっとりと弟を褒めるくせに、俺と出会った当初は生贄にしようとしたりする。マーラに文句ばかり言ってくるが、ティエナもかなり歪んだ人物に思える。


「あはは……本当に本の受け売りなんだよ」


 困ったように笑って、ディグルは魔法についての講義ならぬ説明を再開させる。


「魔法は体内のマナによって発動し、世界に満ちているマナによって具現化する。だから魔法の使い過ぎで、マナが枯渇するんじゃないかって議論も起こるんだね」


「そうなのか?」


「そうなのかって、アンタも言ってたじゃない。竜はマナを守る為に存在するって。それはつもり、世界にあるマナが有限だからじゃないの?」


 ティエナの質問に、マーラは「さあな」と首を捻る。


「俺の中に魔法に関しての知識はあまりないんだよ。マナについても、それこそ竜が監視してる程度にしか知らない」


 役に立たないわねというティエナの呟きを無視する。せっかくの機会なので、もう少しディグルから知識を得たかった。


「事実かどうかはわからないが、世界のマナが枯渇する危険性があるなら、人間の体内のマナについても同じ心配をする必要があるだろ」


 マーラの言葉を、その通りだよとディグルが肯定する。


「他の生物はどうか知らないけど、人間に関しては生まれ持っているマナがすべてなんだ。つまり途中で追加も回復もできない。使えば使うほど減っていくんだよ。生きるために必要な分以外のマナを使い切れば、その人は二度と魔法を使えなくなる。魔法を扱う人間の間では常識となっているけれど、マーラさんは初耳だよね」


「ああ。できればもっと教えてくれると助かる」


 さらに説明を求めたマーラを、不思議そうにティエナが見てくる。


「アンタってスケベなくせに勉強が好きなの?」


「それって偏見だぞ。スケベだからって、それ以外に興味がないわけじゃない。知りたいと思うことがあれば調べたりするさ。剣になって、あれこれと活動できなかったけどな。ま、その分だけ妄想する時間が増えたから良しとするさ」


「妄想ばかりしてたせいで、そんなに歪んだ性格になってしまったのね。根は子供向け小説に感動して泣くくらいなのに」


 レッサーデーモンとの戦闘中におけるマーラの台詞を、なんとティエナは覚えていた。恥ずかしくてたまらないが、赤面する顔がないのは助かった。露骨に動揺している姿を見られなくて済む。


「放っておいてくれ。それより、どんな魔法があるのかを教えてくれ」


「属性ごとに色々あるよ。この世界は精霊が統べているんだけど、その辺の知識はある?」


 ディグルに頷き、マーラは知っている情報を話す。


「統べているというより、精霊が世界を構成しているという感じだな。気候なんかもその時に強く働いている精霊の影響で決まる。基本は火・水・風・土の四つで、その上に雷・氷・光・闇の四大上位属性がある。すべての生物には属性があり、生まれた時点で決まっている。ちなみにマナを守ってる竜も上位精霊の一種だ。俺の知識に間違いはないか?」


「間違ってないよ。四大基本属性の中に生物の大半が分類される。極稀に上位属性を得る者がいて、そういう生物は各種族の中でも英雄的存在になるね。能力が抜きんでているから」


「ということは、基本属性の人は上位属性の人に勝てないってこと?」


 途中でティエナが口を挟んできた。


「それが、上位属性の持ち主でも、体内のマナの量にも恵まれているとは限らないんだ。属性は天より与えられるものだけれど、マナは人の素質によって決まる。遺伝的要因も強く、大魔術師の血筋はかなりの確率で多量のマナを所持して生まれてきたりするね」


「ひとつ疑問なんだが、魔法ってのはやっぱり強いんだろ? だったらマナを膨大に持ってる奴が、この世界じゃ漏れなく最強の存在になるのか」


 チッチと人差し指を左右に振り、偉そうな態度でマーラの推測を否定したのはティエナだった。


「甘いわね。確かに魔法を甘くは見られないけど、術者は違うわ。魔法を使われる前に、スキルを使うなりして倒せばいいのよ」


 ここでまた新しい単語が登場した。


 スキルについて知りたがっているのを雰囲気で察したのか、今度もディグルが教えてくれる。


「スキルというのは、ひと言で説明するなら戦士の魔法というところかな。こちらにもやっぱり向き不向きがあるんだ。魔法を得意とする人は、大抵スキルを習得できなかったりするね」


「魔法とは違って身体能力の向上とかが主な効果みたいだけどね。まあ、人によっては剣を振って真空波を発生させたりというスキルも使えるみたいだけど」


 ディグルの言葉を引き継いだのはティエナだ。魔法に関しては無知同然だったが、スキルに関しては別らしい。


「ほう。ではティエナはスキルを使えるんだな」


「まさか。生まれつき素質があっても、訓練しないとスキルは習得できないわ。魔法と同じ。それでディグルは戦士の魔法みたいなものと言ったのよ。貴族令嬢の私が、習得しているはずがないでしょ」


「ああ、そういえば貴族令嬢だったな。暴れっぷりの凄さで、脳みそも筋肉でできている女戦士だと思ってたわ。はっはっは」


「それは愉快ね。あっはっは」


「はっはっは」


「いい加減にしなさいよ。このアホ魔剣。誰が女戦士よ!」


 軽い冗談だったにも関わらず、怒鳴られて地面に叩きつけられた。追撃の踏みつけはこない。下着を見られるのを嫌がっているのだ。


「姉様がレッサーデーモンとの戦闘中にマーラさんの力でパワーアップしたのも、一種のスキル効果といえるね。きっとマーラさんの滾り度に応じて、身体能力向上のスキルレベルが上がっていくんだと思う」


 怒りのあまり肩で息をしている姉の代わりに、ディグルがマーラを拾った。手に持って興味深そうに眺める。


 隅から隅まで凝視されるのは決して気持ちのいいものではないが、色々と教えてもらってもいるのでとりあえずは我慢する。


「スキルにレベルなんてあるのか?」


「便宜上につけているだけだよ。能力向上や技の威力の上昇に合わせて、スキルを使える人が言っているだけだね。自己申告も同然だから、ハッタリにも使えるんだ」


「そうそう」


 頷きながら、ティエナがディグルからマーラを取り上げる。大切な弟が持っているのは危険だと言わんばかりに。

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