第13話 俺を投げる際に揺れる乳房の動きはダイナミック!
「由緒正しき魔剣様とは思えない知識のなさね。仕方ないから、私が教えてあげるわ。感謝しなさい」
「……姉様って、人に教えられるくらいの知識が――ふがが。ごめんらひゃい」
マーラを持っていない方の手で片頬をつねられたディグルが、泣きそうな声を出す。
誰もしゃべらなくなったところで、満足げなティエナが説明とやらを開始する。
「まず最初に、ここはダイヤの大陸と呼ばれているわ。驚いたでしょ。どうしてかわかる?」
「四方を海に囲まれた大陸が、ダイヤの形をしてるからだろ」
あっさりと正解を告げたマーラに、八つ当たり気味にティエナが「何で知ってんのよ」と叫んだ。
「さあな。知識として頭というか俺の中に存在するから、理解しているとしか言えないんだよ。誰かに聞いたわけじゃないしな」
レイシャルラに聞いたのは聖国の隣に王国があるという話だけ。聖国と王国が同盟を組んでいて、それなりに仲が良いというのも教えてもらっている。
それ以外の知識は、誕生した時点で所持していた。誰が授けてくれたのかは、まったくの不明である。
「じゃあ、他にはどんなことを知ってんのよ」ティエナが聞いた。
目指す王都へ到着するにはまだ時間がかかりそうなので、ティエナやディグルとの会話を継続する。
「そうだな。ダイヤの大陸が世界の外れにあり、入るには魔の海域と呼ばれる難所を突破する必要がある。中央には高くそびえる山がある。このくらいか」
「なるほど。人間の国家以外の情報は知っているんだね。それじゃ、竜については?」
興味深そうに、ディグルがマーラへ質問した。
「ある程度は知ってる。ごく少数ながら世界に存在し、その中でも代表的なのは世界に満ちてるマナを守ってる。これで合ってるか?」
「竜がマナを守ってるってことは、やっぱり使えばなくなっちゃうんじゃない! 商国や魔国の連中に聞かせてやりたいわ!」
何故かどうだと言わんばかりの顔をしているティエナの発言で、またひとつマーラにとっては謎の単語が追加された。
「魔国?」
疑問を口に出すと、興奮気味のティエナではなくディグルが回答する。
「魔国は商国の隣にある魔導国家だよ。リーンアルスと呼ばれているんだ。この世界には主に通常の魔法と聖魔法がある。聖魔法は聖国が、魔法は魔国が開発するケースがほとんどなんだ」
「ほう。魔法ってのは誰でも使えるのか?」
「素質があるならね。世界にマナが満ちているように、生物の体内にもマナがある。逆になければ生きていけない。空気みたいなものかもしれないね」
「全ての生物にマナが存在するなら、誰でも魔法を使えるんじゃないのか?」
再度の質問にも、紳士的な態度でディグルは応じる。ティエナよりも多くの知識を所有しているのは明らかだが、ひけらかすようなそぶりは見せない。実年齢は下でも、子供っぽい姉に比べて大人じみて見える。まるで何十年も生きて、経験と知識を積み重ねた人物のようだった。
「生きるためのマナと、魔法を使うマナは別なんだ。持って生まれてくるマナの量もね。だからマナを多く保有している人が、長生きできるというわけでもないんだ」
「そうなの!?」
目を見開いて、マーラ以上に驚きを露わにしたのはティエナだった。知らなかったのかとからかえば確実に地面へ叩きつけられて話が進まなくなるので、とりあえずこの場は黙っておく。
「そうだよ。王国は魔法習得にあまり熱心でないけれど、聖国と同盟関係にあるだけに、魔法の仕組みについては学校で習うはずだよ」
「……記憶にないわね」
さらっと言ってのけたティエナを見る限り、どうやら弟と違って成績優秀なタイプではなさそうである。代わりに、運動能力は高そうだった。
「頭脳明晰な弟と、体力自慢の姉か」
ぼそっと呟いたマーラのひと言に、ティエナが反応する。驚嘆するほどの地獄耳ぶりである。
「なんか、その言い方だと貶されてるように感じるんだけど」
「被害妄想だな。俺は褒めてる」
「そうなの?」
不思議そうでいて、どこか嬉しそうな声を出すティエナ。意外に褒められるのに弱いのかもしれない。貴族令嬢だというのに、周囲からチヤホヤされてこなかったのだろうか。
浮かんできた疑問はさておき、とりあえずマーラはティエナの疑問に答える。
「体力があるということは、肉体も発達してるということだ。それだけ太腿は鍛えられ、お尻は大きくなる。程よい脂肪と筋肉が絶妙な配分で組み合わさってこそ、極上の尻が――うぼあぁ」
力説している途中で、叩きつけからの踏みつけのコンボを見舞われる。痛みは感じるが、少しだけ慣れてきた気がするのがなんとももの悲しい。
ティエナに暴行されるマーラを眺めながら、困惑気味にディグルが会話を続行させる。
「ええと……要するに生きるのとは別の、体内で過剰に存在するマナをエネルギーにして、初めて魔法は使えるんだ」
そうだったのねと納得しつつ、マーラを蹴るのをやめないティエナ。あまりにも足癖が悪すぎる。
だがマーラとて黙ってやられてはいない。先ほどから蹴られる際には、しっかりと目線を上げて対応している。
「むふ。下から見上げる角度というのも、なかなかに格別だな」
「え?」
唐突にティエナの動きが止まる。
ディグルも不思議そうにしていたが、ややしてから「ああ」と納得したように手を叩いた。
「その位置からなら、姉様の下着が丸見えだものね」
いかにやや長めのドレスであろうとも、スカートはスカート。蹴るために足を上げれば、真下にいるマーラは白地のショーツを目にできる。
マーラだけの秘密にしておくつもりだったのだが、何故かディグルに気づかれてしまった。頭脳明晰なだけあって、鋭い洞察力を所持しているのかもしれない。
ここで素直に認めると下着を見るチャンスが失われそうなので、あえてマーラはそ知らぬふりをする。
「一体、何のことかわからないな」
「とぼけても無駄だと思いますよ。ついさっき、マーラさんが自分で見上げる角度は格別とか言ってましたから」
ディグルの指摘に、正確にはないマーラの目が点になる。
「俺、そんなこと言った?」
「はっきりと」
頷くディグルを見てから、恐る恐るティエナを見る。地面で横たわったままのマーラを見下ろす顔は、まるでレッサーデーモンのごとき迫力があった。
「やたらと私をイラつかせると思ってたら、そんな狙いがあったなんてね」
「そうだね。少し前に姉様の下着を欲しがったのも、そういう理由からかもしれないね」
「あっ……! そうか。もし私がショーツを脱いで、変態魔剣を蹴ったりしたら……こ、この最悪スケベ!」
拾い上げられたマーラ。今度はひたすら地面に叩きつけられる。執拗に、繰り返し、何度も。
「ぐはっ! もういい加減に……ぬぐぐっ! し、しかし……俺を投げる際に揺れる乳房の動きはダイナミック!」
「こんの……! もう怒ったわ。牛を一頭購入して、アンタを肛門から突っ込んであげるわよ。お尻が好きなんでしょ!?」
「うわあぁぁぁ! それだけはやめてくれえぇぇぇ!」
想像しただけで、実際はない心臓が止まりそうになった。
「俺が好きなのは人間の女だ。それにそんな真似をしたら、牛が死んじゃうだろ。かわいそうじゃないか。殺すにしたって、その時はきちんと食べないと駄目だぞ。おかげで自分が生きながらえたことを、失われた命に感謝しながら肉を頂戴するんだ。無駄は絶対に許されない!」
再び地面に叩きつけようとしていたマーラの力説を受けて、ティエナが目をぱちくりさせる。
投げるのを中止し、自分の顔の位置にマーラの剣身を持ってくる。まるで目を合わせるような感じだ。
しかしマーラの視界は、ガード位置から見たような感覚なのだ。初めての所有者だったレイシャルラにしろ、話しかける時は顔が上にあった。同時にこちらへ両手が伸びてきていた。剣で握る場所はグリップしかない。それで自身の目線の高さを把握できたのである。
従って、目を合わせていると思っているティエナは重大な勘違いをしている。マーラが正面から見ているのは彼女の顔ではなく、上衣を盛り上げている二つのふくらみだった。
「ククク。目線の位置は秘密にしておいた方がいいな。剣身に目があると思われてた方が油断する。警戒が疎かになるほど、俺の目があるガード部分に無防備な姿を晒すはずだ」
「……ということらしいよ、姉様」
「ええ、よくわかったわ」
にっこり笑って、ディグルに頷いてみせるティエナ。しかし、マーラを見る目はまったく笑っていない。とどめにばっちりと視線がぶつかっている。
「もしかして……また声に出してた?」
「はい。わざとやっているとしか思えないくらいに」
ディグルの返事を聞いたマーラは、真っ直ぐにティエナを見つめた。
「軽い冗談だ。俺の目は剣身にある。油断するなよ」
「今さら信じるわけないでしょうが!」
地面に叩きつけられたマーラのガード部分に、靴をはいているティエナの足が乗せられる。目隠しをされたのと同じ状態で、何も見えなくなる。
「おい! 悪ふざけはやめ――ごぼぼっ!」
視界を靴裏で塞がれたまま、もう片方の足による連続蹴りというか踏みつけを浴びせられる。ラッシュのように繰り返される足の上下運動の勢いは、いまだかつてないほど激しかった。




