第12話 俺からエロを取ったら、何が残るというんだ
ティエナが申し訳なさそうな顔で、ごめんなさいとマーラに謝罪をする。
「そんな事情があるとは知らなかったから……」
乱暴者とばかり思っていたが、優しい一面もあるのかもしれない。泣きそうな顔を見せられれば、逆にマーラが悪いことをしたような気がしてくる。
「気にするなよ。さっきも話したけど、前世の記憶はあまり残ってないんだ。理不尽に殺されたのは腹が立つが、それも異世界へ転生する条件だと思えば感謝……とまではいかないが、渋々だったらお礼を言ってやってもいいくらいだ」
顔を上げたティエナが、驚きの中に小さな尊敬が混ざったような表情を浮かべる。
「アンタって、意外に前向きなのね。その点は見習いたいわ」
「そうしろ。まずは服を着ない生活を始めるんだ。そうすれば様々な抑圧から解放されて――んごっほ」
「やっぱりそこに辿り着くのね。アンタの頭はエッチなことしか考えられないわけ?」
再び地面に叩きつけられ、ティエナを見上げるマーラは当たり前だろ鼻を鳴らす。
「俺からエロを取ったら、何が残るというんだ」
「確かに何も残らないわね」
「期待してなかったが、はっきりと断言したな」
「逆に聞くけど、何か残るの?」
そのように聞かれれば、マーラはこう答えるしかない。
「いや。何も残らない」
「じゃあ、いいじゃない。アンタはド変態のエロ魔剣なんだし」
「まあな。それより、せっかく名前を教えてやったのに、俺はまだアンタ呼ばわりされるのか」
当たり前でしょと怒り気味にティエナが言った。
「名前の由来を聞いたら、簡単には言えないわよ。むしろ若い女性で言ってくれる人はいないでしょうね」
「残念だったな。ティエナの前の所有者はきちんと言ってくれてたぞ」
ここでティエナだけでなく、側で歩きながら話を聞いていたディグルも驚いた。
「アンタ、前にも誰かに使われてたの!?」
「そうだ。あの洞窟でレッサーデーモンを倒したんだ。そこに違うレッサーデーモンに追われたお前らがやってきた」
誰かが狙って仕組んだような様子はない。完全に偶然の出会いだった。
「前の持ち主ってどんな人だったの?」聞いてきたのはディグルだ。
「レイシャルラという若い女で、ティエナとは同い年なはずだ。美人だが隙をあまり見せない凛とした女でな。聖国出身の神聖騎士だ」
「聖国の神聖騎士が魔剣を持ってたの!?」
周囲に響きそうな声で、大げさに驚くティエナ。剣のマーラが頷いても伝わらないので、言葉で「その通りだ」と応じる。
「そもそも魔剣ってのは、俺が勝手に名乗ってるだけだしな」
「……は?」ティエナが素っ頓狂な声を上げる。
「普通の剣よりは、魔剣と言っておいた方が恰好いいだろ。女の食いつきも良さそうだし」
「世間一般の女性は、魔剣を見つけたからといって食いつかないわよ。逆に怖いって引くでしょ」
何故かうんざりした様子のティエナに言われ、マーラは背中に電流を流されたかのような衝撃を受けた。
「な、なんてことだ。俺の狙いは逆効果だったのか! では、これからは聖剣と名乗ろう。これでハーレム間違いなしだな」
「……アンタ、剣なのにハーレムを作りたいの?」
「それが夢だからな」
しれっと言ったマーラを片手に、ティエナはヒクつくこめかみを人差し指で軽く押さえる。
何か言いたいことはあったみたいだが、それを飲み込んで強引に話題を元へ戻す。
「そんなアンタを、よく聖国の神聖騎士が持ってくれたわね」
「レッサーデーモンの討伐が初めてで、不安に思ってたらしい。道中でたまたま強い魔力を感じて、洞窟に立ち寄ったら俺が刺さってたというわけだ。ちなみに、お前たちが来たのとは別の洞窟だぞ」
「弱みにつけこんだってわけね」
「人聞きの悪いことを言うな。レイシャルラの奴が勝手に力を、つまり俺を求めたんだ」
「で、その時に恰好をつけて自分を魔剣と言ったのね」
「その通りだ」
ティエナが口を休ませたところで、待ってましたとばかりにディグルが話し出す。
「レイシャルラさん……だっけ? その神聖騎士の人が、求めたくなるくらいの力がマーラさんにはあるものね。それだけの力をどこで手に入れたの?」
「どこでと言われてもな。転生した時にはもうあったとしか。あまり自覚はなかったんだが、そのレイシャルラ曰く尋常じゃないらしいぞ」
自覚はないという部分にティエナが反応する。
「自分の力を知らなかったってこと? そのわりには自信満々で私に持たせようとしたじゃない」
「お前と出会ったのは、レッサーデーモンをあっさり倒せたあとだったしな。今回も何とかなるだろうと思ったんだよ」
結果は大成功。ティエナの下着姿を拝み、レッサーデーモンを倒した。さらには、所有者の身体能力を向上させられるという力も発見できた。
「マーラさんを持った姉様は凄く強かったものね。戦闘経験はおろか、一度も剣を握ったことのない女性の動きとは思えなかったよ」
大切な弟に褒められ、鼻高々になるティエナ。滾ったマーラのおかげというのは、すっかり頭の中から消え失せているみたいだった。
「でも、あの力を発揮するには、一回一回マーラさんを滾らせないといけないんだよね」
ディグルが言うと、嫌なことを思い出したとばかりにティエナが眉をひそめた。
そんなティエナに構わず、マーラはディグルの言葉を肯定する。この機会に、マーラという魔剣の使い方を正しく把握してもらう必要がある。
「俺が滾れば滾るほど、所有者の能力は強化されるようだ。その分だけ強大な敵にも勝ちやすくなる」
「認めたくはないけど認めるわよ。アンタのおかげで、レッサーデーモンなんて強力な悪魔を倒せたんだしね」
だからこそティエナは洞窟をあとにする際、スケベだと嫌うマーラをわざわざ持ちだした。
「本当に凄いよね。何か必殺技みたいなのもあるのかな?」
ヒーローものに憧れでもあるのか、無邪気にディグルが聞いてくる。
「よくわからないんだよな。剣に転生した時点で自分の能力がわかってれば、効果的に売り込み出来たんだが」
「そう言うわりには、滾ればどうのというのは理解できてたじゃない」
冷めた目を向けてくるティエナ。下着姿にされたのを思い出しているのかもしれないが、一応は命の恩人ともなるマーラに対して酷い仕打ちである。
もっとも、その点を抗議したところで聞いてはもらえない。わかりきったことに労力を消費しても無駄なので、問いかけに対する答えだけを口にする。
「萎えたままだと柔らかいんで、敵にぶつけられると痛いんだよ。切れないしな。けど滾ると硬くなるから、激しくぶつかっても大丈夫なんだ。これもレイシャルラという最初の持ち主のおかげで判明したんだけどな」
「……ひとつ確認するけど、剣の話をしているのよね?」
「当たり前だろ。何の話をしてると思ってた――んふ」
「ちょ、ちょっと。気色の悪い笑い声を出さないでよ」
「いやいや、そうかそうか。ティエナはさっきの話で別なものを想像したのか。怒らないから白状してみろ。な? ほら、その可愛い口ではっきりと正確にオチ――ぶごふっ」
王都へ到着するまでに、一体何回地面に叩きつけられなければならないのか。大地に横たわりながら、マーラはぼんやりと考える。
萎えているので投げつけられた痛みが全身に発生するも、大抵は一瞬で終わる。その後に苦痛が残ったりとかはしない。それでも衝撃が走った際は痛いので、先ほどみたいに悲鳴を上げてしまう。
やはり捨てていくつもりはないみたいで、自分で叩きつけておきながら、ティエナはマーラを拾う。
「アンタ、いい加減に懲りなさいよ。滾ってない今は柔らかいそうだし、この場で叩き折るわよ」
若干血走り気味の目をして言われると、自信を持って冗談だと断言できなくなる。可能かどうかは別にして、本気でやりかねないのは確かだった。
実姉とマーラの険悪な雰囲気をなんとかしようと思ったのか、ディグルが話題を変える。
「それにしても、最初にマーラさんを見つけたのが商国でなくてよかったね」
「商国?」マーラが聞く。
「知らないの? メイクリアス王国の南に存在する商人たちの連合国家だよ。中心となっている五大商人の名前の頭文字をとって、ガルググド商国と呼ばれてるんだ」
ディグルの話を一緒になって聞いていたティエナが、マーラを手の中に戻しながら露骨に嫌そうな顔をする。
「私は嫌いなのよね。建国されて二十年程度の歴史しかないくせに偉そうだしさ。魔導機械なんて妙なものを開発してたりするし。気持ち悪いったらないわ。アンタもそう思うでしょ?」
「同意を求められても困る。俺は商国について何も知らない」
するとティエナは「ええっ!?」と大げさに驚いた。
「今時の子供でも知ってる常識よ。どうして古代からあるかもしれない魔剣様が知らないのよ」
あるかもしれないの部分をわざわざ強調したのは、嫌味のつもりなのか。散々下ネタでからかわれているマーラに反撃したいのかもしれないが、生憎とそれくらいで怒ったり動揺するようなタイプではない。
すぐに興奮はするが、意外と冷静な面もある。あくまでマーラ自身による認識なので、あてになるかどうかは怪しかったりもするが。
「生まれた時から魔剣で、人生というか剣生? の大半をずっと地面に突き刺さって過ごしてきたんだ。人間の国家の生い立ちなんて知ってるわけないだろ」
「そのわりには聖国と王国は知ってたじゃない」
「前所有者のレイシャルラに聞いたんだよ。ただ詳しくは教えてもらってないから、細かい部分を質問されればすぐに答えられなくなる」
正直に答えたマーラを前に、ティエナがやれやれとばかりに肩を竦めた。自由に動けるなら、舐めるなと尻の穴に突き刺さってやりたいくらいだった。




