三日月の夜に参拝したのは僕なのか。
23時。真夜中。僕が立ってる場所。鼎神社。徒歩三分。
動く度、反応する境内のセンサーライト。眩しくて。暗闇の格子の奥には神様がいる。それが本当なら。
「宮月さんと付き合えますように」
キス顔──僕は言い伝え通りに……した。参拝の後。
クリスマスイヴにも三日月は昇る。けれど、宮月さんの満月の様な瞳は特別。
「ひとりごと?」
まさかって想う。そこに宮月さんが? いや。幻聴。気にしすぎ。
辺りが暗く沈む。足元の玉砂利が響く境内。僕は何してるんだろうって。学校じゃ宮月さんと、あまり話したこと無くて。
「上坂君、教えて」
誰も居ない僕の幻想。石段の上から一望出来る街。まだ眠らない。宝石箱の様な。
──宮月さんの瞳。身震いするほど綺麗で。だから一目惚れ。目が合う度、想ってた。
冷たい空気に昇る三日月。欠けた僕の心。夜の片想い。合わさるのかなんて気が重い。僕は幽霊みたいだから。学校じゃ存在感なんて。人生は一期一会。分かってたけど。
「──と」
嘘だろ? まさか。黒髪が石段のセンサーライトに揺れてた。二つの満月……。目が合う。体操着は僕と同じ。けど、どうして?
「あれ?」
「あ……」
言葉が出ない。念じれば現れる? 嘘……。
僕一人だけの神社。じゃなくて? 通じるはずなんて。
石段から一望出来る夜の街並み。宮月さんの身体の輪郭とか。あり得なくて。眩しい。
「上坂君?」
ととと──と。石段から駆け上がって石畳を蹴って玉砂利が響く。境内。宮月さんが近づく音。僕ら以外、誰も居ない。心臓が僕を握りしめる。
「今日も?」
「宮月さんは?」
言葉の後に笑顔。あり得なくて。宮月さんとしゃべってる現実。三日月より眩しい。
「冬休み」
「一人だね」
宮月さんの謎解きに、僕は目を合わせたまま答える。シーンとしてる境内。暗闇。センサーライトは気にしないフリ。いつも、近づけないのはどうしてだろ。
「まだ居る?」
「え?」
「参拝……」
キス顔の習わし。誰が想い人か。関係ないフリして、三日月が隠れる雲間。僕も同じ気持ちで。悪いか……。
「ごめん」
「え?」
足を止める。振り返る先に、宮月さんの後ろ姿。暗闇にポツリ。ずっと、会いたいのに。帰れなくて。けど。
「宮月さん、僕は」
「明日も来るから」
足早に駆ける宮月さんと玉砂利の音。センサーライト。暗闇の中。眩しい。僕は見れなかった。
キス顔。宮月さんの。
静かだった。夜空に浮かぶ三日月。
宮月さんの匂いがフワリ……。僕の鼻先に目を瞑って消えた。