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夢みるように恋してる  作者: 月城 響
Dream2.引き裂かれた友情
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2.裏切り者

ー 3日後 ー


 ウィディアやマリアンヌの事を考えると、渚はどうしても落ち込まずには居られなかった。


『元々この計画を知っとった奴に密告されたんや』


 何度否定しても、ピョンの言葉が頭の中をぐるぐる駆け巡った。この3日間、マリアンヌともう一度話そうとしたが、休憩時間にも彼女はシスター・ルームに姿を現さなかった。


ー まさか避けてるなんて事、ないよね・・・ ー


 渚が小さくため息をつきながら本館の廊下を歩いていると、3人の男子生徒が近づいてくるのが見えた。彼らは口々になぜウィディアがいなくなったかを尋ねたので、彼女が脱走を手伝った生徒達だと分かった。謹慎が解けて今日から授業に参加していたのだ。


 ウィディアが自分達の為にここを追い出された事を知った彼らは、みな暗い顔でうつむいた。ウィディアにとってこのミシェル・ウェールズは、家と同じだと彼らも知っていた。


「シスター・ウィディア・・・」

「僕達の為に・・・」


 涙を浮かべた生徒達の肩に手を置くと、渚は微笑んだ。


「大丈夫よ。ウィディアはこんな事で負けたりしない。そしてきっと自分の手で幸せを掴むわ。だからあなた達もウィディアの強さを忘れないで。自分達の身の危険より友を選んだ、その気持ちを忘れないで。この世には戒律よりも何よりも大切なものがある。ウィディアとあなた達は身をもってそれを証明したんだもの。自分を誇りに思っていいのよ」


「ナギサ先生・・・」


 3人の生徒が去って行った後、渚は目ににじんだ涙を拭った。


ー これで良かった?ウィディア・・・ ー


 渚は小さくため息をつくと、再び廊下を歩き始めた。柔らかな光が天窓から降り注ぐ広間にさしかかった時、たくさん並んだ柱の向こうにマリアンヌが立っているのが見え、渚は思わず立ち止まった。すぐに彼女の側へ走って行こうとしたが、マリアンヌの前方から一人のシスターが近づいてくるのが見え、ハッとして柱の陰に身を隠した。シスター・エネスだ。マリアンヌはまるでおびえたように本を抱きしめたまま、その場で立ちすくんでいる。


「今回の件は良くやってくれましたね、シスター・マリアンヌ。これで子供達も二度と脱走しようなどとは思わないでしょう。ミス・コーンウェルもおとなしくなるわ」


 シスター・エネスが立ち去った後、小さくため息をついて歩き出したマリアンヌは、柱の陰から呆然と自分を見ている渚に気が付いて、驚いたように立ち止まった。


「うそ・・・だよね、マリアンヌ。あなたがウィディアを裏切るなんて・・・」


 マリアンヌは観念したように顔を伏せると、渚から目をそらした。


「ウィディアは前からシスター・エネスに目を付けられていたの。あの子は反抗心が強いって。そこにあなたが来て・・・。あなたも・・・このミシェル・ウェールズのやり方に不満を持っていて・・・。私、怖かったの。あなたが何かやる度に、ウィディアも何か問題を起こすんじゃないかって。そんな事になったら私もきっと共犯として追い出されるわ。


 だから子供達が出て行く前に、ウィディアから聞いた計画をシスター・エネスに話しに行ったの。脱走を未然に防げれば、ウィディアも子供達も罪は問われないだろうと思って。なのにシスター・エネスは黙ってあの子達のする事を見ていた。そして次の朝戻ってきた子供達は、待ち伏せしていたシスター達に捕まって、ウィディアは・・・」


ー シスター・エネス・・・! ー


 渚はぎゅっと唇をかみしめた。バスで去る時、最後にウィディアが言った、マリアンヌが弱いと言った意味がやっと分かった。彼女は知っていたのだ。マリアンヌが何をしたかを。だから殊更ことさら私にマリアンヌの事を頼んだのだ。


 渚はマリアンヌに背を向けた。何をどう言っていいのか分からなかったからだ。


「ナギサ、許して。許して・・・!」


 それでも渚はマリアンヌの方を振り返らなかった。


「友達を2人も無くしちゃった。全部、私のせい・・・」


 吐き捨てるように呟くと、渚は走り出した。広間からマリアンヌのすすり泣く声が聞こえた気がしたが、どうしても立ち止まれなかった。


 ウィディアは見せしめにされたんだ。私と生徒達への。戒律に逆らったら、どうなるか思い知らされる為に・・・。


 みんな、私のせいだ。


 本館から走り出た渚は芝生に足を取られ、勢い余って転がり込んだ。膝の痛みより何よりも、ウィディアの事を思うと胸が痛んだ。自分がこの学校へ来なければ、シスター・エネスもここまでひどい罠を仕掛ける事はなかったかも知れない。


「ごめんね、ウィディア。ごめんね・・・・」




 その日夕方に渚が帰宅すると、ピョンがキッチンで卵まみれになって何かを作っていた。辺りに散らばった野菜の切れ端やバラバラになった卵の殻を見て渚は眉をひそめた。どうやらピョンが夕食用にサンドウィッチを作っていたらしい。


「おー、渚。見てみい。全部ワイが作ったんやで。見事なもんやろ。やっぱワイは天才カエルやでー!」

「ピョンちゃん、危ないよ。包丁なんか使って・・・」


「包丁よりもゆで卵が危なかったで。卵出す時に一緒にワイも落ちてもてな。もうちょっとでゆでガエルになるとこやったわ。まー、でも苦労して作った甲斐あって、すんばらしい出来やで」


 きっと彼は近頃元気がなかった渚の為に、こんな小さな体で自分が出来る精一杯の事をやってくれたのだろう。そんな気持ちが嬉しい反面、ウィディアとマリアンヌの事を思い出すと、胸が締め付けられるようだった。こらえきれなくなった渚はその場に座り込み、顔を覆って泣き始めた。


「どうしたんや、渚。学校でいじめられたんか?」


 そんな優しい言葉に、ただ首を振って答えるしか出来なかった。そしてピョンは渚が泣き止むまで、ずっと彼女の名を呼び続けた。




これでDream2は終了です。次章 Dream3 呪われた皇子と滅びの国 編です。

ピョンちゃんの過去のお話になります。

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