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夢みるように恋してる  作者: 月城 響
Dream8.New Year
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3.これからもずっと

 ビッグベンが新しい年を告げる鐘を鳴らすのと同時に、金色の花火の柱が下から上へ向けて放たれ上空から色とりどりの紙吹雪が舞い落ちてきた。渚はウィディアと「Happy New Year!」と同時に叫びながら抱き合い、ティアナはピョンを両手に持って上にかかげた。エドウィンはアンドルーとスティーブと酒を酌み交わし、「僕は結構です」と言っているマイケルにも「いいから飲めよ。New Yearなんだぜ」と言って片目を閉じた。


 ピョンは自分を持って嬉しそうにはしゃいでいるティアナにドキドキしながら言った。


「ティアナ。頼むからキスだけはせんといてな。それだけはナシやで」

「やあね、ピョンちゃんったら。いくら何でもそんな事しないわよ。キスして欲しかったら恋人のナギサ先生に頼むのね」


 それを聞いてびっくりしたように渚はピョンを見た。ティアナに捕まっていた時、つい格好をつけて付いた嘘が今頃渚にばれるとは思ってなかったピョンは、慌てて言い訳をした。


「ち、違うんや、ナギサ。これはな。ナギサのとこに帰りたいが為についた嘘で・・・」

「ええ?嘘だったの?やっぱりね」


 あきれ顔のティアナにウィディアが、渚の頭を抱きかかえて言った。


「嘘に決まってるでしょ?ナギサにはね、イケメンで資産家で一生ナギサだけを愛する青年実業家が・・・つまり現代の王子様ね・・・がいつか現れる事になってるんだから!」


 それはお前の理想だろう・・・と思ったがこの場は黙っているのが無難だ。とにかく嘘を付いてしまった事には変わりがないのだ。無表情に黙り込むピョンを横目で見つつ、アンドルーがフッと安堵したようにため息を漏らしたのにスティーブはふと気が付いた。







 うっすらと東の空が明るくなる頃、渚はアパートの屋上に上がって、手摺りにもたれながら空を見上げて居た。本当はみんなで初日の出を見ようと思っていたが、温かいコタツは魔法のようにウィディアやエドウィン達を眠りにいざなったのだ。


 ピョンは渚に作って貰ったセーターを着て彼女の肩の上にいつものように乗り、渚が呼吸をする度に湧き上がる白い吐息を見つめていた。なぜ彼女の顔をはっきりと見れないのかというと、渚を恋人だと言ってしまった事をもう一度ちゃんと言い訳すべきかどうか迷っていたのだ。


 さっきナギサはひどく驚いたような目で自分を見ていた。それはきっと不快だったという事だろう。当然だ。こんな醜いカエルの恋人だと言われたら、誰だって嫌な気分になるだろう。


 ピョンが渚を見上げて彼女の名を呼ぼうとした時だった。


「ピョンちゃん・・・」


 渚の方から先に呼ばれてピョンはドキッとして答えた。


「な、なんや?」


 渚はまだほの暗い空を見つめたまま彼に話しかけた。


「もし、ピョンちゃんが人間だったら、どんな人かな?」

「え?」 


 ピョンは面食らったように渚を見た。なぜ彼女は急にそんな事を言い出したのだろう。渚は自分の事を元々カエルだと信じているはずだ。ピョンの頭の中に2,500年前の魔女イゾルダの呪いの言葉が駆け巡った。


ー もし正体をバラしたり心のこもらぬ口づけを強要した場合、お前は元に戻れぬばかりか、永遠にその姿のまま、さまよい続けるだろう ー



「さ、さあ。普通の男ちゃうか?どこにでもおるような・・・」

「髪は?何色?」

「か、髪の色?えーと、そうやな。渚と同じブラウンかな?」

「目は?」

「目ぇも同じブラウンやな」

「ふーん。じゃあ背は高いかな?」

「そんなん低いに決まっとうやろ。今やってこんなに短足やのに・・・」

 

 ピョンは戸惑いながら渚の質問に答えていった。以前の自分とは全く違う自分・・・。渚はどうするだろう。俺が人間の姿になって現れたら・・・。


「じゃあ太ってるかな?痩せてるかな」


 渚は更に質問を続けた。


「太ってるやろな。いっつも渚に食べすぎって怒られとうし。いわゆるモテない男の典型タイプちゃうか?」

「ふうん。そうかぁ・・・」


 渚はきっと頭の中で想像しているだろう。地味でチビでデブの醜い男の姿を・・・。そう。今の俺と同じ姿だ。


「渚は嫌やろな。そんな男が渚の友達やゆうて目の前に現れたら・・・」


 渚はきょとんとした顔をした後、彼に向かって笑いかけた。


「どうして?だってピョンちゃんはピョンちゃんでしょ?」


 やっとほのかに明るさを増してきた空は、さっきまで見えにくかった渚の顔をはっきりと彼に見せてくれた。その笑顔はその言葉が決して嘘や同情から出たものではない事を表わしていたので、ピョンは戸惑ったように渚を見上げた。


ー どうして彼女は俺の一番欲しい言葉をいつもくれるんだろう・・・ ー


「ほら見て、ピョンちゃん。初日の出だよ!」


 ピョンは不思議そうな顔で渚を見た後、歴史を重ねた建物の向こうから現れた、新しい年の朝を連れてきた太陽を見つめた。


「明けましておめでとう、ピョンちゃん。今年も、それからこれからもずーっと宜しくね」

「うん。宜しくな、渚」




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