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夢みるように恋してる  作者: 月城 響
Dream7.聖夜のプレゼント
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14.財宝の真相

 だが古びた石の扉は彼が押してもびくともしないほど重かった。仕方が無いのでリージスは部下に開けるよう命じたが、部下達が5人で押しても扉は全く動く様子はなかった。真っ赤な顔をして「何とかしろ!」と叫んでいるリージスを見て、ピョンは「クックックッ」と馬鹿にするように笑い始めた。


「天馬に乗った王子?笑わせるな。所詮9番目は9番目やな」


 リージスはギリッと歯を噛みしめると、ピョンの目の前までやって来てふんぞり返った。


「お前なら開けられるというのか?カエル」


 ピョンはにまっと笑うとリージスを見上げた。


「当たり前や。ワイを誰やと思てんねん。最高級アンドロイド、ピョンちゃんやで。それを開けて欲しかったらナギサの縄をほどいてワイを手の平の上に乗せろ」


 リージスは渚を振り返って少し疑うような目で見た。だがこんな小娘に何が出来る訳でもないと判断したのだろう、部下に命じて渚とピョンの戒めをほどき、ピョンを手の平の上に乗せ石の扉の前に立たせた。


「ナギサ、ワイを紋章の側にやってくれるか」

「うん」


 渚は不安そうな顔をしつつ、ピョンがよく見えるよう、彼を二頭の馬が羽を広げて向かい合わせになった紋章の前へ持ってきた。彼は手で触りながら紋章の周りを調べていたが、やがて渚の肩の上に乗って彼女に耳打ちした。彼女は「うん。分かった」と言って頷くと、両手で向かい合った馬の羽に手を乗せ、それを同時に下へ動かした。


 ガチャ・・ンという重々しい音と共に羽が下へ下がると、周りの壁から地鳴りのような音が鳴り響き、ゆっくりと両側の壁が広がった。それと共にゆっくりと石の扉が開いていった。


「おお、やったぞ!」


 リージスは嬉しそうに石の扉の中へ入って行ったが、周りからはまだ地鳴りのような音は鳴り響いていて、小さな石が上から落ちてくる。それと同時に徐々に足下の床がせり上がっていく感覚に皆は不安を覚えた。


「ピョンちゃん・・・」


 渚も不安そうに肩に乗ったピョンの名を呼んだ。


「大丈夫や。この扉の紋章の羽だけ白かったやろ?つまりこれはもう一つの古の門や。ワイ等も中に入ろう」


 扉の中は直径20メートル程の広い円形のホールで、天井も丸いドーム状になっていた。その円形の壁の全てに石で創られた棚が連なっていて、そこに古びた巻物のような物が並んでいた。目の前に祭壇のようになった台の上にもその巻物がたくさん積み上げられている。そして彼等は青白い顔を更に青くして叫んでいるリージスを見た。


「何なんだ、これは!宝は・・・財宝は何処に在るんだぁぁ・・・っ!!」


 必死になって祭壇の上にある巻物を引きずり下ろして宝を探すリージスに、ピョンは軽蔑するように言った。


「宝は目の前にある。それが財宝や」

「何だと?こんな、こんな物がどうして財宝なんだ!」


「立派な財宝や。当時はな。それはシルク。今でこそ養蚕業がどの国でも行われて絹など何処にでもあるが、当時は遙か彼方中国からシルクロードを通って長い年月と血のにじむような旅路の果てにこの国まで運んどったんや。当時これほどの絹織物を集めよう思うたら、そりゃ凄い金がかかったやろう。つまりこれこそが、アトラス・ブライトンが子孫に残した財宝。お前が必死に探し求めとった宝の山や」


 ピョンの話の間にも床は徐々にせり上がり、やがて丸いドーム状の天井が開いていき星空が見えてきた。


「そんな・・・そんなぁぁ・・・!」


 リージスは頭を抱えて、床に跪いた。


「では私が今までつぎ込んだ資産は・・・借金までして、この為に・・・」


 彼はギリッと歯を噛みしめると、ウィディアの側で震えているサラをにらみつけた。


「サラ、貴様なら何か知って居るだろう!吐けぇ!」


 狂ったようにサラに向かってリージスが走り出した。ウィディアが手首を縛られながらもサラの身体に腕を回して彼女を抱きしめ彼から守ろうとしたが、リージスはそのすぐ側でピタッと動きを止めた。


 リージスの鼻先には銃が突きつけられている。いや、それだけではなかった。いつの間にか地上にせり上がってきた地下室の周りは全て警官隊に囲まれていた。すでにリージスの部下達は逃げようとした者も含め、全員銃を捨て、両手を上げている。そしてリージスも彼に銃を突きつけていた警官の命によって取り押さえられたのだ。


「な、何だ、お前達は。私は王位継承者のリージス・アルタインだぞ。お前等ごときに捕らえられると思っているのか!」


 だがリージスの目の前に立った男は、銃を胸のホルダーに収めながら言った。


「我々は国王陛下直々の命で動いている」

「な、何だと?なぜ陛下が・・・」


 リージスは信じられないという目でサラを見た。まさかこの少女が・・・?だがサラはただ青い顔をしてウィディアの腕の中で震えている。リージスはゆっくりと後ろを振り返った。


「ナギサ・コーンウェル?まさかお前は・・・リチャード・コーンウェルの・・・」

「まだ女王陛下がご存命の頃、宮中の晩餐会で何度かお会いしましたね、リージス・アルタイン様。私がまだサラと同じくらいの年齢の時でしたけど・・・」


 リージスはもはや立ち上がる気力も無くしたようにがっくりひざまずくと、震える声で呟いた。


「そんな、陛下が・・・。それでは私の継承権は・・・」


 すがるような目で渚を見つめたリージスに、彼女は冷たく言い放った。


「女の子のクリスマスを邪魔するからです。少し牢の中で頭を冷やして来る事ね」


 なんだか分からないが、急に渚が偉い人になってしまった。リージスや部下達が警官に引っ立てられていった後、ウィディアやサラは驚いたような目で渚を見つめた。勿論ピョンも彼女の肩の上で同じように渚を見つめると“女の子のクリスマスってホンマに大事やったんや。良かった。ウィディアに聞いといて・・・”と内心冷や汗をかいた。


 皆が驚いた目で自分を見ているので、渚はちょっと照れたような顔をすると「さ、帰ろう!今からクリスマスの本番だよ!」と言って城の方へ歩き出した。帰る道すがらウィディアが「どういうことか説明しなさいよ」と問い詰めると、渚は「やっぱり言わなきゃダメ?」と少し言いにくそうだった。


「当たり前じゃない。急に偉くなっちゃって」

「私は普通の女の子よ。凄いのはパパなの」と言って説明を始めた。

 

 まだ渚が生まれる前、エドグアナの皇太子を救ってナイツ(英国勲章第1位と第2位のみに付けられる敬称)と呼ばれるようになった渚の父、リチャード・コーンウェルは、その後も心労で不眠症になった女王の治療に何度も携わっていた。彼の治療が終わると陛下はすぐに調子が良くなるので、何かというと彼女はすぐにリチャードを呼べと言うほど、女王に覚えが良かったのだ。故に彼は家族も連れてよく王宮へ行き、泊まりがけで治療に当たる事もあった。


「だから小さい頃はよく女王陛下に可愛がっていただいたの。9歳で日本に渡ってからはあまり行けなくなってしまったのだけど、それでも両親が亡くなった時は家に入らないほど大きな花輪を送って下さったし、宮殿に来て一緒に暮らさないかとまで言って下さったのよ。もちろん丁重にお断りしたけど・・・」


「一緒にって・・・。じゃ、もし断らなかったら、今頃王女様みたいな生活をしているって事?なんてもったいない。どうして断ったのよ」


 私なら絶対断らないわ。とウィディアは内心思った。


「だって、私がなりたかったのは王女様じゃなくて、古代語学者だもの」


 皆は欲のない渚に思わずため息をついた。



 これ以上この話を引きずりたくなかった渚はサラに「財宝が見つからなくて残念だったわね」と話しかけた。しかしピョンが「いや、そんな事は無いと思うで」と答えた。


「100年以上の年月を経た物はアンティ-クとして認定される。そうなると値段は急激に上がるんや。あれは保存状態も良かったし、かなりの金額で売買されるで」


 それでさっき帰る時、ピョンはアーハードに言ってもう一度あの部屋を元通りに地下へ戻したのかと皆は思った。扉を閉じることは出来ても流れてしまった水までは戻せないので、次に開ける時は簡単に扉を開く事が出来るだろう。


「良かったわね、サラ。パパとママに凄いクリスマス・プレゼントが出来たじゃない」


 渚の言葉にサラも思い切りいい笑顔で「うん!」と答えた。勿論、サラの婚約も間違いなく破棄されるだろう。そのせいもあってサラの笑顔は特上だった。








 彼らが城に戻ると、エネディスとマーシャがリビングでクリスマスの準備をして待っていた。渚達は冷え切っていた身体を暖炉で温めると、早速身内だけのパーティを始めた。


 渚とウィディアそしてピョンのサラへのプレゼントはかなり大きく、しかも頑丈に木の枠を釘で打ち付けてあった。サラだけでは開けられないのでアーハードや使用人達がそれを開けると、中から一枚の絵画が艶のある黒い和風の額縁に飾られて現れた。


「きゃあ!これ、兼平カネヒラ正蔵ショウゾウだわ!」


 歓喜の声を上げるサラに渚は嬉しそうに言った。


「やっぱり!サラなら分かると思ったわ。素敵でしょう?」


 素敵?これが?


 ウィディアは思わず首をかしげた。そこには真っ赤な山に金色の太陽が描かれ、周りも色とりどりの色を使った絵が黒い額縁の中に凄い存在感で収まっていた。ウィディアもピョンも実の所、サラへのプレゼントはお金を出しただけで、渚に任せっきりだったのだ。


「あの、ナギサ。これ、私にはただの赤い山に見えるんだけど・・・」


 ウィディアの質問に、サラが渚の代わりに答えた。


「これは富士山よ。兼平正蔵は赤富士を中心に描く画家で日本ではあまり知られてないらしいけど、世界的には有名よ。スタジアムや記念ホールの壁画とかをよく手がけているの」

「へえ、そうなんだ」


 説明を受けてもやはりウィディアにはこの絵の良さはさっぱり分からなかった。


「それにこの額縁はうるし塗りなのよ」

「え?ほんと?すごいわ!」


 楽しそうに話す渚とサラを横目で見ながらウィディアはピョンに尋ねた。


「ウルシヌリって何?」

「漆という木から出る樹液を塗って仕上げた日本の伝統工芸や。兼平正蔵という画家はよう知らんけど、こういう絵は大事に持っておけば価値が上がる。特にその作家が死んだりしたらな」

「あんたってホント、全てにおいてお金に換算するのね」


 ウィディアがあきれながら言った。


「しゃあない。カエルが絵ぇ見て感動すんのも変やろ。ワイにとって絵画なんてのは投資目的でしかないなぁ」


 いや、カエルが投資目的で絵を買う方がもっとおかしいわよ。とウィディアは思ったが、あえて口には出さなかった。何しろこのカエルは普通とは違うのだから・・・。




 サラが渚達に貰った絵を後で自分の寝室に飾るようアーハードに言った後、今度はサラと両親から3人にプレゼントが渡された。渚とウィディアにはオルゴールの付いた銀製の宝石箱。そしてピョンには上にピョンと同じ黄緑色のカエルの飾りが付いたクリスマスケーキである。


 古城で過ごす素敵なクリスマスをプレゼントして貰っただけでも充分嬉しかった渚とウィディアは、この意外なクリスマス・プレゼントを心から喜んだ。ピョンも思わず「わーっ、これ、ワイ一人で食べてええんか?」と叫びそうになったが、サラの両親を驚かせてはいけないので、両手を叩いて喜びを表すと、エネディスとマーシャは「かわいい!」と大喜びであった。


 楽しいクリスマス・パーティを終えたピョンと渚は部屋に戻ろうと少し薄暗い廊下を歩いていた。ウィディアが途中から見当たらないのでピョンに尋ねると、何か用事があると先に戻ったらしい。


「まっ、色々あったけど、無事にクリスマスが終わって良かったな」


 ピョンが渚の足下を飛び跳ねながら言った。


「え?」


 ピョンの言葉で渚は重大な事を思い出した。渚にとってのクリスマスはまだ終わっていない。あと3段、編み物が残っているのだ。


「ピョンちゃんは後からゆっくり来て!ゆっくりよ、いいわね!」


 叫ぶと渚は慌てて走り出した。ウィディアの部屋のドアを開けて走り込むと、息を切らしながら毛糸の入った紙袋を入れてあるクローゼットを開いた。だがそこにあるはずの白い紙袋は忽然と消えている。


「な、無い?そんな・・・」


 青い顔をして部屋の中を見回すと、ウィディアのベッドの枕元にその紙袋が置いてあるのが目に入った。渚はほっとして駆け寄ると急いで袋の中を見たが、毛糸の姿が見えない。代わりに綺麗にラッピングして口の所に黄緑色のリボンが付いた袋とウィディアからのメッセージが入っていた。


ー あと3段だから仕上げておいたわ。余計な事しちゃったかな?ピョンには私がやったっていうのは秘密よ。ウィディア ー


 そういえばさっきのパーティの途中でトイレに行くと言ってウィディアは15分ほど姿を消していた。


「すごいわ。15分でやっちゃうなんて。私なら1時間はかかってるもの」


 渚はその袋を抱きしめると、隣の部屋に戻って行った。






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