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夢みるように恋してる  作者: 月城 響
Dream7.聖夜のプレゼント
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12.財宝の在処《2》

 森の中をリージスとその部下達に連れられて歩きながら、渚はずっと手記の言葉の意味を考えていた。


 最初にある“暗闇の中に浮かぶ暁の太陽”・・・太陽が暗闇にあるはずがない・・・という事は、これは月じゃないのかしら。“天馬に乗りし王子”って何だろう。天使かな?白き羽ってあるし・・・。天使が闇を切り拓くのかな。つまり朝日が昇るって事・・・?“清き光の元、その冠をうち捨て白き羽と共に闇の中に身を沈めん”。冠って何だろう。王冠は王の象徴だから身分を捨てろって意味かしら。ああもう、全然分からないわ・・・。


「おい!どうなんだ。財宝はどこにある?」


 リージスのせかす声に渚はハッとして顔を上げた。さっきからどこだどこだとうるさい男だ。そんなにせかされても簡単に分かるわけがない。だが、ここで分からないなどと言ったら、何をされるか・・・。


 渚はさももったいぶった様子で咳払いをすると、説明を始めた。


「まず最初の“暗闇の中に浮かぶ太陽”は、これはもちろん太陽ではなく月の事ですわ。“天馬に乗りし王子”というのは・・・言わなくても分かりますわね」

「おお。それは分かるぞ!もちろん私の事だな!」


「正解ですわ。“天馬に乗りし王子が黄金の剣によりて闇を切り拓かん”。つまりあなたが闇を切り拓き、太陽を昇らせるのです!」

「おおーっ、すばらしい。そして私がいにしえの門を開くのだな?」

「その通りですわ!」


 さて、このおめでたい男を、この後どうやって誤魔化そう。渚は笑顔の下で頭をひねった。




 GPSを追って森の中、渚を探していたウィディア達は前方にリージスや部下達に囲まれて歩いている渚の姿を見つけた。いち早く見つけたのはサラで、すぐにその方向を指さしてピョンに知らせた。ピョンはハイドライドを呼ぶと、車の窓枠に飛び乗り、そこから馬の背に飛び移った。


「お前等は脇からまわれ!」


 そう叫ぶと彼はハイドライドに乗って車の側を離れ、そのまま前方に走り出した。


 後ろから響いてきた蹄の音に彼等が振り返ると、誰も乗っていない馬が勢いよく自分たちの方へ向かって走って来るのが見えた。リージス達が逃げる間もなく、ハイドライドは男達の中に突っ込むと高らかにいななきながら、前足で部下達を蹴散らした。


 渚には大きな馬の姿しか見えなかったが、ピョンの「乗れ、渚!」という声に自分の腕を掴んでいた男を突き飛ばし、ハイドライドのたてがみを掴んで馬に飛び乗った。


「振り落とされるなよ!」

「うん!」


 渚は素早く手綱を握るとハイドライドの腹を蹴り、馬はすぐに駆けだした。


「この!追え、追えーっ!」


 リージスの部下達はすぐさま追いかけたが、馬の足に人間が敵うはずもなく、そのうち全員力尽きてしまった。悔しそうに顔を歪めながら息を切らしている部下達の横を、アーハードが運転する黒のベンツがわざとらしくゆっくりとした速度で通り過ぎた。


「バーカ、馬鹿 馬鹿・・・」

「ベロベロベー」


 ウィディアとサラが窓から顔を出して彼等を思いきり馬鹿にしながら行ってしまった後、リージスはギリギリと歯を噛みしめながら額に青筋を立てて叫んだ。


「あのガキ共!覚えていろ!!]


 もはやリージス達は追いかけては来ないだろうという所まで走ると、渚はハイドライドを止めた。こんなに早く走る馬に乗った事がなかった渚はすっかり力を使い果たしてしまい、ぐったりして背中を丸めた。


「大丈夫やったか?渚」

「うん。ありがとうピョンちゃん。それにしても、よくあそこに居る事が分かったね」

「え?ま、まーな。ワイは感が鋭いんや。知っとるやろ?」


 ピョンは慌てて誤魔化した。渚にGPSを付けている事がばれたら、さすがに怒るだろう。


 やがて後ろからウィディア達もやって来て、彼らは嬉しい再会を果たし、渚達は城に戻ってきた。昼も食べずに走り回っていたので、渚の部屋に軽い食事を運んで貰い、食べながら話す事にした。財宝があるのかないのか、はっきりするまではエネディスやマーシャには知られないよう探す方がいいと、ピョンが言ったからだ。


 手記はリージスの手に残ったが、その内容を渚は全て覚えていた。彼女は英語で書かれていた部分を簡潔に説明すると、古代カタルニア文字で書かれていた部分を紙に書いて、ソファーや絨毯の上に座っている友人達に見せた。


ー 暗闇の中に浮かぶあかつきの太陽の元、天馬に乗りし王子が舞い降りる

  かの君、その黄金の剣によりて闇を切り拓かん

  清き光の元、その冠をうち捨て白き羽と共に闇の中に身を沈めよ

  さすればいにしえの門は開かれるであろう ー



「何これ。さっぱり分からないわ」


 ウィディアがぼやくように言ったが、無論サラやアーハードにも全く意味は掴めなかった。渚はリージス達に連れて歩かされている間に考えた事を言ってみた。


「暁の太陽っていうのは、月の事だと思うんだけど・・・」

「じゃあ天馬に乗りし王子ってのは?」

「うーん・・・」

「それは比喩ではないのですか?」


 アーハードが口を開いた。


「じゃあ黄金の剣もそうよね」

「冠も?じゃあ全然意味が分からなくなっちゃうわ」


 皆が「うーん・・・」とうなって困ったように首をかしげた。ピョンはじっと皆の言う事に耳を傾けていたが、「ねえ、何か思いつかないの?あんたこういうの得意そうじゃない」というウィディアの言葉に顔を上げた。


「暁・・・というのは夜明けや。この太陽が反語で月やとしたら、月が昇って来る時を指す。後の文章はその場に行ってみんと分からんやろな」

「その場って・・・?」


 ピョンはもう一度じっと文章を見た。


「アーハード。ブライトン家の敷地内に池か湖に面した建物はないか?そんなに高くない2階建てくらいの」

「池も湖もいくつかありますが、建物がある所は・・・」


 アーハードがじっと考えていると、サラが叫んだ。


「アーハード!ほら、あそこ。霊廟よ。ブライトン家の」

「おお、そういえば」


 ブライトン家の代々の当主やその妻子達の眠る墓地が、ここから3Kmほど離れた森の中にあるそうだ。無論初代アトラス・ブライトンもそこに眠っている。


 それやな・・・とピョンは確信した。


「もうすぐ月の昇る時間や。行ってみるで」





 彼らが2階からバタバタと足音を響かせて降りると、エネディスが主賓室から出てきた。


「これこれ、君たち。今夜はクリスマスだというのに、こんな時間からどこへ行くんだね?」

「パパ。宝探しをしているのよ。見つかったら、パパとママに全部あげるわ!」


 そんな娘の言葉は嬉しいが、彼らが本当に宝を探しているとはエネディスには思えなかった。 


「それはいいけれど、さっきも凄い音が鳴り響いていたし、それに子供は夜出かけるものではないよ」


 エネディスとマーシャは音には気づいていたが、リージスの別荘の方角だったので、多分彼が何かをしているのだろうと思いあまり気にもしていなかった。だがさすがに子供の夜の外出は許可してくれそうになかった。


「旦那様。差し出がましいとは思いますが、これは次期当主であられるサラ様にとって大切な事なのでございます」

「そうですわ。サラの事は私たちが責任を持って見ますから」 


 アーハードをウィディアが援護した。


「しかし・・・」

「パパ、お願い!決して危ないことはしないから。ね?」


 かわいい娘の“お願い”には侯爵家の当主も弱いらしい。「気を付けて行ってくるんだよ」と笑顔で送り出してくれた。


 表の大きな木製のドアを出て、ウィディアは後ろを歩いている渚に言った。


「うまくいったわね」

「え?え、ええ。そうね。これで財宝が見つかればいいのにね」


 渚は心ここにあらずで答えた。彼女にとっては財宝よりも重大な問題があったのだ。



“どうしよう。あと3段なのにぃぃぃ・・・”







 そろそろ薄暗くなってきた森を抜けると、白い十字架が立ち並ぶブライトン家の墓地に到着した。墓地の周囲は白い鉄製の柵で囲まれ、同じ白い鉄製の豪華な模様の入った門があり、その両開きの門の中央にはブライトン家の紋章である羽の生えた二頭の馬が向かい合っている姿がはめ込まれていた。


 アーハードが墓地の鍵を取り出して門を開け、「霊廟はこの奥です」と言って皆を案内した。しばらく行くと、周りから墓標が消え、広場のようになった所に直径10メートルくらいの池が現れた。その池の向こう岸にはサラが言ったように2階より少し低めの白い霊廟が建ち、この地に眠る祖先達の名が刻み込まれていた。


 ピョンはハイドライドの背に乗ってじっとその池と霊廟を見ていたが、渚の名を呼ぶと、馬に乗って見るように言った。渚が馬にまたがるとピョンは渚の肩に乗り、再びじっとその霊廟を見つめながら呟いた。


「はーん。そういう事か・・・」


「ナギサ、見えるか。あの霊廟の上。ちょっと盛り上がった飾りの中に金色の石が見えるやろ?」

「うん・・・」

「あれが暁の太陽や。そして闇に浮かぶ月が昇って来る・・・」


 じっと立って皆は月が昇るのを待った。ゆっくりと月光がその白い霊廟を照らし始めた。


「よう見ときや。天馬に乗った王子・・・。つまり馬上の者にしか見えへんはずや」


 渚はゴクッとつばを飲み込んで、じっと目の前の霊廟と池を見つめた。やがて木々の間から顔を出した月の光がその暁の太陽を照らした時、一筋の淡い光が池の上に落ち、その光は黄金色の剣の形を取ったまま波の上で揺れていた。


 池の縁に立っているウィディアやアーハードやサラにはただの月の光が池に映っているようにしか見えなかったが、渚とピョンの会話で何かが起こっている事は想像できた。


「あれが闇を切り拓く黄金の剣。そして・・・」


 波の上に映った黄金の剣を指さした後、ピョンはハイドライドの背から飛び降り、池の縁に跳ねて行った。


「清き光の元、その冠をうち捨て白き羽と共に闇の中に身を沈めよ」


 そう呟きながら、池の中に入ろうとしているピョンを見て、渚は慌てて馬から下りた。


「待って、ピョンちゃん。危ないわ」

「ワイはカエルやで?心配すんな」

「でも・・・!」


 彼は不安そうな渚に笑いかけると、ポチャンッという小さな音を残して池の中に姿を消した。






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