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夢みるように恋してる  作者: 月城 響
Dream14.初恋は星空の下で
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4.スティーブとアンドルーの休暇

 応接室のシャンデリアの光を受け、キラキラと光り輝く最高級ボヘミアクリスタルで作られたパリュール(ネックレスやピアスなど様々なアイテムが揃ったジュエリーセット)だ。色はどんなドレスにも合わせられるようクリスタルカラーだが、光の方向によっては虹色の光彩を放ち、それが更にこのアクセサリーの高級感を引き立たせていた。


 あまりの美しさにティアナはため息をついて頬に両手を当てた。


「ティアナももう14歳だ。そろそろ一緒にダンスを踊るボーイフレンドも出来るだろう。これを付けて素敵なパーティを楽しんでおいで」

「お祖父様ぁ!」


 ティアナは感動のあまりウィリアムの首に抱きついた。何て気の利くお祖父様だろう。そうよ。ルパートは5年生だから来年卒業だもの。彼の卒業パーティでパートナーの私がこれを付けて踊れば、みんなの注目を集めまくる事は間違いないわ。


 キーラの悔しそうな顔が目に浮かんで、ティアナはこの上なくハッピーな気分だった。


 一方ウィリアムの方もティアナの予想通りの反応にニヤニヤが止まらなかった。さっきの台詞でティアナは “ 何て理解のある素敵なお祖父様 ” 思っただろう。娘が年頃になって男友達との関係を嫉妬する男親も居る中、お祖父様は背中を押してくれるのね・・・と。実に見事な作戦だ。これで来年もティアナのNo.1はわしに決まりだな。


「所でお祖父様。今回はいつまでいらっしゃるの?」


 ティアナが下からウィリアムの顔を覗き込んだ。


「残念だが3日後にパリで社会福祉功労者の授賞式のプレゼンターとして呼ばれておってな。明後日の夕方には出発せねばならん。だが・・・」


 明日は一日一緒に居てやれるぞ、と言おうとしたが、ティアナが勢いよくソファーから立ち上がる方が早かった。


「そうなの?私も明日から一泊二日で学校の秋季キャンプなの。入れ替わりになっちゃうけど仕方ないわね。じゃ、私は明日の準備があるから」


 ティアナはさっさと土産物を両手に抱えると、2階の自室へ向かうサーキュラー階段へと向かいつつウィリアムを振り返った。


「そうだ。夕食は一緒に食べましょ。明日は早いから一人で済ませて出かけるからお祖父様はゆっくりしててね」

 

 そのまま軽い足取りで階段を上がっていくティアナをウィリアムは呆然と見送った。


 2日しか一緒に居られないことを残念がってもらえると思って居たのに・・・。いや、昔は「お祖父様、もう行ってしまうの?」と凄く寂しそうにしていたはずだ。この間同じような年頃の娘を持つ知り合いが「子供も大きくなると親より学校の友人の方が大事になるんですよ」と少し寂しそうに言っていたが本当だったのだ。


「息子のショーンや母親のソニアでもなく、学校の友人に負けるとは・・・」


 明日は一日ショックで立ち直れなくなりそうなウィリアムお祖父様であった。







ー 秋季キャンプ 当日 ー


 キャンプと告白イベントの準備を完璧に仕上げたティアナを学校へ送った後、スティーブはゴードン家の屋敷に戻るなり、出かける準備を始めた。ティアナの旅行中、スティーブとアンドルーには休暇が与えられたのだ。いつもティアナから目を離せない2人にとって連休をもらえるなんて初めての経験だった。


“ この2日間は絶対有意義に過ごす! ”


 そう決意したスティーブは以前から登りたかった山へ登山に行く事にした。イギリスは絶景を楽しめるトレッキング・コースが多数在るのだ。休みの日に登山に行く事は度々あったが、いつも日帰りで戻れる近場の山しか登れなかった。だが2日あれば、英国で有名なスリーピークス(イングランド、ウェールズ、スコットランドにあるそれぞれの最高峰)のどれかにチャレンジするのも悪くない。とりあえずはスコットランドの最高峰で英国でも最高峰であるベン・ネヴィス(Ben Navis)にチャレンジする事を決めていた。


 相棒のアンドルーも誘ってみたが、「は?登山?冗談じゃ無い」とにべもなく断られた。インドア派の彼は休日は部屋でゆっくりしたいのだろう。


 防寒のしっかりした服装に着替え、昨日から用意しておいた登山用の大きなリュックを背負って部屋を出た。アンドルーはまだ寝ているのだろうか。姿は見えなかったが、すれ違ったメイド達に出かける挨拶をする。皆この休暇を楽しみにしていたスティーブの事を知っているので、愛想良く「行ってらっしゃい」と送ってくれた。


 屋敷の外へ出たスティーブは空を見上げて大きく深呼吸した。何て登山日和ないい天気なんだろう。わくわくする気持ちを胸に、彼は朝の清浄な空気の中を歩き出した。



 スティーブが部屋を出て5分後。彼の隣の部屋のドアが開いてアンドルーが顔だけを覗かせて辺りを窺うように見回した。どうやらスティーブは予定通り出かけたようだ。彼は微笑むと首を引っ込め部屋のドアを閉めた。計画の第一段階はOKだ。思わず「ふうっ」と声が出る。


 こんなに緊張しているのは4年前、ゴードン家にティアナのボディーガードになる為、この大きな屋敷に面接に来た時以来だ。2日間の休暇が決まった時、スティーブは早々に登山の予定を入れ、そしてアンドルーもある計画を実行に移す最高最大のチャンスだと思った。


 以前からずっと渚に会いたいと思っていたアンドルーだが、ピョンに邪魔されるのが分かっていたのでずぶずぶと悩みながらも諦めていた。だが以前銀行に行って自分を励ましてくれたピョンの事を思い出した時、少しは彼を信頼してもいいのではないかと思った。自分が必要以上に渚に近づかなければピョンは執拗に邪魔をしてくるような事はないのではないか。だからどうせピョンの妨害を受けるのなら、彼を巻き込んで渚に会えばいいと考えたのだ。


 だが渚に会うと分かったら、ティアナも必ず私も行くに決まっているていで話が進むだろう。当然スティーブもセットでやって来る。出来る限り渚とたくさん話がしたいのに、ティアナが居れば当然自分との会話は減少するし、ティアナは明らかにピョンの味方だ。それにスティーブは何となくアンドルーの気持ちに感づいている雰囲気もある。だから彼等が2人とも居なくなる今日が絶好のチャンスなのだ。渚にはちゃんと今日の午前中の授業が終わってから予定を空けておいてもらえる様に約束を取り付けてある。


“ さあ。計画通り進めるぞ! ”


 アンドルーは部屋の中で気合いを入れると、ウキウキしながらいつも使っている古い鞄を持ってゴードン家を後にした。






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