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夢みるように恋してる  作者: 月城 響
Dream14.初恋は星空の下で
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1.何処にでも天敵は存在する

 イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4つの国から構成される連合王国である。だからそれぞれの国に独自の議会や法律が存在していて、教育に関してもそれぞれの国で違うシステムがある。


 イングランドのセカンダリー・スクール(中等学校)は11歳から16歳までを対象とし、プライマリー・スクール(5歳から11歳まで)を含むここまでが義務教育である。日本のような高等学校は存在せず、セカンダリー・スクールを卒業すれば皆、大学や専門学校に進むか、就職をする。セカンダリー・スクールに進む際、たいていの人は学費無料の公立学校や厳しい試験に合格しないと入学できないグラマー・スクールに進むが、ゴードン家のように地位、名誉、財産の3拍子揃った家門のご子息ご令嬢は授業料が半端なく高い名門私立学校に通う。イギリスではわずか5~10パーセントの生徒しか入学しない、特別な学校だ。


 ピョンに勧められて学校に通う事にしたティアナは13歳からその私立学校に入学したので、当然クラスに馴染むのはなかなか難しかった。それでもピョンに言われたとおり”根気よく明るさを失わない”ように努力して、数人の女子グループに所属する事が出来た。


 こういった小さな学生達の間にも、やはり階級意識は存在している。特に有名な私立学校に通っている自分達が特別な存在である事は当然認識していて、その中でもゴードン家のように経済界で名の知れた一族の娘であれば、グループの中で中心的な存在になるのは必然であった。


 入学して2、3ヶ月も経つ頃には、ティアナは5人の女子達から成るグループのリーダー的存在になっていた。


 しかし何処にでも自分にとっての天敵は存在するものだ。ティアナにとって同じクラスのキーラ・レジストンが正にそれであった。彼女はイギリスでも有数のゼネコン(総合建築企業)、レジストン・コントラクション・カンパニーのCEOの娘でクラスの中でも常に一目置かれている存在だ。


 初めてクラスメイトの前で自己紹介をした時に教室の真ん中の席に座っている彼女に最初に目を引かれた。周りの生徒より頭一つ抜きん出ていた彼女は、少しウェーブのかかった美しい金髪にライトブルーの明るい瞳の目立つ存在だった。背の高さだけでなく、長い四肢とくびれたウェストがそのスタイルの良さを強調している。


 親の財力的には同等であっても、赤い髪と地味な茶色の瞳、背も低く子供っぽい体型のティアナとはその見かけからして差が付いていた。


 それでも負けん気の強いティアナはキーラに負けたくなかった。いや、だからこそ負けられないのだ。


 そして最悪な事に9月になって3年生になっても、その関係は変わらなかった。再び同じクラスになってしまったからだ。不幸中の幸いは2年の時に友人になった、ジャンヌ、メリー、カーラの3人が同じクラスだったので、そこだけは良かったのだが・・・。


 そんな2人は授業中、昼休み、放課後、行く先々で顔を合わせればバトルが勃発する。


 ティアナ達の学校では昼食はSchoolスクール Dinnerディナーと言われる形式でそれぞれがトレーを持って並び、好きな物を取れるバイキング形式になっている。大抵は教室ではなく、カフェテリアやランチルームで友人達と共に摂るのだが、昼休みに入ったカフェは一杯でティアナ達はトレイを持ったまま席が空くのを待っていた。


 やっと5人が座れる大きなテーブルが空いたので座ろうとすると、同じように待っていたキーラのグループと鉢合わせになった。こちらはジャンヌ、メリー、カーラに加えて新しくメンバーになったセリーヌを含む5人組、あちらは女子6人グループだ。残念ながらグループの人数でも負けている。だからといってひるむわけにはいかなかった。


 当然グループのリーダーであるティアナは、こちらが先に見つけていた席だと主張した。だがキーラは背の低いティアナの上から正にのぞき込むようにしてニヤリと笑った。


「嫌だわぁ、ティアナ。私達はあなた達がここへ入ってくる前からこの席に目を付けていたの。ほら、見て。テーブルの端に赤いハンカチがあるでしょう?あれは次は私達の席という意味よ」


 見ると、本当に赤いハンカチが4つに折り畳まれて置いてある。それでもティアナは堂々と言い返した。


「そんな物、今置いたんじゃないの?何の証拠にもならないわ」

「やだ、ティアナったら。どうやって2メートルも向こうにあるテーブルの端に今置けるって言うの?貴女ってそんなに頭が悪かったかしら。ああ、そう言えば貴女の成績って、上からより下から数えた方が早かったわよねぇ。納得だわぁ」


 目を細めて「ほっほっほっ」と笑っているキーラをギリギリ歯を噛みしめながら見上げて居るティアナは、これ以上ここに居たらランチトレイを投げ捨てキーラに飛びかかりかねないと思った女友達に引っ張られて別のランチルームに連れて行かれた。完敗である。


 又ある時は・・・。


 今日は午後から体育の授業だ。最近英国では太り過ぎの子供が増えていて少々問題になっているので、スクワットや空中椅子など結構本気で筋トレをさせられたりするのだが、今日の体育はドッジボールだった。この他にクリケット、スカッシュ、ネットボール(イギリス版のバスケに似たスポーツ)、ラウンダーズ(イギリス版の野球に似たスポーツ)等の球技も行われる。


 英国のドッジボールは世界基準で、日本のドッジボールとは似て非なる物である。まずコートが内野しか無い。しかもボールは1つではなく5つだ。それを交互に投げ合い、3分間を1セットとして3分経過するか全滅したら2セット目になり、前半と後半が15分ずつでセットの多い方が勝ちとなる。


 ティアナは他のどの球技よりドッジボールが得意だ。それは相手が男子だろうと変わりは無かった。そして正に今、目の前の相手コートに宿敵の姿を見つけたティアナは、ニヤリと口の端を歪めて笑った。日頃ありとあらゆる場面で完敗を喫した仇を今こそ倍にして、いや3倍にして返す時だ。


ー キーラ・レジストン!今日が貴女の命日よ。覚悟するがいいわ!! ー






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