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夢みるように恋してる  作者: 月城 響
Dream13.洋上の幽霊(ゴースト)ー Ghost on the Ocean ー
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14.爆弾の爆発とバラスの復讐

 セスリーが手に持ったスマホを床に置き、渚と太い配管をつないでいる縄と足首を拘束している縄をほどいた。もう一度スマホを左手で拾い、もう片方の手で縛られたままの渚を立たせた瞬間、セスリーは驚いたように目を見開いたまま、急に前に倒れた。


「え・・・?え・・・?」


 訳が分からず倒れた男を見ていると、「ナギサ!」と言う叫び声と共にロイスとベラが右前方の角から姿を現した。実は例の極小ドローンが、ずっとセスリーの後方から彼を追跡していたのだ。


 さすがに一般人の乗る船で毒針は仕えないので、即効性の麻酔を針に仕込み、背後からセスリーの首筋に針を打ち込ませた。それで声を立てる事も叶わず、セスリーは倒れたのである。


 すぐにベラが走り寄って渚の身体に巻かれた縄をほどき始める。ロイスのポケットの中にいたピョンが「ナギサ、大丈夫か」と言いつつ顔を出したので、渚は泣きそうになったが、ふと違和感を感じて足下を見つめた。


 彼女の左横に置かれた爆弾は先程まで何の変化もなかった。だが今、中央部分の表示部に赤い数字のランプが一秒一秒、数を減らしながら点滅を繰り返していた。


 誰が見てもそれが爆発までのカウントダウンだと分かる。残り時間は後8分40秒だった。


「この野郎!倒れた拍子にスイッチを入れやがったな!」


 ベラが叫びながらセスリーの手からスマホを取り上げ、起動画面を確認する。


「駄目だ。ここからじゃ解除できない」


 ベラのその言葉を聞いてゴーストはすぐに爆弾を抱え走り出した。


 ベラもゴーストも爆弾の知識はあるが、直接触って解除できるほどの知識は無い。ここで爆発すれば自分達だけでなく船が沈み、大勢の乗客が巻き込まれるのは必至だった。


 走り出したゴーストをベラも追う。当然ゴーストのポケットの中にいるピョンもそのまま彼等と運命を共にする事になった。渚も身体に引っかかっていた残りの縄を投げ捨てると彼等の後を追った。


ー あと5分20秒 ー


 それだけの時間で船のデッキまで行けるかどうか・・・。奥歯を噛みしめ全力で走るゴーストを補助する為、ベラも走り続ける。途中ドアがあればベラが開け、たくさん人がいる場所では自分が人よけになってゴーストの行く道を作った。


ー あと1分50秒 ー


 彼らの中では爆弾の表示部を見なくても残り時間が刻まれている。何とかデッキまで上がってきた。ベラが叫ぶ。


「爆弾だ!船の中へ戻れ!早く!」


 その叫びの後、ゴーストはデッキの端まで走り、爆弾を空中へ放り投げた。爆弾はその3秒後、空中で爆発した。


「イアンッ!」


 ベラは叫び声を上げたが、爆破の衝撃と爆風でデッキや船のガラスが一気に破壊され、周りにいた乗客が叫び声を上げながら頭を押さえてその場に倒れ込んだ。


 衝撃が収まった後、ベラはすぐに顔を上げて周りを確認した。飛んできたガラスの破片などで怪我をした乗客もたくさん居るようだが、皆命には別状はないようだ。それを確認した後すぐに立ち上がって周りを見回し、イアンを探した。


 爆発の一番近くに居たが、あいつなら必ず無事なはず・・・。


 ゆっくりと収まっていく爆煙の向こうに、デッキの端にあった鉄製のテーブルを盾にしてその前に座っている彼を見つけた。


「イアン・・・!」


 すぐ駆け寄って行こうとしたが、イアンが立ち上がり自分に向かって銃を構える方が早かった。驚いたように立ち止まったが、ベラはイアンが自分ではなく、自分の背後に銃口を向けている事に気が付いた。ゆっくりと後ろを振り返ると、頭に銃を突きつけられ、真っ青な顔で立っている渚が居た。


 彼女を後ろから羽交い締めにして銃を突きつけているのはもう1人のジェネプトロの構成員、ギルバートだ。


「キーを渡せ。持っているんだろう?」

「・・・ここにはない」


 ゴーストは慎重に答えた。


「何処に在る?」

客室キャビンに隠してある。持って来るから待ってくれないか?」


 ギルバートは少しの間考え、ゴーストを睨みつけながら答えた。


「お前は信用できない。そこの女。お前が取ってこい」


 ギルバートに背を向けたまま立っていたベラは、それを聞いて“おやおやご指名か?”とニヤリと笑った。


 イアンとギルバートの会話の間に袖口に隠している得物ナイフの用意は出来ている。後は振り向きざまにこいつをあの男の手に命中させ、怯んだ所でイアンが銃で制圧するだけ・・・。


 ベラが「分かった」と答えてギルバートの方を振り向こうとした時だった。


「ナギサに何すんねやぁぁーっ!」


 叫びながらゴーストの上着のポケットから飛び出してきた緑の塊を一瞬でゴーストは掴みギルバートに投げつけた。ゴーストにとってピョンは只のロボットだ。それはもう全く躊躇なく思い切り投げた。


 ピョンはそのまま勢いよく飛びギルバートの両目の上にベチャリと張り付いた。ギルバートが「うわっ」と声を上げ、渚から注意がそれた瞬間、ベラがギルバートの右手にスローイングナイフを投げ、ゴーストの銃弾は彼の肩を撃ち抜いた。


 渚はそのまま「キャッ」と声を上げ、前に倒れる。ベラがすぐに肩を押さえてうめいているギルバートを取り押さえた。そしてピョンは相手には全くダメージがないと分かっていても怒りを抑えきれず、両手でギルバートの顔を何度も殴っていたのだった。


 すぐに騒ぎを聞きつけてやって来た船員達の手で、ギルバートは床に倒れたまま縛り上げられた。 


 ほっとして身体を起こした渚は、自分の前にひざまずいて右手をスマートに差し出すロイスを見上げた。


「大丈夫?ナギサ。怖かっただろう。よく頑張ったね」


 背景に太陽の光を浴びてキラキラと輝く海を背負ったロイスは、今正に渚の目には王子様のように映っていた。


 そんな彼等の様子を周りで見ていた乗客がホッとしたように拍手を送り始めた。そしてそれらの全てを割れたガラスドアの向こうから見ていたのは、バラスだった。彼は18階に居たのだが、激しい爆音に驚いてデッキまで降りてきたのだ。


 そこで彼が見たのは、まるで映画のヒーローのように活躍する彼等の姿だった。人質に取られた女性を絶妙なコンビネーションで救い出すなんて・・・。しかもそれを多くの人々が目撃し、彼等に無上の賛辞を贈っている。


 何なんだ、何なのだ、これは。この俺様を無視してどうしてあんな下の奴等ばかりが賛辞を受けるんだ。俺はこの船で一番なんだぞ。その俺を差し置いて・・・。さっき散々ピョンにからかわれた経緯もあって、燃え上がるような嫉妬心が沸々と湧き上がってきた。バラスは割れたガラスをバリバリと音をさせながら踏みしめデッキに出た。


 丁度ロイスの手を借りて立ち上がった渚は少し赤い顔をしてロイスを見た後、まだギルバートを殴っているピョンに目を移した。


「ピョンちゃん」


 呼びかけられた渚にピョンは「ナギサ!」と声を上げると、ギルバートの顔を蹴ってぴょーんと飛び上がった。しかし渚の差し出した手に届く前、横合いからにょきっと伸びてきた手に身体を掴まれた。そしてピョンを掴んだバラスはそのまま走り出し、「だりゃあああっ!」と叫びつつ、ピョンを海に向かって放り投げたのだ。


 びっくりして渚は「ピョンちゃん!」と叫びつつ、デッキの端に駆け寄った。その小さな姿が海の中へ消えた時、渚の頭の中は真っ白になって、とっさに爆発で壊れた手摺りを乗り越え、海に飛び込もうとした。


「ナギサ、駄目だ!」


 ベラが慌てて渚の身体を押しとどめる。


「放して!ピョンちゃんが、ピョンちゃんが・・・!」

「ピョンはロボットでしょ?ハザード氏が死ぬわけじゃない!」

「違うわ。ピョンちゃんが彼なの。彼がアルティメデスなの!」


 もがく渚をベラが必死に押さえる。


「ナギサ、こんな所から飛び降りたら無事じゃ済まない」

「駄目よ。ピョンちゃんは、ピョンちゃんは私の・・・!」


 その時、押し問答をする彼等の脇をすり抜け、上着を脱いだロイスがデッキから飛び降りた。渚もベラも驚いて目を見開いた後、デッキの端から遙か下にある海を見下ろした。


「ロイス?どうしよう、ベラ。ロイスが・・・」


 ベラはちょっと困った顔をしながら渚に言った。


「だ、大丈夫よ、あいつなら。確かにこの高さはちょっと高いけど、絶対大丈夫・・・」


 なんと言っても隊では遠泳も一番だったし、潜水も一番だった。ムカつくけど・・・。私では無理かも、だけどあいつなら・・・とは口が裂けても言えないベラだった。


 ベラの予想通り、波に飲み込まれそうになりながら何とか意識を保っていたピョンは、海の中から上がってきたロイスの手に掴まれ少し息を荒げながらもホッとため息をついた。


「大丈夫ですか?ミスター・ハザード」

「ワイは大丈夫やけど・・・」


 そう言ってピョンは自分が落ちてきた遙か上のデッキの端を仰いだ。


「お前こそ大丈夫か。あそこから飛び降りたんや。相当な衝撃やったやろう」

「ええ。途中ちょっと意識を持って行かれそうになりましたが、何とか・・・」


 そう言ってゴーストは濡れた髪を掻き上げた。勢いよく海に飛び込んだ衝撃でカツラが取れ、今は地毛の黒く短い髪になっている。しかも変装用のフェイスマスクも水が入り込んでぐしゃぐしゃになってしまった為、海の中で脱ぎ捨てた。昔と違って今のマスクは人の肌のように薄く、しわなども自由自在に作り込める優れ物だが、水に弱いのが弱点だった。


 それにしても、すっかり様子の変わった俺を見ても驚かず、すぐに俺だと気付いたのはさすがの狸じじいだな。いや、狸ガエルか。


 そんな事を考えていると船の上部から一艘の救助ボートが下ろされて来るのが見えた。ボートの上に乗っている船員が大きな声で無事の確認をしている。ピョンはボートに向かって手を振り上げたロイスをちらっと見た。


「・・・で?ワイを助けたんはもちろん、ワイの事を心配して・・・じゃないわな」

「ええ、勿論。下心ありありですよ」


 そう。勿論、『青の群像』を無条件で渡して貰う為だ。彼は借りを作るのを嫌う人種だ。今度こそ必ず手に入れてみせる。


「でもそれだけではありませんよ。渚はあなた自身が”彼”だと言った。どういった経緯かは分かりませんが、あなたが“誰も顔を知らない億万長者ミリオネア”なのですね」


「通り名まで知ってるんか。まあええわ。お互い“人に知られてはいけない身分”や。ひっそりこっそりお互いの胸の内に留めておこか」


「そうですね。又ナギサに泣かれては困りますから。彼女が泣きながらあなたを助ける為に飛び込むと言わなかったら、私は飛び込んでなかったかも知れません」


なんやと?お前、まさかナギサに惚れとんちゃうやろな!そんなん絶対に許せへんぞ!」


「おや?ナギサはあなたを只の友達だと言っていましたが?しかも別の女性の部屋にお泊まりしたんですよねぇ。うわー、不潔、最低」


 無表情な顔で単調に自分を責めるロイスに、ピョンは真っ赤になって(カエルなので顔色は分からないが)叫んだ。


「わぁぁっ!やめろ、不潔、うなぁぁー!」


 大騒ぎしている彼等の側までボートが近づき、船員達の手でピョンとゴーストは救出されたのだった。






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