深まる秋と、散りゆく落ち葉。
秋はだんだん深まってくる。
朝晩の冷え込みが激しくなってきて、大きな榎の木は、ハラハラと葉っぱを散らし始めた。
小鳥たちの好きな榎の実は、もうすでに乾燥してしまって、カピカピになっている。
あぁ……もうすぐ、本格的な秋が来る。
ボクは少し悲しくなる。
庭にある薄黄木犀の花が、優しく香り、ハラハラと散った。
薄黄木犀のその香りは、キンモクセイの香りにすごくよく似ている。
キンモクセイよりも少し柔らかい、清々しい甘い香り。
けれど庭の薄黄木犀は、いつから生えているのか、結構な大木で、たった一本しか生えていないというのに、とても良い香りを辺りに振りまいた。
──盛誉。玖月善女さま。
ボクはあの日の事を思い出す。
ボクの目の前で斬られてしまった盛誉。
……ボクは、なにも出来なかった。
それから息子を無実の罪で亡くし、失意のうちに自ら命を絶ってしまった あの、優しかった玖月善女さま。
二人の笑顔が薄黄木犀の香りと重なって、優しくボクを包み込む。
『……』
四百年たった今でも忘れられない。
どうして死んでしまったの?
どうしてボクを置いていくの?
ボクは何故、まだ二人のところへは逝けないの?
……そんな思いが溢れて止まらない。
『……』
薄黄木犀は、そんな二人の大好きだった花。
だからその香りを嗅ぐと思い出してしまう。
悲しい記憶。
だけど とても大切な、大好きな二人。
忘れたい悲しい記憶。
だけど二人のことはどうしても忘れたくなくって、この小さな丘にある お屋敷の庭に、薄黄木犀の木があるのを見つけて、ボクは浮かれた。
懐かしいあの優しい香りを嗅いで、ここから離れられなくなってしまったんだ。
……薄黄木犀は、そんなに多くはない。
キンモクセイや、ギンモクセイは海から来た木なんだけれど、この薄黄木犀は日本にもともとあった木なのだと言われている。本当だろうか?
キンモクセイとギンモクセイの間のような、薄黄木犀。
淡い色の可愛いその花はとても儚くて、
それからとても、
──愛おしい。
『……』
ボクは悲しくなって、どうしようもなくなって、ふと……外を見た。
『!?!?!?』
──今日もいやがった……っ!
感傷に浸りながら覗き見た庭の榎の根元に、やっぱり例の女の子。
もう凄く寒くなったからなのか、モコモコたくさん服を着て、まるでボールのように木の根元に転がっている。その姿は滑稽だ。
『なにやってんの……っ!?』
思わず唸る。
唸った途端、ものすごい風が吹き荒れた!
──ごおぉぉおぉぉ……。
ガタガタガタ……
窓ガラスが鳴った。
屋敷は古い。
強い風が吹くと、こうやって窓を揺らす。
ボクはギュッと目をつぶり、それからゆっくり瞼を開けた。
室内にいるボクが驚くほどの風。
あの子は平気だったろうか……?
薄く目を開けると、木の葉が舞っていた。
風は榎の枝という枝を揺らしていき、雪のように葉っぱを舞いあがらせた!
パラパラ、ぱらぱら……。
パラパラパラパラ──
『あっ……』
雪のように降る木の葉が、まんまるボールを埋めていく。
ボクは焦った。
あのままいたら、きっと風邪を引いてしまう……!
だからボクは決心する。
そうだ! カカシを作ろう!
カカシは、小鳥たちが嫌がって逃げていくヤツだ。
すこぶる怖いヤツを作って、あの木の根元に置いていたら、きっとあの子は来なくなるに違いない!
『よしっ!』
ボクはそう意気込んで、【カカシ作戦】を決行することに決めたんだ──!
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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