初恋の人の隣には、いつだってその幼馴染がいた
この作品は、他に書いた『ずっと一緒にいた幼馴染は、どうやら僕とは付き合わないらしい』の別作というか、入れようとしてやめた話を若干手直したものになります。
ハッピーエンドではありませんので、読みたい方のみお読みください。(このため、本編の方に紹介を載せておりません。)
私には好きな人がいる。彼は目立つタイプではないけれど、いつも落ち着いていてとっても優しい。
それに、男の子達にも一目置かれているみたいで、頼りにされていることも多い。
最近では、ダメだとは思いつつも、いつも目で追ってしまう。
でも、私の初恋が実ることは無いかもしれない。
いや、違うか。戦う前に諦めてしまったのだからそもそも実るわけがないのだ。
中学生になっても、男の子達はみんなお子様だ。掃除の時間、真面目にやってと何度もいったけど聞いてくれなくて、ずっと騒いでいる。悪ぶって、カッコつけてほんとにダサい。
たぶん、同じ掃除のグループにいる桐谷さんの気を引きたいんだと思う。
確かに、まるで妖精みたいな、幻想的な美しさを持つ彼女と仲良くなりたいのは分かる。
でも、彼らが全く興味を持たれてないのは一目瞭然で、それこそ、一瞥すらせずにいつも淡々と掃除を続けているんだからそろそろ気づいて欲しかった。
本当に男の子はバカだ。彼女が見ているのは噂の彼だけなんだから、早めに諦めたほうが得だと何故気づかないんだろう。
「はぁ。桐谷さんは一切悪くないんだけどなんだかなぁ」
校舎裏のコンテナにゴミ袋を捨てた後、つい独り言を呟いてしまう。
「花音がどうかしたの?」
「え?」
「二組の山下さんだよね?ごめんね。聞こえてきちゃって」
そこには、同じくゴミを捨てに来たらしい一組の丸山君が立っていた。
彼は、特別目立つタイプではないけれど、不思議な存在感がある。
それに、話題の桐谷さんと凄く仲が良いのでちょっとした有名人になっていた。
「いや、別に大したことじゃないの。桐谷さんもぜんぜん悪くないし」
「でも、何か困ってるんでしょ?良かったら聞かせてくれないかな」
「ほんとに大したことじゃないんだよ?」
「それでもいいからさ。それに、愚痴を言うだけで気が楽になるかも」
「……じゃあ、話すだけ話してみようかな」
丸山君は、何でも話したくなるような、そんな人だった。
後で思い返すと、怒りが再燃してきてしまったこともあって支離滅裂な部分も多かったかもしれない。
でも、彼はずっと穏やかな顔で、私が気持ちよく話せるような合いの手を入れながらそれをしっかり聞いてくれた。
「話してくれてありがとう。本当に頑張ったんだね」
「そうなの!でも、ぜんぜん私達の言うことなんか聞いてくれなくて」
「それはひどい」
「ひどいでしょ?もう、ほんとに怒れちゃう」
「力になれるかは分からないけど、小学生から知ってる子もいるからちょっと話してみるよ」
「そんな。うちのクラスのことなんだし丸山君に悪いよ」
「大丈夫。僕がやりたくなっただけだから」
「でも」
「いいんだ。力になれなかったらごめんね」
「ううん。それでも助かるよ」
「決まりだね。じゃあ、そろそろ戻ろうか?」
「ありがとう」
気負わない様子で言う彼の背中は、穏やかながらも頼もしさを感じさせる。
それに、特別期待していたわけでもなかったが、彼と話した数日後、何故か男の子達は熱心に掃除をするようになっていた。
逆に机運びとか雑巾がけは私達が手伝うのすら嫌がるし、本当にどうしたのだろうか。
女の子達皆で不思議に思いつつ、困ることではないので放っておいた。
そして、久しぶりに怒らずに済んだ日、部活に行く途中で廊下に立つ丸山君を見つけた。
「丸山君!」
「ん?山下さん?走ってどうしたの?」
「丸山君の姿が見えて。今日、男の子達が掃除ちゃんとやってくれたから、伝えたくて」
「ああ、そのことか。それなら良かった」
「男の子達に何て言ったの?」
「少し、遊び心が湧くように言っただけだよ。力を競う机運びとか、スピードを競う雑巾がけとかね」
「そんなことで変わるの?」
「男の子って競うの好きだから。あと、誰かにやれと言われると逆にやりたくなくなる」
「ふふっ。確かにそうかも」
「でしょ?」
「うん」
「上手くいくかは微妙だったけど、解決したならよかったよ」
「ほんとにすごいよ。ありがとう!」
「どういたしまして」
お礼を言うと、彼は優しい笑顔でそう答えた。
そのどこか大人びた表情に、私の顔が火照っていくのがわかる。
「そ、そういえば、丸山君はこんなところで何してるの?部活とか入ってないよね」
「うん。花音が職員室に呼ばれたから、待ってる最中なんだ」
「……やっぱり、桐谷さんと付き合ってるの?みんな噂してるけど」
「付き合ってないよ。ただ、幼馴染ってだけ」
「そう、なんだ。…………じゃあ、お礼に今度」
「陽人」
お礼も兼ねてどこか行こうと誘う直前、後ろから凛と澄んだ声が響く。
枝毛の全くない艶やかで綺麗な髪、パッチリとした二重、日焼けの無い白い肌。
そこには、彼女がいた。私と似ているところなんか一つも無いような彼女が。
「おかえり、花音」
「ん」
「……桐谷さん」
呼ぶつもりは無いのに、つい彼女の名前が口から漏れ出る。
そして、それに反応した彼女がこちらを振り返り、全てを見透かすような碧い瞳が私を射抜く。
「なに?」
「……ううん。何でもない」
「そう?」
「ごめんね」
何も謝ることなんてないのに、思わず謝罪の言葉を言ってしまう。
「何が?」
「ごめん、本当に何でもないの。……じゃあ、私部活いくから。またね」
「部活頑張ってね」
「また、明日」
何とも言えない居心地の悪さに、つい、私はその場を逃げ出してしまった。
「陽人、帰ろう」
「そうだね。でも、ちょっと襟が崩れてるよ?ほら、じっとしてて」
後ろから仲の良さそうな二人の声が聞こえてきて、あっという間に私の初恋が終わったことを理解する。
でも、男の子達のように諦めずにまた挑戦することなんてできそうもない。
だって、彼女と同じ土俵に立とうとするには私の心は弱すぎたから。
本編書いた時に削った部分の一つだったんですが、眠らせておくのも可哀想かなと思いひっそりと投稿したものになります。
完全無欠に蛇足だと思っている投稿です。完全に自己満です。ごめんなさい。
※下記は作品とは関係ありませんので、該当の方のみお読みください。
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