表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】『精霊の花嫁』の兄は、騎士を諦めて悔いなく生きることにしました【BL・番外編更新中】  作者: 池家乃あひる
~婚約式編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

312/404

300.悪夢

本日から番外編②を更新いたします!

番外編①より半年後の、ペルデを取り巻く物語を見守っていただければ幸いです。

 繊細な装飾が施されたティーポット。中央に盛られた焼き菓子。質が良すぎるお茶のセットは、白に統一された空間では、あまりにも似つかわしくないもの。

 それらを支えるテーブルが小さければ、対面に座る男との距離も狭く。男の声を遮る壁だってない。


「ペルデ」


 再び名を呼ばれ、顔を上げる。こうして向き合うのは、おおよそ一ヶ月ぶり。

 あまりにもたくさんの事がありすぎて、本当にまだ一ヶ月という実感さえない。

 もう二度と会わないと思っていた。望んでいないとさえ思っていた。いや、むしろそれは、ペルデ自身が思っていたことかもしれない。

 俯いていた赤が揺れ、眉が寄る。その一連だって、ペルデは、覚えている。


「すまない、ペルデ。私は……ずっと……」


 軋むのは、膝の上で握られた拳の強さを現している。

 だが、それはペルデではなく、父と呼んだ男のもの。その胸の内を、ずっと抑えていた言葉を吐露する男の、なけなしの力。

 歯を食いしばり、声を振り絞り。そうして、やっと紡いだ思いの丈。


「ずっと、お前に、」


 ――そこで、再び目を開いた。

 悲痛な男の声は遠のき、耳をくすぐるのは朝の告げる小鳥の唄。

 木製の天井。カーテンの隙間から差し込む光。太陽は昇っても肌寒さは変わらず。

 鼻から吸った冷たい空気は頭の中を覚ましても、先ほどまで見ていた光景を取り払うには物足りない。

 息を吐き、ベッドを下りて机の元へ。用意していた壺から皿へ水を注げば、水面に映るのは歪んだ自分の顔。

 すくい取ったそれを顔面に叩きつけて、それでも消えることのない光景。

 夢と呼ぶには生々しいのは、実際にあった出来事だからこそ。


 半年前。全てが終わると信じていたあの瞬間。罰として与えられた苦痛。その、一部始終。

 時折夢に見ては、胸の奥が重く沈む。

 表向きは和解したように見えるのだろう。女王も、教会の関係者も。そして、グラナート本人でさえも。

 そう思うように仕向けたのだから当然なのに、それでも夢に見るのは、心残りがあるからだろうか。

 だが、あの程度。悪夢とは到底呼べない。ただの記憶。思い出してしまっただけのこと。

 叩きつけた水が、顎を伝って皿に戻る。歪み続ける顔が睨んでいるのは合わぬ視線ではなく、目覚めてもなお薄れない光景。

 そう、悪夢じゃない。あんなものを、悪夢などとは言えない。

 ペルデの悪夢は。彼を苛み続けている全てはまだ、終わってなどいないのだから。

 半年以上。否、あのバケモノに出会ったときからずっと。

 ……永遠に。


ブクマ登録、評価、誤字報告、いいね等。いつもありがとうございます!

少しでも面白いと思っていただけたら、評価欄クリックしてくださると大変励みになります。


発売中の書籍も、よろしくお願いいたします!


挿絵(By みてみん)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★書籍化作品★

html>
最新情報はX(旧Twitter)にて
FanBoxでは、先行公開も行っております。
(ムーンライトでも作品公開中)


ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ