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【書籍化】『精霊の花嫁』の兄は、騎士を諦めて悔いなく生きることにしました【BL・番外編更新中】  作者: 池家乃あひる
第五章 一ヶ月後

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129.長旅の疲れ

ブクマ登録、評価、誤字報告、いいね いつもありがとうございます!

本日からディアンたちの視点に戻りますが、今回は短めです。


「……ふぅ」


 爽やかな朝の空気。小鳥たちの囀り。すぐ足元を流れる川の音。すくいとった水の冷たさ。

 身体の芯まで満たされるような心地良さに、思わず息も漏れる。

 この旅が始まってもう少しで一ヶ月。小さなトラブルはいくつかあったが、どれもエヴァドマの町ほどの騒動ではない。

 指名手配の撤回が浸透していないかも、という懸念はすぐに払われ、どの町でも穏やかに過ごせている。

 獣の解体も、まだエルドの合格点には届いていないが慣れてはきたし、料理も……まぁ、一通り。

 魔術の負荷こそ残っているが、屋敷を飛び出した時に比べれば成長したはずだ。

 旅だけではなく、魔術や歴史といった知識は時折エルドから教えてもらっていたが、最近は精霊についても。

 今まで読んできたどの本よりも詳しく、大袈裟ではあるがわかりやすい。

 生き字引、とたとえるのは少し違うだろうが……間違いなく、ディアンが出会った中で一番詳しいのには間違いない。

 どこまでが精霊名簿士の範囲かはわからないが、そうでなくとも興味があることについて知れるのは嬉しいし、それを余計なことだと咎められないことも気が楽だ。

 初めの頃は毎日のように王都のことを考えていたが、今はその頻度も減ってきた。というより、新しいことばかりで思い出す余裕がないとも言える。

 こんなことを言えば怒られるかもしれないが……ディアンはこの旅を楽しんでいる。

 辛いこともあったし、悲しいこともあった。それでも、訓練に明け暮れ、あのまま騎士になっていれば得られなかった経験ばかりだ。

 考えなければならないことはたくさんある。ディアン自身が決断しなければならない日だって、確実に迫っている。

 その時にエルドとの関係がどうなるかもわからず、考えないように自分を誤魔化しているところも。

 ……それでも、あのまま妹の誤りに目を伏せ、父の言いなりになり、そしてサリアナの騎士になっていたなら。きっと、それは自分ではなくなっていたのだろう。

 満たされている。言葉にできずとも、その温かな感情は……たしかに、ディアンを満たしている。

 だが、充実した日々というのは同じく疲労するというもの。

 野宿にも慣れたし、長時間の歩行だってお手の物。不必要に警戒することもなくなり、ちょっとやそっとでは疲れたと思わなくなった。

 しかし、本人の意識が肉体の疲労度は比例しないし、ようやく自覚した時には相当疲れているというのが通説である。

 身体的には大丈夫だが、現状を考えるに……つまりは、そういうことなのだろう。


「……はぁ」


 何度か顔を洗い、それから置いていた布で拭く。しっかり眠気も覚め、体感としては全く疲れていない。

 しかし、ディアンの口から漏れる溜め息はあまりに重く……精神的なところが、限界を迎えているのが窺い知れる。

 そう、疲れてはいないはずだ。疲れてはいないはずだが……やはり、疲れているのか。

 断言できない理由は、まさしく目の前に。清々しい朝の光景に混ざる異物。清らかな川の音に混ざる、耳慣れぬ音。

 鈴のような、氷が砕ける音のような。ガラスが割れる音のような。シャラシャラとも、キラキラとも言えない奇妙で……だが、心地の良い音。

 水面に波紋が広がり、かと思えば流れを断ち切るような線が走る。

 手に持ったままの布に重みが増したのは目の錯覚だ。そこに重たいものが乗ったわけではない。

 いや、乗ってはいるが……それでも、ほとんど浮いているのだから重たいわけが、なく。

 目を閉じ、開いて、それでも景色は変わらない。

 なにを言っているのかと、正気を疑われても仕方がない。

 だが、実際に……ディアンの目の前で彼女たちは笑い、水面に足をつけ、ディアンに倣うように布で顔を拭く仕草までしている。

 ……ああ、本当に。こんなにも自分は疲れていたのだろうか。あるいは、なにか幻覚作用のある草でも摂取してしまったのか。

 目の前を行き交ういくつもの温かな光。その中心に存在する小指サイズの少女たちは、そんなディアンを見上げて笑っていた。


閲覧ありがとうございます。

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