聖女が経営するブラック企業は全回復するから永遠に働かされます
都内に聳える黒いビルは「黒聖女商社」と呼ばれる国内有数のブラック企業である。
社員1万名を抱えるこの会社には出社時間と退社時間というものがない。
またタイムカードというものも無い。
……それはどういう事か
社内を必死の形相で多くのスーツ姿のリーマンが行き交う。
その全員の目が血走っているのは気のせいだろうか。
「おい! 値下がってるぞ! きちんと見とけ!」
「○○社から上場の申し出だ! 急げ!」
国内でも有数の利益を上げるこの会社は全社員の各々が24時間文字通り働く。
時折、ふしゅりと荒い息を上げながら虚ろな目で手足を動かし社内、社外を駆け続ける。
その中の幾人かがふらつきながら道端に伏せるが虚ろな笑みを浮かべながら立ち上がる。
「フオオ……社長の為ならバ……!」
「くふっ……! 次は××社だ……! ヘヘッ! いけねえ……少し血を吐いちまったぜ……!」
変な汗を流しながらも立ち上がったリーマン達は再び嬉しそうに仕事に戻った。
商社の地下のとある倉庫ではやつれたリーマンがマットを敷きながらぐったりと倒れ込んだ。
「……最後に寝たの、もう三ヶ月前かなあ」
そう、この会社には出社時間も無ければ退社時間も無い。
休憩時間すらも……
休む必要など無いからだ。
しかしこの社員は哀れにもやつれ遂には他者の目を盗み仮眠を取ろうとしていた。
「すまん、みんな……少し眠らせて……」
彼が薄く目を閉じたその時だった。
「あらあら、こんな所でおさぼりですか?」
「ひっ! 聖女社長!」
慌てて飛び起きたその目前には白い法衣を着た美しい聖女が微笑んでいた。
この会社の社長である。
聖女は怯える社員に近づくとゆっくりとその手を伸ばす。
「可哀想に……お疲れなのですね……すぐに回復して差し上げます」
「待って……! もう嫌なんです! 人間の生活をさせて……」
涙を流し懇願する社員を無視し、聖女の掌から温かな光が漏れ始める。
「月月火水木金金!」
呪文と共に光が社員の身体を包むと痙攣が始まった。
「フシュゥゥゥゥ‼︎」
社員が白目を剥き暫く白い息を吐くとやがてズシリと音を立てて立ち上がった。
身体が一回り大きくなっているようだ。
狂気の笑みを浮かべると聖女に向けて直角にお辞儀した。
「ハダラギマズッ‼︎」
「よろしい。行っておいで」
聖女は満面の笑みで愛する社員を送り出す。
「さて、また疲れている社員はいないかな?」
そして温かな笑みを浮かべながら社内の巡回を再開した。