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「エメル」私は光球を頭上に出し調理場で例の穀物ラカスの出来上がりを待っていた。
そこへ瞼を擦りながら覚束ない足取りで光輝くあの球体を肩口に引き連れた甘ったるい声が金色の巻き髪を靡かせ現れた。
「えーっと、あなた。その球はもう役目を果たした筈ですよ」私は甘ったるい声の肩を指し示した。
「パッサム」すると甘ったるい声を発し肩口の球体は跡形もなく消え去った。
「ふふっ、あなたはいつも考えず、黙っていきなり出したり消したりするのね」私は頬を緩ませる。昨晩、光球をすぐ消した挙句に寝室で困った甘ったるい声の姿を思い出したからだ。
「えーっ、考えてるぅ。黙っていたら、出したり消したりできなぁい」しかし甘ったるい声は顔を左右に振り、金色の巻き髪を揺らし否定を示した。
私の期待は実らず、甘ったるい声の夢の中には伝説の馬は現れなかった。
その為ラカスを頂き身支度を整え、あのやさしいとびらを抜け、土壁に覆われた通路を今度は右回りに上る。
暫くして前方から馬の嘶きが私の耳に届いた。
昨晩馬を預けた厩の出現に私は閂を外し愛馬を素早く通路へ誘導した。一方甘ったるい声の愛馬は意に介さず飼葉を頬張り続けていた。
「えーっ、だめぇ。食べるのはもう、やめてよぉ」甘ったるい声が馬の鬣を撫でたり手綱を押し引きするも厩の外へ出る気配すらみせない。
「もうっ、あなたの性分が馬にも伝染ってしまったらしいですわ。世話ばかり焼かせちゃうんですからっ」私はその光景を被ったフードの奥から翡翠色の瞳で眺めていたが、焦燥に駆られ甘ったるい声の愛馬を懸命に宥め何とか厩の外へ導いた。
その後更に右回りの通路を上り、昨日甘ったるい声が開けた扉の前へ到着した。私が軽く扉を押す。それは開けた時とは異なり容易に開いた。
扉を抜けた先は朝の陽光が新緑の樹々の間から降り注いでいた。
「サリバス」私は呟き頭上に漂う光球を不要と判断し消し去った。
「あーっ、いきなり、消しちゃってるぅ」甘ったるい声がすかさず私の頭上を指し示す。
「ふふっ、こんなの明るいのであれば、あなたに相談しなくても明白ですわ。私を指摘する暇があるのでしたら、自らの行動を見つめ直しましょうね」私は勝ち誇るように笑みを零す。
「えーっ、わたしが、いけないのぉ。わかんなぁーい」しかし甘ったるい声は不満なのか被ったフードの奥で頬を膨らませた。
下らない遣り取りの間に扉はやはり自らの意思を持っているかのように逆の動きを始めていた。