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私は入浴を済ませ黄金色の長い髪を靡かせながら居間へ戻った。翡翠色の瞳は直ぐにソファでうたた寝する甘ったるい声の姿を捉えた。
「もうっ、あなた。此処は寝室ではありませんよ」私はすかさず甘ったるい声の肩を何度も揺する。
「うぅん。わかってるぅ」甘ったるい声は瞼を擦りながら徐に立ち上がり、覚束ない足取りで歩み始めた。
「えーっと、明日こそ夜明けと共に出発したいのですけど、此処は地下で陽の光が届きませんわ。あなた、どうすればよろしいでしょうか」私は懸念を感じ金色の巻き髪を靡かせる甘ったるい声の背中に解決を願う。
「ペナ クレスラ リマラス」甘ったるい声が草を落としながら発した。同時に煙が立ち込め黒い大きな球体が現れ、甘ったるい声の肩口に漂う。
「ふふっ、ちゃんと頭が働いてくれて一安心しましたけど、光球も寝る前までには何とかして頂きたいわ。あなたは平気でしょうけれど、私が明るくて寝付けない挙句に居間で一夜を明かすのは勘弁なりませんからね」私は黒い珠体の出現に頬を緩ませつつ更に要望を出した。
「サリバス」甘ったるい声が呟き頭上の光球は跡形なく消え去り、黒い球体を引き連れ、長い金色の巻き髪を揺らす後ろ姿が私の視界から消えた。
「あれぇーっ、寝台さん、消えちゃってるぅ」程なくして甘ったるい声の困惑する叫びが居間まで届いた。察した私は軽やかな足取りでその元へ向かった。
「ふふっ、あなた。真っ暗で寝台を探し当てられなかったのなら、光球を出せば解決した筈ですよ」私は左右にそれぞれふたつ並べられた寝台の間で甘ったるい声が這い蹲るという予想通りの展開に頬を緩ませる。
「えーっ、何とかしてっていうから、消したのにぃ」甘ったるい声は見当違いな反論を喚くも寝台のひとつに身を横たえ、直ぐに寝息を立て始めた。
「まあっ、なんでこの子はいつもすぐに寝てしまうのよ」私は愚痴を零しつつ寝台から背を向けた。
「サリバス」私は食事の後片付けを終えた後、寝室に戻り寝台へ身を委ね頭上の光球を消し、長旅の疲れを癒すべく深い眠りに就いた。
陽の光を感じた私は目覚め辺りを見渡す。向かい側の寝台に横たわる甘ったるい声が昨晩出した大きな球体からそれは発せられていた。
この球は現在の天空の状況を示してくれる代物の為、光輝いているのは夜が明けたのを意味していた。
だが、その袂で横たわっているにも関わらず寝息を立て続ける甘ったるい声を見た私は思わず顔を顰めた。
私は何度も甘ったるい声の肩を揺する。
「えーっ、まだ夜だよぉ。お空に星さんたちも光ってるぅ」漸く碧色の瞳を開けた屈強な『ねぼすけ』だが、冒頭の文言を喚き散らし、またも顔を隠す様に寝台へ突っ伏す。
「何ですって。あなたが出したこの球が嘘をついているって訳なのかしら。まったくもうっ」私は吐き捨てる口調で伏臥を続ける甘ったるい声を見下ろす。
「やだやだぁ。もうちょっとだけぇ」それでも甘ったるい声は駄々を捏ね金色の巻き髪を掻きむしる。
「まあっ、何て身勝手なのよ。それならもうこの旅はおしまいにしますわ」私はこれ以上付き合い切れないとばかりに甘ったるい声から背を向けた。
「あーっ、置いてきぼりはだめぇ」甘ったるい声は観念したのか徐に身を起こした。
「もうっ、世話が焼けるわ。これを毎朝続けているあの子の両親には頭が下がる思いね」私は愚痴を零し
つつ寝室を去った。