家庭教師解雇?
僕は混乱した。目の前に憧れの『山本美優』がいるからだ。と言っても……、この部屋には彼女によく似た顔が他に三人もいる。それぞれ髪型が違うが、なかなか見分けが出来ず名前を覚えられない。そして山本美優改め、小野愛衣は不思議そうにこちらを見る。
「どうしたの? えーと」
「鹿島優です」
「あ、そうそう鹿島君」
今まで画面上に見ていた彼女から自分の名前を呼ばれて嬉しさがこみ上げる。
「はい、何でしょうか!?」
興奮のあまり声をはり上げて言ってしまう。
「そんなに大きい声で言わなくても大丈夫よっ」
「あ、ごめんなさい。つい……」
「で、どうして私の名前を知っているの?」
「それは貴女のファンでして……」
「嘘!? 私のこと知ってくれている人がいるなんて……。とても嬉しいわ!」
「嬉しいなんて……僕も感激……」
そしたら僕の背後にいる別の娘が叫んだ。
「私は反対よ。彼を家庭教師にするなんて!」
「え?」
振り向くと彼女の髪型は肩までの黒髪だが山本美優の顔でプンプン怒っている。
(めっちゃ傷つくんだけど)
「依音。そんなに怒んなくても良いじゃんっ」
もう一人のショートボブの彼女がなだめる。
「大体時間が守れない人間に教えを請うなんてゴメンだわ!」
「そう言えば鹿島君。なぜ遅れて来たんですか?」
「そ、それは……」
彼女達に昨日のことを正直に言った。
「寝ぼけて聞いていた……」
「……」
「ほら見たことか! そんな大事な約束も守れない人間が家庭教師なんて出来るはずないわ!」
「それは……、けど親父も寝ぼけた僕に言ったから……」
「父親のせいにするなんてサイテーね!」
「う……」
「鹿島君。貴方は勉強が出来ると聞いてましたが、勉強しか出来ないんですね。見損ないました」
僕は反論の言葉が出ず俯いていると、
「まぁまぁ、そう言わずにせっかく来てくれたのに悪いじゃーんっ」
「あ、愛衣さん……」
僕はじーんと来てしまった。流石は僕が惚れた女優、山本美優。やはり僕の目にくるいはなかっ……。
「姉さん。仕事のテンションになっているわ」
「あ……」
「え?」
手を広げで僕を庇った彼女はすっと手を降ろし、広いソファに倒れてうなだれながら言う。
「あ~~、疲れたーーーっ」
え? え? 憧れの山本美優がうなだれている……。
「で、どうする姉さん?」
「え? 何を?」
「こいつよ!」
反発する彼女が僕に指を指しながら言う。そして愛衣さんが起き上がり、脚を組み右腕を顎に当てて僕に言う。
「あー、彼ねーっ」
彼女はじとーと嫌な目で僕を見てくる。
「どんな理由であれ約束も守れないようじゃあ仕事も出来るとも思えないわ。出てって」
「え?」
「ここから出て行きなさいっ」
「え!?」
僕は混乱した。僕のいままで築き上げていた山本美優のイメージと初めて違う面を見たからだ。
「愛衣姉待っ……」
「ここでの姉さんの言い分は五割よ羽衣」
「……」
「さ、そういう訳で帰って下さい鹿島君」
「え、しかし……」
「これ以上粘る様ならストーカーということで警察に通報します」
「……」
そして僕は部屋から放り出され、渋々家に帰った。部屋に戻るとため息を吐きながら布団に項垂れた。
(やらかした……)
そして23:00ごろに親父が帰ってきたので、今日のことを渋々言った。
「え? そんなことが?」
「うん……」
「はぁ、そうか……しかし、社長命令だからなぁ。どうしたものか……」
親父は少し項垂れる。
「え? けど仕事には関係ないんだろ……?」
「……」
「親父?」
「……」
「何とか言ってくれよ親父!!」
「減給か、左遷かなーっ……」
「え!? そんなに!?」
「クビかもしんない……」
「え!? どうしてそこまで??」
「社長命令だからなーっ。命令は絶対だから……」
僕は頭の中が真っ白になった。まさかここまでとは……。甘く考えていた。
「分かった! もう一度彼女達に掛け合ってみるよ!」
「そうかーっ? それは助かるな!!」
そして明日に気合いを込めて頑張るべく寝た。なかなか寝れないが……、しかしこれが大人達の策略とも僕は露ほども気づかなかった。
「嫌です」
同じクラスの小野に言ったが案の定拒否られた。山本美優の顔で言うものだからなかなか堪える。
「し、しかしだな……君のところのお父さんもそれには賛成しかねているのでは?」
「父には一応そう伝えておりますので返事次第です」
「……」
「……」
「しかし……」
「その前に……」
彼女はため息を吐きながら言う。
「女子トイレの前でそういう話するの止めて貰えませんか? とても、恥ずかしいです」
「あ、いやゴメンなさい」
なかなか学校で彼女に声をかけるのは周りが多くて言いそびれたので、彼女が一人の時を狙ったのだが、状況的になんか……、
「え、何? なんで鹿島君が小野さんと話しているの?」
「なんでトイレの前? 待ち伏せ? キモイんだけど……」
僕は恥ずかしさのあまり急いでその場から離れた。そして図書館の机で項垂れていると、とんとんと肩を叩かれた。振り向くと、ショートボブの山本美優そっくりの彼女がいた。
「君は確か……えーと」
「小野羽衣です!」
彼女はてへっとウインクしながら、
「宜しくね。鹿島さん!」
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