白い吐息と寒さとアイツ
白い吐息と寒さとアイツ
海棠琴梨
ほぉっ…と吐いた息は白く靄を出しながら、暗い夜闇へと消えた。こんな日はどこの家も遅くまで起きている。生活の明かりがチラチラと見える道。おもむろに空を仰ぎ見る。そこに確かにあるはずの星は、人々の浮足立った気持ちによってかき消されていた。
ほぉぅ…と吐いた息は白く靄を出しながら、また暗い夜闇へ消えた。寒い。何枚も服を重ねているのに、それでもこんなに寒いなんて。やっぱり、こんな日は外になんて出るんじゃなかった。寒い。誘ってきたのはアイツなのに、来るのが遅いじゃないか。もう、かえって布団に包まりたい。ああ、寒い。星のない、真っ黒な空のせいか、もっと寒く感じる。寒い。
本当に帰ろうか、決意が固まりはじめたころに、遠くから足音がした。
「ごめーん! 待った?」
言葉は謝罪を示しているはずなのに、なぜだか苛つく。
「寒い」
「あは。遅い、じゃなくて寒いなんだねー」
こんなに寒いのに、まだ元気があるというのは、強いのか、それとも子供っぽいのか。
「それじゃあ、行こうか。むこうに行けば、火もあるしあったかいよ」
「ん」
えへへ、と笑いながら手を差し出してくる。その手を取って指を絡めると、また、えへへ、と笑った。
温かい掌だ。握った手をそのままに自分の頬に近づける。冷え切った頬にじんわりと熱が伝わって、気持ちいい。
「目なんか細めちゃって…。可愛いんだから」
「うるさい」
こんなにあったかいのが悪い。遅れてきた罰として、目的地までこのままだ。
薄暗かった道の奥に大きな光が見えた。よく見るとちらちらと揺らめいている。たき火のようだ。
「あれあれ、あそこだよー」
ざわざわと賑わう声がする。それでも、騒いでいるようなうるささはなく、心が落ち着くような空間だった。
「それじゃあ、ここにいてね。甘酒もらってくるから」
たき火の前、人影の薄い場所に陣取る。ときたまパチンとはじける炎は火の粉が待っていて、冷えた体に直にあたる熱が少し痛い。かといって人の影に入ると、それはそれでさむい。どうしたものか。でも、寒さには耐えきれず、結局熱に当たることにした。熱にも慣れてきたころ、また騒がしい足音が近づいてくる。
「ううーさむさむっ。 はい、甘酒」
「ありがとう」
礼を言って受け取ると、すぐに口内に流し込んだ。口に入れた瞬間は熱い。けれど、のど元過ぎれば熱さ忘れて、心地いい暖かさが食道を伝って胃に入る。またじんわりと体中に熱が広まった。
「寒いっけど、火があっついぃ…熱くて鼻痛い…」
涙目になるソイツに、火に当たって十分温まったマフラーを巻いてやった。もちろん、花が痛いというから、顔面にぐるぐる巻きである。マフラーを外した瞬間、首元を撫でる冷気に鳥肌が立ったけれど、甘酒で温かくなるから大丈夫だろう。
「ちょっと…これじゃ飲めないじゃん」
でも、ありがと。と小さく呟く声。恥ずかしそうに微笑んだのが見えた。
「甘酒の礼だから」
たき火が強くなったのだろうか、顔が熱い気がした。近くで、こおぉぉぉん…と鐘がなった。
「鐘、始まったね」
こおぉぉぉん…
こおぉぉぉん…
たまに、打ち損じるのか、こおぉん…と軽いものもある。逆にごおおおぉぉんとやけに強いものも。
「打ちに行かないの」
「あたし? 寒いからいい。ここにいる方が温かいし」
じゃあ、なんでわざわざ来たのだ。寒いのに。
「じゃあなんで来たのって顔してるー!」
あはは、と笑う
ふぅ…と吐いた息は火の近くにいるせいで靄を出さない。
「それはね」
あたりでちらほらと数字を数えている
ごーぉ!よーん!…
鐘が、最後の一突きを響かせた。
「あけましておめでとう」
「って、直接、真っ先に、いの一番に言いたかったからだよ!」
にっこり見せた笑顔は晴れ晴れとしていて、新年早々元気なものだと、感心してしまった。
凍えるような寒さはもうない。自分も自然と笑顔になるのを感じた。
「ああ、あけましておめでとう。今年もよろしく」
あとがきのようなもの
はい、というわけであけましておめでとうございます。海棠琴梨です。一年って早いですね。これが皆さんの手元に届くのはきっと二月ごろなのでしょうが、みなさん今年の抱負は決めましたか?僕は、締め切りを守ること、で行こうかと思います。守れるといいですね!
それと、毎度おなじみ今回のテーマは『最後まで年の瀬を感じさせない』でした。こういう縛りって好きなんですけど、読み返してみると意味わかんなくて悲しくなりますね。それでも読んでくださったかたへ、感謝感激雨霰、感涙の嵐でございます。
はい、こんな駄文を書き散らす海棠琴梨と、そして文芸部を今年もよろしくお願いいたします。(土下座)