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第1話

タイトル出オチ詐欺。

別で書いている作品と違い、1話目にしてタイトル回収しました。



「すーっ。はーっ。すーっ。はーっ」


 森の中でただじっとして息をひそめる。

 手のひらに握りこむ感応石が汗でぬるつく。


 木々のざわめきが大きくなる。これは明らかに自然の音ではない。

 なにか大きなモノが木をなぎ倒す音だ。

 つまりターゲットが近付いてきている。


 この森にいるのはもはや自分とターゲットの【鉄筋】のみだ。

 それ以外の機体はすべて行動不能になり退場している。

 つまり自分と相手のどちらか残った方のチームが勝つということだ。


「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ、すぅ、はぁ」


 呼吸の感覚を狭め、集中していく。この行為に意味があるかはわからないが、特に集中したいときはいつもそうやってきた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 揺れる木々がバイザー越しに視界に入る。


「はっはっはっはっ」


 ここだ。


 私は感応石に意思を込め、鉄筋の左腕に装着されているランスを突き出した。




***




 アイアンゴーレム。

 それは鉄で出来た巨大な人形である。

 人形とはいっても人に似ているかと言えばそうでもなく、全身がずんぐりと太くなっており、見方によっては愛嬌があるようにも思える。

 頭と腕、胴があるが、首はほとんどない。

 そしてもっとも人と違う部分だが、このアイアンゴーレムの下半身には足が4つある。

 ケンタウロスに似た姿だ。下半身は馬と言うよりカバのそれだが。

 このアイアンゴーレムについて「アイアンゴーレム」と呼ぶ者は少ない。

 たいていは「筋肉まで鉄で出来ている」という意味を込め、ただ【鉄筋】とだけ呼ぶ。

 そうした人形であるのだが、内部に人が乗り込むことで操作することが可能だ。

 内部で人が、意思を伝達する感応石で作られた操縦桿を握り、動かす意思を伝えることで思いのままに動くのだ。

 多少の慣れと訓練が必要だが、操作自体は誰にでもできる。とは言っても動くのは全高で5メートルにもなる巨大な鉄の塊のため、公道などのパブリックスペースで操縦するには国や自治体が発行した免許が必要だ。

 全身鉄でおおわれているため、当然ながら中から外を見ることはできない。

 そのために内部に入る操縦者は、耳まで覆う専用のバイザーをつける。このバイザーの内側には外部の映像が映し出されるようになっており、耳に当たる部分からは外部の音が聞こえる。


 この鉄筋は人によって造られる。

 かつてはもっぱら戦争などに使用されていたが、現代では活動の幅も広がり、技術の進歩によって様々な作業を行うことが可能になった。

 もっともよく見かけるのは移動のためだろう。専用の貨車を引くことで、人や物を輸送する。古代では馬や牛が行っていた仕事だということだが、鉄筋があるなら鉄筋にやらせた方が効率がいい。

 また腕の操作性や動作精度が向上したことで、農場や工事現場、あるいは危険地帯での作業など、人に代わって、あるいは人が纏う強固な鎧として、各所で活躍している。


 そんな鉄筋を使ったとある競技が、様々な国で盛んに行われている。

 森や平原などの競技フィールドで行うのだが、ハーフデュエルなら3対3、フルデュエルなら6対6のチームに分かれて争うものだ。

 ルールは単純で、相手の鉄筋をすべて行動不能にするか、フィールド内の相手のフラッグをすべて破壊すれば勝ちとなる。

 競技にはレギュレーションを満たした鉄筋のみが参加でき、そのレギュレーションの範囲内であればどんな機体でもかまわない。

 競技中の行動もほとんど規定はなく、反則行為などもほぼない。選手は競技中は鉄筋の外に出ることを禁じられるが、これは安全のためだ。レギュレーションを満たした機体で戦っている限り、戦闘によって操縦者がいる機体内部までダメージがいくことはない。


 もとは戦争を模して生みだされたとされる競技だ。征服と決闘の意味をこめ、コンクエストデュエルというのが正式な名称だが、これもそう呼ぶ者は少ない。


 人々は鉄筋を使うこの競技をこう呼ぶ。


 鉄筋コンクエスト、と──




***




「ああ…。あいかわらず麗しいわ…。そう思わない?アストリット」


 級友の甘ったるい吐息に辟易とする。

 彼女──ジャンナは人懐こく好ましい人物ではあるのだが、いささかミーハーな気があり、こういうところにはなかなか付いていけないものがある。


「綺麗な人だな、とは思うけれど。そんな、廊下でうっとりするほどのものでも」


「わかってないわね。廊下だろうとフィールドだろうと、美しいものは美しいのよ」


 ジャンナが言う美しいものとは、2年生のロザリア様のことだ。

 学園の先輩を様付けで呼ぶのはいまだに慣れないが、それがこのオブスキュリテ学園のルールだと言われてしまえば従う他ない。といっても校則などに規定されているというわけではなく、単に慣例的なものだ。


 ロザリア様は鉄筋コンクエストの競技選手として有名な先輩だ。有名と言っても学生レベルだが、少なくとも国内の高等生で知らないものはいないだろう。

 去年、若干1年生にしてチームを引っ張り、学園を優勝へ導いた女傑だ。

 廊下だろうとフィールドだろうと美しい、とは、ロザリア様が制服姿でも競技用ジャケット姿でも美しいという意味だ。たぶん。


「まあ、美人でいらっしゃることは認めるけどね」


 ロザリア様が美しいという見解に異を挟むつもりはない。

 ただ単に廊下を歩いているだけの先輩にうっとりするという気持ちは共有できないというだけだ。

 それに私としては鉄筋コンクエストの選手には、あまりいい感情を抱けない。

 それは直接ロザリア様には関係がないから、口に出して言ったりはしないが。


「もー。冷めてるわねぇアストリットは」


「ジャンナが熱を上げすぎなだけでしょう?」


 ロザリア様は確かに学園内外にファンが多いため、しばしば目にする光景ではある。

 しかしそうは言ってもすれ違う全ての人がうっとりするということは当然ないし、実際まわりにもちらほら学園生はいるが、両手を頬に当てしなを作っているような生徒はジャンナだけだ。


「これからクラブに行かれるのかしら?」


 おそらくそうだろう。

 ロザリア様は学園内のコンクエストデュエルのクラブチームに所属している。


「ロザリア様がクラブに向かう時間ってことは、ジャンナもそろそろ行かないといけないんじゃない?」


「そうね、そうだわ」


 ジャンナは急いで教室にとって返し、鞄に教科書なんかを詰め込んですぐに出てきた。


「じゃあね、アストリット。また明日」


「ええ、ジャンナ。また明日」





 そうして合唱部へ急ぐ友人を見送り、私はゆっくり帰る準備をした。

 友人やあの麗しい先輩と違い、私は特にクラブなどには所属していない。いわゆる帰宅部というやつだ。

 この学園ではクラブ活動が推奨されているため、帰宅部というのはほとんどいない。

 クラスでも確か、私だけだったはずだ。

 現にクラスメイトはみなクラブへ向かい、教室には私しか残っていない。

 ホームルームが終わったところでジャンナにお手洗いに誘われたため連れ立って行っていたが、本来ならジャンナもとうに合唱部に向かっている時間だし、私もとうに帰路についている時間だ。


 別に意味があって帰宅部でいるわけではない。

 単にクラブ活動に馴染めそうになかったというだけだ。

 学業の成績も平均より少し上という程度の私の頭では、頭脳系のクラブには付いていけそうもない。

 自分の芸術的センスがあまりすぐれていないということは分かっているため、そちらもパスだ。これは音楽系でも同じことが言える。

 鉄筋コンクエスト──鉄コンは一番ありえないし、運動部は最初から除外している。

 運動は──たぶんもう、二度とやることはない。




 昇降口から校門へと出ると、私の暮らす寮までは一本道だ。

 この学園は異常なほど敷地が広い。その一本道からは、鉄コンの演習場が見える。

 演習場では大きなアイアンゴーレム──鉄筋が列を成して走行している。3体ずつの隊列を組んでいるということは、競技用のチームを意識しているのだろう。学生大会のルールでは確か3対3のハーフデュエルが主流だったはずだ。


 私はこの演習場の前を通る時、いつも俯いて歩く。

 今日はさっき級友が騒いでいたということもあり、つい目をやってしまったが、あまり鉄筋を視界に入れたくないからだ。

 しかしこれでも昔は、人並みに鉄コンの観戦に熱を上げる普通の子供だった。


 足がこんな風になるまでは。


 かつて私は地元の学園の中等部に通っていた。その2年生の時のことだ。私は交通事故にあった。

 国内で言えば、徒歩以外の移動手段となればほぼ鉄筋しかない。鉄筋は構造的に強者であるため、交通事故ではよほどの事がなければ加害者として裁定される。

 私の事例でもそうだった。

 しかしだからといって何の慰めにもならない。

 私は走る力を失った。


 加害者となった鉄筋の所有者がどうもどこかの名士だったらしく、治療やリハビリには最新の医療技術が使われた。私の方の持ち出しは一切なしだ。

 おかげでほとんど傷跡も残らなかったし、こうして普通に生活することもできる。歩くだけなら違和感もないし、多少の痛みを我慢すれば小走りくらいは出来るかもしれない。医者から止められているためやらないが。

 しかし決して走ることは出来ない。二度と。


 治療費だけではなく、莫大な慰謝料も貰った。両親は当初それをつっぱね、決して受け取ろうとしなかったが、もうどうでも良くなっていた私が貰っておきなよ、と言うと泣きながらサインをしていた。


 私は中等部で陸上競技の選手だった。種目は短距離走だ。中等部2年生にして、自分で言うのもおこがましいが将来を嘱望された選手だった。

 両親がそれに何かを期待していたのかどうかはわからないが、たぶん、私が楽しそうに走るのを見るのが単に好きだったんじゃないかと思う。どの大会でも何位になっても、私が笑っていれば喜んでくれたし、悔しくて泣いていれば一緒に泣いてくれた。

 あの事故のときも、もしかしたら私の代わりに泣いてくれていたのかもしれない。


 鉄筋には個人的に、そう思うところはない。

 走れなくなったのは悲しいが、鉄筋を恨んだところで健康な足が帰ってくるわけでもない。

 それよりもただ、鉄筋を見ると両親の泣き顔を思い出すため、それが辛いだけだ。


 しかし鉄筋を全く見ずに生活することなどできない。小型の安価なものなら、各家庭にも1機くらいは鉄筋がある。うちにもあった。今はもうないが。

 鉄筋を見るのが辛い、というよりは、鉄筋を見る私を辛そうに見る両親の姿に耐えられず、高等部は少し遠くの学園を受験した。国内のほとんどの学園は中高一貫校なため、高等部受験というのは非常にまれなケースだ。編入試験も私には少し難易度が高かったが、無理をして勉強した。

 この学園に入学することになれば、寮に入るのはわかっていた。両親は何も言わなかったが、少し複雑な顔をしていた。


 その理由は入学してすぐに分かった。

 この学園には有名な鉄筋コンクエストのクラブチームがあったからだ。

 馬鹿な私はパンフレットをよく読んでいなかった。


 しかし別に鉄筋を見て私自身が辛くなるわけではない。

 そう思っていたが、どうしても両親の顔がちらついて駄目だった。


 だから私はこの演習場の前を通る時、いつも俯いて歩くのだ。





 翌日。

 今日もジャンナは合唱部へ向かった。

 私はそれを見送り、いつものように帰り支度をして、帰路につく。

 昇降口へ向かう階段のあたりで、これもいつものように前方から来たロザリア様とすれ違う。

 この学園は人数が多いため、各学年ごとに校舎が分けられている。校門に最も近いのは最高学年の3年生だが、演習場へは1年生の校舎がもっとも近い。ロザリア様はクラブへ向かい、私は校門へ向かうので、だいたい毎日この時間にすれ違うことになる。

 昨日ジャンナがロザリア様を目撃することになったのはお手洗いで時間がずれたためだ。


 ロザリア様へ軽く会釈をし、いつものようにすれ違った。他の多くの学生と同じだ。私はごく一般的に先輩にするように会釈をするし、頭を下げているため見えないがロザリア様も他の後輩にするように軽く頷いているのだろう。


 私の足を破壊したのは鉄筋だが、別に鉄筋が憎いわけでもないし、ましてやロザリア様に思うところはない。

 そもそもあれは事故だった。法令上加害者は存在していることになっているが、別にあの鉄筋の操縦者にすべての責任があるとは思わない。思えば両親が慰謝料を固辞していたのもそういう理由からだったのかもしれない。だとしたら、多少自暴自棄になっていたとはいえ恥ずかしい事を言ってしまった。

 だからロザリア様に思うところはない。けれど私は鉄コン部の先輩とすれ違う時だけ、いつもより深めに会釈をする。

 理由は私にもよくわからない。




「そういえば、ロザリア様はなぜいつもここを通るんだろ」


 鉄コンのクラブに所属している2年生の先輩は何人もいる。しかし校舎でこの時間にすれ違うケースは稀だ。毎日すれ違うロザリア様が異常だと言っていい。

 たぶん、多くの先輩がたは昇降口から外へ出て、校舎の外を歩いて向かっているのだろう。距離的にはそちらの方が早い。ロザリア様は、土を踏みたくないとか、そういう理由か何かで校舎の中をわざわざ通っているのだろう。なんでも実家はものすごいお金持ちだということだし、きっと靴もお高いに違いない。

 次は会釈するときにでも、さりげなく靴をチェックしてみよう。

 これでも私はかつて運動靴メーカーとタイアップの話も出ていたほどの陸上選手だったのだ。靴にはちょっと覚えがある。もしかしたら知っているブランドかもしれない。





「ありがとう、助かったわ。ごめんなさいね、手伝ってもらってしまって」


「いいえ、どうせ暇ですから」


 ある日の放課後、私は保健室にいた。

 業者が医療品を搬入してきたのだが、保険室まで運ぶ人手がなかったらしい。

 台車を探しに行こうか迷っていた、眼鏡をかけた若い教員を見かけ、手伝いを申し出たのだ。

 彼女は確か、保健室の先生、養護教諭だ。

 私がやらなくても誰かが手伝っていただろうが、たまたま最初に見つけたのが私だった。


 この学園はお嬢様気質というか、学生も教師も全体的に品がいい。

 お嬢様と言ってもお高くとまっているというわけではない。余裕があるというか、悪く言えばややのんびりした生徒が多い。その余裕から来るものなのかはわからないが、総じて他者に対して親切である。プライドの高い生徒もいるが、それもそのプライドの高さゆえに、自分や家族に恥じることのないような行動を心がける傾向にある。

 だから私が手を出さなかったとしても、次に通りがかった誰かが手を貸していたに違いない。

 私は庶民派の学園から編入した外様だが、この学園のそういう気風は嫌いではなかった。元は根っからの庶民である私だが、形だけでも気高いお嬢様の真似事ができるのなら、悪くない。

 つい声をかけ、手伝いを申し出たのはそういう理由からだ。


「アストリットさん……だったかしら?」


「は、はい、先生。私になにか?」


 少しびくついてしまった。入学してから保険室のお世話になったことはない。なにせ体育の授業はすべて見学しているし、ケガなどをする機会がない。

 にもかかわらず名前を知られているとは思わなかったためだ。当然養護教諭ともこうして話をするのは初めてだったはずだ。


「ごめんなさいね。重い荷物を持たせてしまって、大丈夫だったかしら?」


「ええ、はい。あのくらいでしたら……」


「その、足のほうのお加減はいかが?痛みがあったりはしないかしら?」


 彼女は養護教諭だ。

 全校生徒のデータはさすがに覚えていないにしても、健康状態に何かしらの問題を抱えた生徒の情報くらいはチェックしているのだろう。私はそれに引っかかっていたということだ。


「……お気遣いありがとうございます。大丈夫です。痛みはありません」


 思えばクラブ活動を強く推奨しているこの学園において、帰宅部でありながら学園側からなんの圧力もないのは私の足に対する配慮があるためだろう。今まで大して気にしたことがなかったが、帰宅部がほぼ私だけであるのはおそらくそういう理由だ。

 足が完全に再起不能であることは伝えてあるため、走力に期待しての配慮ではないだろうが、そっとしておいてくれるというのは素直にありがたい。知らないところで大人たちにずいぶん気を遣わせてしまっていたようだ。


「お礼というわけではないけれど、よかったらお茶でもいかが?けっこういい葉っぱがあるのよ」


 言いながらすでにポットを用意している。

 ありがたく頂いていくことにした。どうせ寮に帰っても特にすることはない。


「……はい、どうぞ」


「ありがとうございます。いただきます」


 寒い季節というわけではないが、温かい紅茶はほっとする。


「……アストリットさんは、どうしてこの学園に来たのかしら」


 私が鉄筋の事故によって未来を断たれたにもかかわらず、鉄筋の多いこの学園にわざわざ来たのはなぜなのかということだろう。

 実際のところは優しい両親から逃げてきただけで、この学園を選んだのは偶然だったのだが、さすがに少し言いづらい。


「……ええと、特に理由は…」


「そう…。まあ、言いづらい事もあるわよね」


 しばらくお互い黙って茶をすすった。


「……私はね、もしかしたらあなたが、自分と同年代の子が鉄筋を乗りこなす姿をみて、過去を乗り越えようとしたんじゃないかって思ったのよ」


 全く違う。

 全く違うのだが、知らずハッとした。わかったことがあったのだ。


 それは鉄コンのクラブに所属する生徒たちに対する、自分でも理由のわからないあの感情だ。

 私は元来負けず嫌いだった。その気質が才能と結びつき、陸上選手としての結果を出してきたと言ってもいい。

 でももう勝つどころか、勝負をすることさえできない。

 一方的に鉄筋に奪われてしまった。あの事故で、私の人生は鉄筋という存在に負けたのだ。


 もちろん人間がアイアンゴーレムに敵うはずがない。

 しかし負けず嫌いで子供の私は、無意識でそれを認めることができなかった。

 この学園を選んだのは偶然に近いものだったが、たまたまそこには鉄筋を乗りこなす同年代の少女たちがいた。

 私を力づくで捩じ伏せた、あのアイアンゴーレムを意のままに操る少女たちが。

 私が勝てなかった鉄筋を、あの少女たちは支配下に置いている。


 負けず嫌いの私はたぶん、そこにどうしようもない劣等感を抱いているのだ。


「……どうかしら」


「全く違います」


「あ、全く違うの。そう……」


 養護教諭はしょんぼりしている。自信があったのだろう。

 この学園内の保険室というある種特殊な空間は、怪我や病気だけでなく、時に生徒の心のケアをすることもあるらしい。この若い養護教諭がそういうことに慣れているのか、あるいはそういう自分に憧れているのかは不明だが、少なくとも人を見る目はあるようだ。

 私が学園に来た理由は間違っていたが、彼女は私が抱いていた、自分でも気づいていなかった感情に対するひとつの答えを教えてくれた。


 過去を乗り越えるのだ。

 私が鉄筋を見ても、本当に何とも思わないような、いや、かつてそうしていたように、鉄筋コンクエストのデュエルを観戦して喜ぶような、そんな子供になれば、両親もあんな哀しげな顔はもうすまい。そうすれば、両親から逃げる必要もない。


「……でも、ありがとうございます。お茶、ごちそうさまでした」


「え?どういたしまして…?」


 鞄を持ち、保険室を辞する。


「……よかったら、またいつでも来てちょうだい」


「…そうですね、機会があればぜひ」


 と言っても場所は保健室であるし、来る機会がないならそれに越したことはないような気もするが。

 どうも私のことを気にかけてくれているようだし、ただ会うためだけに来ると言うのもありなのかもしれない。



マリ○てとボト○ズが好きでして…


今の所わりと暗めな話だと思うんですが、「鉄筋」のインパクトで全く入ってこない感


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https://twitter.com/harajun1001

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