姉は最強だが、重度に僕のことが好きすぎる
僕――ユウキ・グレンには六つ歳の離れた姉がいる。
姉は一言で言うと、天才だった。
七歳のときに魔法学園に入学し、十歳で飛び級を重ねて卒業。その時に《賢者》の称号を手に入れている。
剣術は当時、王都最強と謳われた《剣聖》を打ち倒し、《剣姫》の称号を獲得した。
剣聖はその後、姉に全てを託して引退したらしい。
そんな最強の姉と、僕は当然のように比べられてきた。
僕のことを一言で表すのなら、凡人である。
それ以上でもそれ以下でもない。そんな僕の目標は、恥ずかしながらも姉を超えること。
姉にその事実を伝えたことはないけれど。
……僕も魔法学園にいたのだけれど、ある事情で学園を中退した。
今日から僕は、《冒険者》になる予定だ。
「父さん、母さん。それじゃ、言ってくるよ」
「はーい。馬車に気を付けるのよ」
「頑張って立派な冒険者になれよ。応援してるからな」
こんな風に見送ってくれる父と母――も、普通ではない。
父は元王国騎士団の騎士団長で、母は《聖女》と呼ばれるほどに優れた治癒術師だった。
駆け落ちして地方の村まで逃げてきた、というのは今でもよく聞かされる話だ。
「……それで、姉さんは?」
「お姉ちゃんならユウキ君が明日出掛けるからお弁当作るためにドラゴンを狩りに行ったわ」
そんな遊び感覚で倒せる相手でもないし、遊び感覚で倒されるドラゴンの身にもなってもらいたい。
――姉は国に必要とされている人間だ。
だから、僕なんかに構っていてはいけない。
僕が学園をやめたのにも、それが理由の一つにある。
だって、卒業してすぐに僕の担任になろうとしたのだから。
……昔からそうだ。
母曰く、僕が生まれた頃から姉――メーティアは僕にゾッコンだったらしい。こういう風には言いたくないけど。
「毎日舐めまわすレベルだった」と父が遠い目で言うのを聞かされた。「俺は舐め回してもらってないのに……」というのは事案だからやめてほしい。
「私が舐め回してあげますよっ」と母が続けるまでかテンプレだけど、そんなうちのノロケ話はどうでもいい。
とにかく、メーティア……姉さんは僕に構っていていいような人じゃないんだ。
だから、こうして一人で旅に出る決意を――
「ただいまーっ。いやぁ、ドラゴンって結構遠くに隠れてるんだよね。お姉ちゃん疲れちゃったよ、ユウキ君!」
扉を開けて開口一番、もはや僕がそこに立っていると分からないとできないようなムーヴで抱きついてくる。
間違いなくドラゴンと戦ったのだろう――返り血まみれで少し生臭い。
「……姉さん、もう帰ってきたの?」
「んー、嬉しい? んっふふ、ユウキ君成分が足りなくなったから尻尾だけもらって帰ってきちゃったっ!」
音符でも付きそうな話し方で言うけれど、何度でも言う。
ドラゴンはそんな簡単に倒せるものじゃない。
落ち着こう、今の僕に必要なのはこの姉を引き離すことだ。
「ね、姉さん。とりあえず水浴びでもしてきたら――」
「お姉ちゃん、だよっ。もー、去年くらいまでは呼んでくれたのにどうして呼んでくれないの!?」
「今はその話してるんじゃなくて……血がついてるから」
「あ、そうだよね。ごめんごめん。お姉ちゃん、身体洗ってくるから――待っててね?」
笑顔でそう言って去っていく姉さん。
間違いなく僕が今、旅に出ようとしていることが分かっていての発言だろう。
返り血をすり付けたのも、僕が着替えたりするのも望んでのことだろうけど、そんなことはしない。
勘違いで騎士に捕まったとしても、僕はこの姉から逃げ切る……!
「あ、お姉ちゃんが水浴びするからって覗いちゃダ、メ、だ、ぞっ」
「覗かないから」
「覗いてよ!?」
「何でよ!? いいから早く行って」
「そうよ、お姉ちゃん。早く身体洗ってきなさい」
「……はーい」
母さん、ナイスフォローだよ。
僕は奥に姿を消した姉さんを見送り、ジェスチャーで改めて母さんと父さんに別れを告げた。
……ようやく、僕の冒険が始まる。
村の人達との挨拶も軽いものだ。
みんな分かってくれている――一分一秒でも引き留めると、姉に追い付かれるということが。
村の出口までやってきた。
さすがの姉も、森の中を僕が進んだら追い付くことはできない――
「もうっ! 覗いちゃダメだって言ったでしょ?」
村のすぐ外。
森に入る前で、水魔法を使いながら水浴びをする姉さんの姿があった。全裸で。
「な、ど、どうしてここに……!?」
「ユウキ君のいるところに私がいないわけないでしょ? だってお姉ちゃんなんだもん! 一緒に冒険しようね!」
「……とりあえず、服着て?」
……早速、僕の一人旅は終了した。
おねショタ的なものが書きたくて……。
ブラコン姉が双子な現代物もちょっと考えたりしてましたがこちらはファンタジーです。




