出会いは最悪のタイミングで
「はい、これで受理したよ。ほんとにやめていいの?私、才能あると思うんだけどな」
のんびりとした先生の声が頭に響く。
桜ヶ丘先生はいつでもマイペースな先生だ。
だから、こうして俺の心に刺さる一言も平気で言える。
「はい、いいんです。撮れなくなったらもう終わりですから」
そんな投げやりな言葉を残して俺は職員室を去った。桜ヶ丘先生は悪気があって言ったわけじゃない。そう俺は分かっていた。
高校2年の夏、俺は写真部をやめた。
フレーム越しのあの子に恋をしてからあれ以上の写真は撮れなくなった。
周りには良い評価はもらってきたけども自分自身で納得のいく作品を生み出すことは出来なかった。かといってあの子を探す気にもなれないし、あの子の話がしたいわけじゃない。
ただ、もう一度、あの場所であの子の事が撮りたい。それだけだ。
さて、写真部の活動もなくなった訳だ。帰宅部は大人しく帰るべし……だが、生憎7時間目が体育だった事もあり着替えなくてはいけない……。
「最近盗撮魔がいるらしいよ〜」
「えー、怖い!やだ〜」
どこからか女子の声が聞こえてくる。
盗撮魔……興味深い……ぜひ写真に収めたいところだが……っといかんいかん悪い癖だ。
更衣室のドアを開けると汗臭い匂いが漂っていた。なんともいえなく臭い。
だが、誰もいない更衣室はなんとも快適で気持ちいい……。
誰もいないってこんなにも良かったんだな。
「ガサッ」
そう、ここには本当の本当に誰もいないはずだ。誰もいない誰もいない……
「ガサッガサッ」
何故なら開けた時誰もいなくいたとしたら隠れている場合のみ。
「ガコンガコン」
男の着替えを覗く趣味なやつはいるはずがない。
そういるはずがないんだ。
最近盗撮魔がいるとなんとか噂があるけどそんなものないんだ。
そう、全ては幻聴。自分の勘違い。
「……そう、だから!掃除用具入れから変な音がするのは気のせいだな、そう気のせいでしかない……
気のせいでしかない!!!」
そう言いながら、掃除用具箱のドアを思いっきり、やけくそで開けた。
そして、俺の中で半信半疑であった盗撮魔は姿を現した。
「……っ、お前は」
「ひやぁ!ごめんなさい!なんでもしますから、許して下さい!!!」
肩まで伸びた黒髪のストレート、凛々しい目付き
誰もが知ってる生徒会書記。そして、第一学年トップの成績。あと……肩に一眼レフ……。
「……はっはぁ?斎藤 梓がなんでここにいんの?」
「ひっひぃぃぃぃ!なんで名前知ってるんですかァァァァァァ!?」
「おまっ!有名人だろ!てか、噂と性格違いすぎ……」
そう言うと斎藤はハッとした顔になって、青ざめる表情になって、最後は真っ赤に顔を染めながら
「先輩だとしても、この生徒会書記の私が更衣室に入ったことは許せません!では、生徒会室報告しに帰らせていただきます!」
「いやいやここ男子更衣室だろ!」
「はなしてください!やめっ!やめて!立場的に危ないの!!!」
斎藤は更衣室のドアに近づいて帰ろうとしている。なるほどなるほど、だいたい分かってきたぞ。
「逃がすか!!元写真部なめんなよ!」
俺はおもむろにカメラを取り出し、斎藤を激写したのである。何枚も撮っていく。
あれ?なんかこんな感覚前もあったような……。
「ぎゃぁぁぁ!許して下さいぃ!」
斎藤涙目になりながらその場に座り込んだ。
ちょっと、悪いことしたかな。