大口宇宙
――皆さんこんばんは。
今日ご紹介するのは、とある養殖槽の中の世界です。
大宇宙の管理については当然皆さんご存じのことと思いますが、その過程で生み出される、非常に低次元で小さな世界を確保することから、この養殖は始まります。
その小さな世界のことを、内に発生した生命体は多くの場合『宇宙』と呼称したがるようですので、今日は私たちもそれにならって、この世界を宇宙と呼ぶことにします。
もちろん、私たちが知る本物の大宇宙からすれば、ちっぽけすぎて比べるべくもないのですが……彼らにしてみれば、それが認識の限界なのです。
どうかご理解の上、この先もおつきあい下さい。
さて、小さな宇宙には、自然と星が形作られます。
その成り立ちはわざわざ説明するまでもないでしょう。
私たちにとってはあっけないほど簡単な理論でしかないのは、皆さんご承知の通りです。
星には、やがて知能を持つ生命体が生まれます。
そして――その生命体は、何と!
時と共に退化していくという、驚くべき性質をもっているのです。
多くの場合、自らを『人間』と呼称する彼らは、自分たちは知恵を得、急激な進化を遂げていると信じるのですが……それがまさしく退化であることは、映像をご覧の皆さんならお分かりになると思います。
――実に愚か極まりありませんね!
ですが、そんな彼らの愚かさこそが、養殖業においては重要なのです。
やがてさらに時間が過ぎると、数の増えた彼らは互いに滅ぼそうと争い始めます。
そしてその中で、「進化した自分たちはこの星をも破壊してしまうのではないか」などと心配をしたりもするのですが、もちろん、それは単なる傲慢です。
退化に退化を重ねた彼らは、そんな大それた力があるはずもないことを自覚すら出来なくなります。
彼らが信奉する、稚拙極まりない『科学技術』とやらが、私たちからすれば児戯にも満たないことなど、考えも及ばないのです。
そしてついに、そんな心配をしていたにもかかわらず、結局彼らは争いの果てに互いに互いを――人間という種を滅ぼすに至ります。
そう――こうして、〈食用養殖星〉は完成するのです!
人間同士のちっぽけな最終戦争によって適度に荒れた星表面は、実に食欲をそそる美しい色と形を成します。
そして、その人間退化の過程によって適度に汚染された内部は、もとある自然と絡み合い、絶妙の風味へと生まれ変わっています。
また、渦巻く感情の残り香は、至高の後味となって私たちを満足させてくれます。
……いかがでしたか?
これが、私たちが普段から食事の際お世話になっている、食用星養殖の模様です。
わずか数十億年という短さで、これほど味わい深い星を養殖される業者の方々には、まったく本当に頭の下がる思いですね。