臆病
まだそこら中からセミの鳴き声が聞こえる部活、僕は袖で汗をぬぐいながらおもむろに窓の外を見た。校門前の道路が陽炎のように揺らめいていて見ているだけで暑くなってくる。
「あれ?何してるの?」
振り向くとそこには一人の後輩がいた。
「いや、暑いから窓際で涼もうと思って」
僕は1度顔を見て誰なのか確認すると少し目を逸らした。
彼女は無邪気で、優しい。誰とでも分け隔てなく接する。だからこの会話も何気ない日常の一部なのかもしれない。
―――だけど、僕は彼女のことが好きだ。
最初は僕もここまで喋るような仲ではなかった。
きっかけは友人。廊下で友人とお菓子の話をしているときに、似たようなお菓子が好きということから彼女を連れてきたのだ。まあ結局はほとんど友人と彼女だけで話していたようなものだったが。
でもそれ以来、彼女はよくしゃべる友人ではなく、僕によく喋りに来てくれた。正直、最初は嫌だった。女の人相手だと何を喋っていいのかわからないし、下手なことを言うとすぐに機嫌が悪くなると思っていたからだ。
でも、違った。
彼女に誘われてご飯を食べに行ったり、そこら辺を目的なしにぶらぶらと歩いたりしているうちに、彼女の底抜けな明るさに気づけば一目惚れしていた。
今では敬語も使わないほど気楽に喋れる仲になった。周りから「もう告っちまえよ」なんて言われるようにもなった。
でも、告白はしない。
今年は僕が受験生、来年は彼女が受験生。受験シーズンにこんなことをしていると迷惑がかかるかもしれない、というのは建前だ。
僕は臆病でずるかった。フラれて悲しみの底に落ちるのが怖かったから、終わるのならこのまま曖昧なままで、風化するように忘れたいというのが本音だ。
「先輩!今日暇でしょ?喫茶店でも行きましょ!」
だから僕はこの関係に甘えている。