表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

兄弟げんかはかくありき

作者: 海水

「たけのこの里など、きのこの山の足元にも及ばぬ!」

「きのこの山なんて、たけのこの里の前には塵に等しい!」


 今日も今日とて兄と弟は互いの主張をぶつけあっていた。

 きのこの山とたけのこの里。伝説のライバルだ。


 兄はきのこ武闘派。弟はたけのこ理論派だ。

 普段は仲の良い兄弟だが、この問題だけは互いに相容れぬふたりであった。

 

 この不毛な争いに辟易していたのはふたりの母だ。おやつにどちらかを出そうものなら、出なかった方が烈火のごとく怒りだすのだ。

 風雲急を告げるお菓子の桶狭間である。


「あんたたち、いつもバカやってんじゃないわよ!」

「ぬう母上、とめてくれるな」

「かあさん、兄貴には知らしめてやらねばならないんだ」


 母親の言葉など届かぬ様で、ふたりは龍虎の激突を思い浮かばせる羅刹顔で相対していた。


 母親は唸る。

 このバカ兄弟をどうしてくれようか。

 雷を落とすのは簡単である。頭に握り拳を落とせばよい。

 だが、それでは解決にならないのである。


 ピカリンコ!


 母親の頭に天啓が降りた。

 走る稲妻はニュータイプの証。

 母親はコンビニに走った。

 雷神の如くレジに並び、風神の如く走り帰宅した。


「ほら、おやつ買って来たわよ!」


 母親はテーブルにコンビニ袋を置いた。

 兄弟の視線は釘づけだ。


「母上、まさか、たけのこなぞ買ってはおらぬよな?」

「かあさん、まさか、きのこなんて俗物、買ってきてないよね?」


 ふたりは眦を揚げ、母親を見据えた。

 翻って母親は、そんな息子たちを、菩薩の笑みで受け入れた。


「いいから、袋から出しなさい」


 ふたりは先を争うように袋をさかさまにした。ぽとりと落ちるふたつの箱。


「ぬぅ、きのこの山!」

「わぁ、たけのこの里!」


 お互いが望むものを手中にし、満面の笑みを浮かべたが、即座に険しい目つきへと変わった。


「たけのこの里など、きのこの山の足元にも及ばぬ!」

「きのこの山なんて、たけのこの里の前には塵に等しい!」


 またもや最終戦争(アポカリプス)が勃発したのだ。

 オオブッダ。この世に平穏はないのか!


 その時、母親が動いた!

 ふたりが手にした至極の宝を奪い取ったのだ!


 なんたるゴウマン!

 なんたるフソン!


 だがしかし、菩薩のスマイルは憤怒へと変わった。


「良く聞け者ども」


 母親は、阿修羅が乗り移ったかのようなアルカイックスマイル(マックス憤怒)で息子らを見つめた。

 唖然とする兄弟は、なす術もなく口を開けていた。


「いいこと。相手が何を食べようが好きだろうが勝手でしょ? 相手の文句ばっかり言ってないで、自分の好きなものを褒め崇め讃えなさい!」


 母親の言葉に特大の衝撃を受けたのか、兄弟は凍りついた。


「でないと、おやつ抜き」

「弟よ」

「兄貴」


 ふたりは手に手を取った。母親の【おやつ抜き】という愛のむちは、ふたりを動かしたのだ。

 

「きのこの山こそ至高! 何人たりとも揺るがせない真理!」

「たけのこの里こそ人類の希望! 神から賜った真実の実!」


 兄弟は自らの派閥を褒め称えはじめたのだ!

 恍惚とした笑みを浮かべ、手に取ったおやつを愛でるふたり。


 ゴウランガ!

 なんというラクエン!

 なんというゴクラクエズ!


 母親は満足の笑みを浮かべ、徐に箱を取り出した。

 表に大きく【小枝】とかかれた箱を、若かりし頃に浮かべていたトキメキスマイルで、見つめていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 母に共感。 「小枝」が一番だよね!^^
[良い点] ウチの息子達はどちらも食べます。 小枝も食べます。 アルフォートも、トッポも、キットカットも、ビックサンダーも、チロルチョコも、アーモンドチョコも……。   あー、コンビニ行って来よう。ダ…
[一言] 自分はたけのこ派です。 しかし、小枝にすぎのこの争いを起こすなのら、あえて言いたい。 ねぇ、きりかぶは? きりかぶは!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ