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ママなんて大嫌い!

作者: 秋元智也

「帰ったらちゃんと片付けしなさいって言ってるでしょう!」

「もう、煩いなぁー。もう、ママなんて嫌い!」

雪子はドアを開けると駆け出して行きます。

「待ちなさい。雪子!」

後ろでは母親の声が響いてきます。

雪子は声を振り切り一人になれる秘密の場所へと向かいます。

家から少し離れた山の上の公園、そこが雪子にとって一番落ち着ける場所なのです。

「そんなにガミガミ言わなくたっていいじゃん。」

公園からは下の景色が一望でき、夕暮れのせいか皆母親に連れられて家へと向かいます。

雪子はただ一人、静かにその景色を眺めていました。

すると後ろから声をかけられました。

「お嬢ちゃんは一人かい?ママはどうしたんだい?」

怪しげな老婆が話しかけて来ました。

「ママなんて知らない。いなくなっちゃえばいいんだ。」

「ほう?お嬢ちゃんはママの事が嫌いかい?」

近づいてくると隣に腰かけて来ました。

「だいっ嫌い!煩いし、すぐ怒るし、私なんて大事にされてないんだもん。」

「本当にそう思うかい?」

「絶対にそうだもん。」

老婆に聞かれ、勢いよく雪子は答えました。

「そうかい、それならこれをお嬢ちゃんにあげよう。」

老婆が手渡してきたのは掌に収まる位の珊瑚の模様の手鏡だった。

「これを相手に向けて願い事を言ってごらん。きっと叶えてくれるよ。」

雪子はそれをまじまじと見た後、顔を上げると話しかけました。

「こんな子供騙しに引っ掛かるわけ・・・」

雪子は老婆にからかわれたと思い見上げるがそこには老婆の姿はありません。

いくら探しても見つかりません。

日が落ちてきて辺りが暗くなるとお腹の虫が鳴り始めました。

雪子は家へと帰ることにしました。

家に着くと母親がいつものように待っていました。

「雪子!あんたは何処をほっつき歩いてるの!全く、ご飯が冷めちゃうでしょ。早く食べちゃいなさい。」

帰って早々に叱られてしまいました。

雪子はさっきの手鏡をぎゅっと握り締めるとママへと向けました。

「何それ?どこかで拾ってきたの?」

覗き込む母親に向けていい放ちます。

「ママなんていなくなっちゃえ!」

そう叫ぶと手鏡から光が溢れてきてあっという間に鏡の中へと吸い込まれてしまいました。

「ママ?」

手鏡の中では部屋の中で右往左往している母親が映っていました。

「本当だったんだ、凄いや。これで怒られることもないし自由だわ!」

雪子は喜びを食事を食べるとぐっすりと眠りました。

翌朝、目が覚めるといつものように叩き起こされる事はありません。

気持ちのよい目覚めです。

しかし、朝食があるはずのテーブルの上には昨日食べた皿がそのままになっていました。

「片付けてないじゃん。お腹すいた~」

部屋のあたらこちらを探します。

しかし、どこにも母親の姿はありません。

「ママ~どこ行ったのよ!」

何度呼んでも、家中を探しても見つかりません。

仕方ないので棚に入っているシリアルを出すと食事を済ませました。

不安な気持ちのままいつものように公園に向かいました。

「ママったら何やってるのかしら?帰ってきたら叱ってやるんだから!」

明日は単身赴任の父が帰ってきます。

ブランコに揺られ沈んだ気持ちでいるといきなり声をかけられました。

「どうだい?願いは叶ったかい?」

驚いて振り向くとそこには昨日の老婆の姿がありました。

そしてやっと、昨日雪子がママにしたことを思い出しました。

「本当にいなくなっちゃったの?私のせい?」

「そう願ったのなら、そうだろうね。」

「もう、一生会えないって事?」

「良かったじゃないか?そうしたかったんだろう?」

すると雪子の目から大粒の涙が溢れ出してきました。

「イヤだ!もう、ママに会えないなんてイヤだよう。」

泣き出してしまいました。

「会いたいかい?まだ、嫌いかい?」

老婆は尋ねます。

雪子は泣きながら首を振りました。

「ママに会いたい。ママにちゃんと謝りたい!」

それを聞くと老婆は頷き指をパチンと鳴らしました。

すると目の前が歪み、ママの姿が現れました。

「帰ったらちゃんと片付けなさいって言ってるでしょう?」

昨日の家を飛び出す前に言われた言葉でした。

雪子はいきなり泣き出すと母親にしがみつきました。

何が起こったか分からず抱き止める母に雪子は一杯謝りました。

「ごめんなさい」と、そして「ありがとう」という気持ちを込めて。



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