27.アイドル再び
すみません、大晦日に間に合いませんでしたので、この27話は12月分です。
エアバイクにタンデムしたあたし達が、通風孔を模した緊急脱出口から飛び出したと同時に細長く甲高い音が響き渡った。
「わあ、デジャヴ〜ゥッ‼︎」
案の定、そこに待ち受けていたのは予想の斜め上を行く展開だった。投げられた不可視の網をエアバイクの前面に仕込んだライトをカインはビーム的な兵器に切り替えて、車体に回転を掛けて突き破った。
アクロバット飛行に備えて彼に括られていたあたしはぐるぐると目の回る思いでイケメンにしがみついていただけ。
スピードに乗って後方から追っかけて来る数台のバイクは走りのキレが良く、ただ目立たない色に擬態された高性能のエアバイク集団だった。
「?─────エリュシオンの徽章?」
そう呟くあたしの周囲に更に空気の層を生み出すと、風圧が消え、その所為か声が届いたらしい。
「…半分正解です。徽章こそ象りは限りなく似せてありますが、あれはおそらくこちらに誤認させるのが目的でしょう。目立ち過ぎて返って不自然だ」
あ〜、そういう事ね〜ユグドラシルの時とは違う。あの時はヴィンスが先頭切って堂々とあたしを確保に掛かっていた。大体、声掛けもせずにああも執拗に追い掛けて来る様が何か変なんだよねー。
「バイザーを上げもせず、名乗りもしない。何より派手好きのこの都市のやりようと全く合致しないこの隊はただのブラフでしょうね。ただ、囮というには余りに優秀」
ギュイン!と高速帯に紛れて地上を爆走し始めたカインは手足の様に自在にバイクを操ると、他の車に上手く紛れてゆく。
「!まだ、追って来るのっ⁉︎」
「やはり狙いは御身か。どこで嗅ぎ付けてきたのか」
と、いう事はナニ、他都市なのぉ⁉︎
「御明察。隊の癖を鑑みて【タカマガハラ】か線は薄いが【エデン】…その辺りかと」
物凄いスピードで目もシパシパしながらしがみ付いていると、追手も数台ながらこちらにぴたりと距離を空けながらも付いてきている雰囲気だ。カインが欠片も気を抜いていないのが証拠で。
「何でバレたんだろ、逃げ切れる?
「無論。ご安心あれ」
自信たっぷりに言い放つそのありように安心はすれど、短い言葉のセンテンスに余裕はないのだと知る。
んががが、何処かの都市のスパイ達に【伝説のフィメール】だと気付かれた?そんなヘマした覚えないんだけどーちゃんと狐ミミも尻尾もリニューアルしてるんだけどー(シバさんは闇医者っぽいけど腕は良かった。全然被れてない)。
先頭に立って黒いエアバイクを操る隊長・副隊長辺りは見事に追い付いて後続車に紛れている。ただ、強引に事故などを起こしてこちらを危険に曝してまで拐うつもりはない様だ。カイン並みに見事にバイクをコントロールして追い掛けて来る。
ちょっとヤバいかという考えが脳裏に閃いたと同時に銀色の光が閃いた。
きらっきらっ、キュイイイィンンン────────ッ‼︎‼︎
眩いそれは左右に楕円形を為して揺れると、甲高い音を立てて垂直に正確に路面に降り、疾風の如く走り出す。
レイク!───────レイクが来た!
全神経がまるで添う様にスピードを上げる銀色のエアバイクに集約されてゆく。
「ちィ!──────レイクラスかッ‼︎」
カインは咄嗟に空を仰ぐが、そこには鈍色の艦が航空法ギリギリまで低く飛んでいる。シルヴィアナ号だ!
ブランと手を組んだのか‼︎そう驚いていると、後続の他都市のチームが撹乱されたのか、先頭の二台を除いて視認出来ないくらい離されて行く。あれはクロ(航海長)さん?
空も封じられたカインは加速して再びライトを武器に切り替え、カーブのガードフェンスを突き破ると、何と─────下方の道路に飛んだ!
「ひヤァあああああぁあああああああッ‼︎シヌ──────!」
品の無い叫び声を空に響かせながら、再び着地しようとした時、前方に回り込み待ち伏せの為に展開していた謎の部隊が焦って行動を起こそうとしてシルヴィアナ号に邪魔され、互いに接触して火花を散らした。その爆風がこちらの軌道を僅かにずらし、ついでにあたしとカインを繋いでいたそれが千切れ、小さな身体は勢い余って後方の大型車を覆う幌の上に吹っ飛んでしまう。
「⁉︎ッく、マイコ様ッ‼︎」
運悪くトンネルを伴う分岐に分たれたあたしが最後に見たのは二人の男が違う角度から大きく片手を差し伸べる姿だった。
それで、その後のあたしは────────何故かマイクを持って会場の大舞台の上で歓声を浴びている。
人身売買の『目玉商品』として。
どうして、こうなったッ‼︎⁉︎
…まあね、何の因果か犯罪組織のそういう搬送の車に落ちちゃった、というオチなだけなんだけど…運が悪いにも程があるだろう⁉︎
それも気付かれなきゃ良かったんだけど、幌の骨組みに必死にしがみ付いていたあたしは途中で何らかの車体センサーに引っ掛かって見つかったらしいんだけど、間抜けにもうっかり気を失っていたらしい。
ベッドの上で目が覚めた後は『飛んで火に入る夏の虫』とばかりに捕まってしまった。
「───────あんたもとことん運が悪ィよな、サクヤ」
「知ってる〜」
「今日が『奴隷市』の当日じゃなきゃあ、俺が何とか口利きしてやったのによう」
ごっつい見張りの男は見つかってこの方、何くれと世話を買って出てくれてるのだが、車の屋根で伸びて目を回してる綺麗な狐娘を見つけて親分に報告したのもこの男だった為、些か恩に思うのもおかしな具合なので馴れ合い程度に関係は落ち着いていた。
最初こそレイクやブラン…最悪カインが調べて追い付く時間を稼ごうとしては試みてはみたのだが、小悪党な親分は思わぬところで上玉が転がり込んできたと大喜びで、興奮の余りこちらの話は一切聞かず(聞けず)にさっさとメインディッシュとして立派に舞子を磨き上げてしまう。
外見少女は特技を聞かれたがナンにも閃かず、ヤケクソで『歌です』と答えた結果、アイドルの様なヒラっヒラな衣装を着せられてシルヴィアナ号で歌った時の様にこちらにだけ3Dで目の前の空間に歌詞が記されるカチューシャ型のバイザーを被ってリハも無しにステージに上げられてしまった。
その間、2日だよ。体質の所為か、他の奴隷の様に手荒な扱いを受ける事は無かったけど、タワーの時の様に誰かをたらし込む暇さえ無かった内面熟女は見つかりやすくする為に手っ取り早く“己の価値を上げる”事にした。
ビクビクと怯えたり、表情筋が死んで棒立ちしたりする『奴隷』達が悪趣味な観客達の好奇の目に晒され、次々に買われていく中、「───────それでは、彼女が最後の商品です!」と言う“司会者”の宣言の後、スポットライトを浴びて舞台に躍り出た舞子はなりきって、大きく両手を掲げた。
カウントがわりに踵を鳴らしてワンポーズ取ると、元々そういうイベントもあって備えられていたのかレーザー光線の様な光がステージを飛び交って、オークションの観客ごと外見少女のコンサートに丸ごと塗り変えていく。
Are You Ready?
ぱん、ぱんぱんぱぱん!ぱん、ぱぱぱんぱんぱぱん!
舞子が手拍子を取ると段々と一緒に小気味好い音が、やがて大きく鳴り響いていく。
見て観て聞いて!診て満て効いて!
不自由なあたしが自由なアナタに成り代わって、
大きくヤイバをふるって、真ん中をえぐって拭って
雁字搦めのその精神を解き放ってあげる
見て観て聞いて!診て満て効いて!
繋がれたあたしが鎖の先のアナタに捕まって、
2本の腕で壁ドンされて、至近距離で魔法をかけて
何をしても晴れない心を墜としてあげる
よそ見しないでこっちを見てよ!そうじゃないなら、居なくなるから
運命なら巻き添えの事故
自己を律して真面目に生きるアナタが可哀想なの
斬ってヒライテ解剖されて、愛の手術に必要な縫い合わせの赤い糸
祭り縫って、寄り併せて、あたしを取り込んで
一心同体(ぱん、ぱぱん!)一心同体(ぱん、ぱぱん!)
トリコのあたしは何処にも行けない、解き放って、それができるのはそう、アナタだけなんだから
わあああああああああぁ、と大きな歓声の中、アンコールを叫ぶ声が鳴り止まない。
大きく手を振った笑顔の外見少女が思う事は、
癒し要員として観賞用になってやるから、おまいら出来るだけ高く買って、大事にしやがれ!の一択だった。
そういう訳で今月、もう一話あげる予定です。




