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マエブレもなく  作者: ショウゴ
8/37

NO・8

7話の推敲すいこう途中で風邪が悪化し、酷い目にあいました。今後は無理をせず、素直に休みます。


あと、今さらですが、ブックマーク、評価、感想、ありがとうございます。モチベーション向上に繋がり励みになります。



 窓ひとつない部屋。壁に飾られた絵画はかつて鬼才と賞された画家が、意匠(いしょう)を凝らした作品だ。天上で浮遊(ふゆう)する女神や天使や魔族が入り乱れ、戦う姿が描かれている。遙か昔、神話の時代に魔族が女神や天使に戦いを(のぞ)む模様だ。洗練かつ精密で、臨場感(りんじょうかん)があふれていた。床に敷かれた豪奢(ごうしゃ)な白い絨毯(じゅうたん)は、一千万ヘルという金額をし、置かれている調度品すべてが高価な物でしめている。絢爛(けんらん)な内装の作りとなったそこは、ホームアルド商会

代表カルダックの執務室であった。


 部屋には、カルダックひとりだけだ。商会についてあれこれ熟考しているときは、気が散るために周囲に人を置きたがらない。秘書もそれをよく理解しているため、よほどの急用の報告がないかぎり、執務室には入室しない。


 代表であるカルダックは、腹の底から湧き上がる怒りを抑えようとするため、すでに高級酒の瓶を二本まで空にしていた。彼の瞳には殺意が揺らめき、歯噛みする。アルコール度数が高い酒を飲んでも、微塵も酔える気がしない。


 今日の昼下がり、彼の息子が何者かに襲われたのだ。護衛をされた二人は殺されている。Cランクの戦闘力を持つふたりであったが、息子の命に比べたら小石にも値しない。ファインズの盾となり、無事に帰宅できたのだ。彼らも奴隷冥利がつきるだろう。


 しかし、大事な息子を襲ったという事実は消えない。カルダックの憤慨は収まらずにいた。


 ウイング兵団は現在、彼らを襲った犯人を調査中ともたつき、可愛い息子は襲われた精神的苦痛で寝込んでしまっている。それが、カルダックを怒りの収まらない原因としていた。


「必ず探し出して、報いを受けさせてやる」

 

 しかし、頭に血を上らせてばかりもいられない。


 数日前、情報ギルドの報告を受け、苦悩から千々(ちぢ)と乱れていた。その報告とは、ロッセリー商会がBランク以上の魔物素材を、数多に入手したというものだった。ここで手を打たなければ、平民街で君臨するカルダックの立場も、危うくなるかもしれない。


「なぜ、そんなことができるのだ」

 

 彼らの客層は、魔物素材の売買をやっているのもあり、粗暴な輩も多く揉めごとは少なくない。それを鎮圧(ちんあつ)する、あるいは商会の護衛目的に凄腕の男を雇っていた。その中で一番の腕前がギルダーだ。人間相手なら文句なしの実力者であるが、Bランク以上の魔物素材を入手するには、彼ひとりでは力不足である。どう考えても、高ランクの魔物素材を入手できる根拠が見当たらない。

 

 カルダックは情報ギルドから定期的に情報を買っていた。金になる街の情報や権力者の脅しのネタとなる情報、あるいはライバル商会の弱みを集めていた。その情報料はかなりの額となるが、ホームアルド商会が平民街のトップをあり続けるには必要な経費といえる。


 ところが、高額の金額を消費しても、カルダックの耳には新たに凄腕の狩人が現れた情報はつかんでいない。

 

 最近、唯一ロッセリー商会で変化が起きた話は、不吉とされる闇色の髪と瞳をもつ男を専属の狩人として雇ったぐらいだ。最初は専属として雇うことから警戒していたが、その男は狩人の素人まるだしに鎧もせず、安物の短剣を片手に狩りをおこなっている。しかも、たった一回狩りを行って以降、狩りを休む腰抜けであった。


 そういった理由から、カルダックはその男への興味を失せた。ロッセリー商会も酔狂なものだと嗤笑する。


「だが、黒髪黒瞳とは今代の勇者と同じだが……偶然か?」

 

 己の思考に没頭していると、扉のノックが鳴らされる。思考の邪魔をされ、カルダックは渋面をつくるも、急用かと入室の許可を出す。ノックをした者はてっきり秘書かと思いきや、彼から過保護に育てられた息子であった。


「父さん、話があるんだ」


「おお、どうしたファインズ。もう、大丈夫なのか」

 

 渋面から一変して、笑みを浮かべるカルダック。仕事では人間味を感じられない彼であるが、唯一可愛がっている息子といる場面だけ、彼が人間であると確認できるところであった。

 

 思考を中断されるも、機嫌よく笑顔を浮かべているカルダックであったが、彼の後ろに控えていた者を見ると、目を細めて厳めしい表情となる。


「そいつは誰だ?」


「くくく、随分とお悩みのようだな」

 

 不審者は、カルダックの並の者なら逃げ出す鋭い眼光を、易々と受け止めてニヤニヤと笑んでいる。カルダックは真向いにたたずむ、ただ者ではない不審者を注視した。


「と、父さん、この人の話を聞いてやってくれ」

 

 ファインズは不審者を怯えるように青ざめており、緊張を含んだ声音だった。カルダックの猜疑心は強まるばかりだ。


「俺が魔人と言ったら、信じるかい?」

 

 血が通っているとは思えない色白の男は、楽しげに言う。


「バカバカしい。魔人や魔物はこの国には入れるわけがない」


「もしかして、国に張り巡らせている結界があるから、安心しているの? くはははっ、やはり人間は下等だねぇ。確かに人間の割にはよくできているけど、魔人から見ればお粗末なもの。結界を破らなくても、無効化して通り抜けるのは造作もないんだよ」


「口では何とでも言える。実際、今まで魔人はルドルフ王国に入って来られなかったはずだが」


「くはっ、どまぬけな勘違い。魔人はなぁ、縛られるのを嫌う生き物だ。自分より格下の種族など、どうでもいいと思うのが大半。まあ、人の絶望する顔を快楽とする奴もいるから、率先して人の国を亡ぼす輩もいる。けど、それも魔人たちが自由奔放にしていたのも、十年前の話だ」

 

 十年前といえば、魔人と人類の戦争が激化しだした年と同じだった。


「その頃から、魔人たちの意識は大きく変わってねぇ。詳細は人間には教えねえが、魔人たちは地上から人類を亡ぼすつもりだ。ところが、人類の希望でもある勇者が予想以上に強く、隙がねぇの。以前の勇者なら人質使えば動揺のひとつでも見せるのに、あいつは平気で人質事攻撃を加えてくる見事な鬼畜っぷり。ありゃーどっちかというと、魔人よりの思考だわ」

 

 魔人の話は、誰もが勇者へ思い描く幻想を打ち砕くものだった――だが、事実だ。


 カルダックは貴族と繋がりが太いため、勇者がどういった人物か話を聞いている。


 残虐非道で、自分の目的のためなら障害となるものを躊躇なく葬る人物である。その強さは魔人を単体で戦えるほどだ。


「結局、仮にお前が魔人として、私になんの用があって姿を現したのだ」

 

 カルダックは相手が魔人だとしても、怯む様子を見せない。欲の塊である貴族相手と、長年取引をしてきた胆力と機転を持つカルダックにとって、感情を制御して動揺を押し殺すことは難しくはなかった。


「勇者と内々で面会をしたい。そのために、てめえには顔を繋げてほしいのよ」


「なぜ、私なのだ。もっと、勇者と近い貴族に頼めばいいだろう」


「そうしたいのはやまやまだがよぉ。勇者を会いに行くには、この平民街と区切っているあの壁を越えなければならないよな。あの壁の先には、ちょっとばかり騒ぎを起こさなきゃ無理だ。それはちょっとばかし、話し合いを目的に訪れた俺としては困るのよ。そこで、考えた俺は壁の向こうの連中と商売をしているてめえなら、勇者へ顔を繋ぐことができるじゃないかと思い至ったわけ」


「一応筋が通った話だな。しかし、仮に魔人の話が本当だとするなら、よく人間の生活を調査したものだ。確かに私になら顔を繋ぐのはできるが、少々骨は折れる依頼だ」

 

 不審な男が現れ、緊張と焦りを忍ばせていたカルダックが笑む。彼は根っからの商人だ。人の嘘には敏感で、色白の男が世迷言と切り捨てられる内容を、本気で語っているのがよくわかった。ただ、仮に相手が魔人だとしても、依頼されてただ働きはカルダックにとってありえない。

遠回しに見返りを要求するが、


「俺は一瞬で、てめえの命が奪えるんだぜ。発言には注意しろよ、下等種族」


「しかし、それでは騒ぎを気にしている魔人と語るお前さんとっては、不都合でないのか?」


「くははっ、俺は知っているぜぇ。人間たちの貴族とかいう連中は、平民の命が死のうが問題視しないってな」


「それは間違いないが、私は平民でも上級階級である公爵家や侯爵家とも繋がりを持つ。私が死ねば、大騒ぎとなるだろう――ひょっとすれば、勇者自ら犯人探しに動く可能性もなくはない」

 

 カルダックが述べた内容は、多少盛っているものの、まるっきしの嘘ではない。唐突にカルダックが亡くなれば、ごひいきになっている貴族らが騒ぐのは間違いない。

 

 白昼では堂々と買えない商品も、裏で取り扱っているのがホームアルド商会なのだ。貴族からの信頼も厚く、彼らが期待する商品を取り揃えるのに長けた商会だった。


 とはいえ、殺した者が魔人だとは誰も思わないだろう。誰もがルドルフ王国へは、魔人の入国ができないのが常識であり、迷宮入りするのは確実である。だが、魔人へは迂闊に手を出させないよう、牽制することはできるはずだ。

 

 ふたりの視線は交差して、魔人は口を開く。


「ちっ、しかたねぇ。なにが望みだ? 欲かきすぎると殺しちまうぞ」

 

 運はカルダックへ傾き、内心で歓喜してほくそ笑んだ。


「私と息子の命を含めホームアルド商会の存続と、ロッセリー商会の消滅だ」

 

 自分らの保障も含めて商会の存続は勿論のことだが、もし色白の男が本当に魔人だというのなら、その力を利用して疎ましい奴らを滅ぼそうと、緊迫するわずかの時間でカルダックは思いつく。


「てめえと商会の命の保障は持てねぇが、そのお前の疎ましい商会は消してやるよ」


「まあ、いいだろう。では、まずロッセリー商会は消してもらってから、勇者との面会との話を進める」


「あぁぁぁだんだんと腹が立ってきたはこの人間。なんでてめえが勝手に決めているんだ? ――やっぱ、こいつ殺すか」

 

 じろりと色白の男から、爛々(らんらん)と瞳が光だした。男の身体から殺気が漏れ出し、なべて商人でしかないカルダックの心臓をぎゅうっと圧迫させる。


 彼の語る内容が本当だと、現実味が増す。

 

 並ではない威圧に、年齢とともに張りを失った全身の肌から、冷汗がべっとりと滲み出る。


 だが、それでも譲れない。この男が約束を守るとは、カルダックの商人で(つちか)った目利きが信用するなと訴えている。


「私には、魔人が人間との約束を守るとは考えにくい。さらに我々には信頼も築けていないのだ。私には当然な権利だと思うがね」

 

 喉をからからにし、小刻みに震える拳の中が、手汗でいっぱいとなる。


「調子こいてんじゃねぇぇぇぇよ!! 人間風情が魔人様と話せるだけで感謝ものだろ、下等種族がっ」


「私は悪徳とはいえ、ルドルフ王国で大商会を率いている誇りがあるのだよ。約束が守らないのであれば、私は動くつもりはない。好きに殺すがいい」

 

 カルダックは精一杯強い意志を示し、魔人に頷くことはなかった。


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