NO・6
今日は体調不良から、投稿は無理かと思いましたが、気合で何とか間に合いました。
明日も頑張ります。
広大のベッドに、全裸の男女三人が横たわっていた。男はファインズだ。線の細い顔つきと、大きな瞳をさせた美女ふたりをはべらせていた。美貌を誇る貴族に比べればその差は明らかだが、彼女らが美形の色を湛えているのは間違いない。全員が汗だくで、息が荒い。
彼女らはファインズが平民街で適当に口説いた姉妹だ。見栄えのいい面と、豪商の実家もあって、女に声をかければ簡単にファインズへついてくる。そのような恵まれた環境で育った彼が、放埒な生活を送ってしまうのも自然な流れだろう。
好みの女に男がいようが口説き落とし、護衛者をつかっては気に入らない者を怪我負わし、食事が自分の舌に合わない飲食店があれば当然のように暴れて営業妨害をする。どれも、父親の力を駆使すればなかったことにできるため、無思慮に振る舞っていた。あのウイング兵団でも、上級貴族と強い繋がりのあるホームアルド商会には、よういに手出しができずにいた。
平民街で好き勝手やっていたファインズであるが、手に入らないものがある。それが、ロッセリー商会の代表モニカであった。あれほどの麗人を、平民街で見つけるのは難しいだろう。
宝飾品や衣服をプレゼントすれば、平民や下級貴族の女なら、いともたやすく自分のものとなっていた。しかし、彼女だけは違った。何をプレゼントしても、どれだけ愛を囁いてもなびくことはない。このような女は、ファインズは出会ったことがなかった。
それが返って恋い焦がれる要因となり、ファインズの自分のものにしたいという欲求を昂ぶらせていた。
「――あの男のせいだ」
秀麗の顔がゆがみ、険しくなる。
モニカを口説いているさなかに、いつも邪魔に入る一介の元冒険者。モニカの絶対の信頼を置き、忌々しいが腕が立つ男であった。
「疎ましい奴だ」
ファインズはあの日から、どれだけ女を抱いてもこの憤りが消えることがない。
今すぐにでも八つ裂きにしたいが、ホームアルド商会でギルダーに敵う護衛者などいない。Bランク相当の戦闘力を持つものがいれば、騎士団がまずほっておかないだろう
「くそっ」
ベッドから抜けだし、使用人が用意していたタオルでかいた汗を適当に拭うと、脱いだ衣服を身にまとう。この部屋というよりも、ファインズがいる建物は、彼の父親がいろいろと遊び場に必要だろうと、提供してくれた住居だった。
部屋を出ると、ファインズの護衛者が扉の前で待っていた。彼らはなにも言わなくとも、主人の後ろに控えてつき従う。それがあたり前で、ファインズ自身も無言で従えさせる。
二人はもともと他国で騎士をやっていた身分であった。魔族の手によって国を失い、抜け殻となって彷徨っていたところを、ホームアルド商会が甘い言葉で語りかけ、奴隷に堕としたのだ。
己の命令を逆らえない彼らを連れ、平民街を我が物顔で歩くのは自分の力を誇示すようで気に入っていた。この苛立ちを晴らすために、適当な奴を捕まえて護衛者を使って痛めつけるかと、軽薄な笑みを浮かべる。
そうと決めたら、ファインズの行動は速い。東地区の人通りの多いとおりに赴くことにした。
東地区は貴族街に通ずる大門が近いということもあり、裕福な家が密集している。道行く人々は身綺麗で、立ち並ぶ店も他の地区に比べたら清潔を意識されていた。
住居を辞して、雑多な通りで獲物を物色する。大通りでは、話し声や多様な物音が幾重にも重なって、波紋のように広がっている。ファインズの耳には、雑音としか汲み取れない。その中を、眼を凝らして観察していると、東地区では浮いた男を発見する。
「おい、あの男を捕まえてこい」
前方からこちらに向かってくる、茶髪の男に指をさして護衛者に命令する。いかにも、平民というみすぼらしい服装に、病的に白い肌の若者だった。
護衛者は命令をされるがまま向かって行き、有無を言わさず捕らえられる。巨躯なふたりに腰を抜かしたのか、茶髪の男は脆弱な抵抗をする反応が見られない。それどころか、微笑すら浮かべている。
気がおかしい男なのか、憂さ晴らしをしたい今のファインズには、相手がどんな者だろうが関係ない。違和感が、すぐに気にならなくなる。若者に軽侮の視線を向け、人気のない暗がりの路地に連れて行く。
「随分と素直だな。お前は運がいい、僕の鬱憤を晴らす、道具となるのだからな」
「それはそれは珍しい奇遇だ。仕事が難航してご立腹この俺は、ほんのちょっぴり暴れたい気分だったから嬉しいねぇ。虫が三匹とはいえ、踏み潰せるのはこのご立腹な気分も多少解消できる、くくく」
喜悦するこの男は、これから理不尽な暴力を見舞われるというのに、不安を含まれずに語った。
ファインズの前に立つふたりの護衛者の片方が、ピクッと痙攣をしたかと思うと、鳩尾の辺りから背中を突き破って指先を直視させた。
突然の出来事に頭がおいつかない。ファインズは、ただ呆然する。もうひとりの護衛者も顔を掴まれ、果実を握り潰すように圧砕させた。心中が冷え込む。ファインズの表情が不安に塗りつぶされ、硬くなる。
某国の騎士だったふたりの戦闘力は、熟練の腕を持っていた。それが、剣を抜く暇もなく、糸が切れたように崩れ落ちた。
「こんな機会を与えてくれたご褒美に、できるだけ長く苦しんで死ねるようにしちゃうよ、くくく」
茶髪の若者の全身から、内包された悪意が陽炎となって漏れ出す。それは、そんなはずがないというに、闇の種族が脳裏に浮かばせる。
邪悪な愉悦に、喉を鳴らす。自分の意思とは無関係に歯をガタガタと噛み合い、戦慄する。ファインズの身体が滑稽にも震えていた。取り返しのつかない虎の尾を踏んでしまったのだと、その瞬間にようやく気づく。
「だ、だれか……」
掠れる声で助けを呼ぶも、その声は誰にも届くことはない。自ら人気のない場所に連れ込んだのだから当然だ。
「――と思ったが、気が変わった。下等のお前に、生き残るチャンス与えてやる」
依然禍々しい魔力を発している眼前の男から、思わぬ提案されたのだと気づくのに、わずかな時間が必要であった。ファインズは恐怖に身を震わせながら、徐に頷いた。