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マエブレもなく  作者: ショウゴ
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NO・5

 ルドルフ王国に戻った奏太は衛兵に身分証を見せ、ロッセリー商会に真直ぐ向かう。店内は昨日と同じで盛況であった。従業員だけが通れる専用口を抜けると、魔物素材を解体する裏の倉庫へと早道となる。だが、その前にロッセリー商会の代表に一言声をかけた方がいいだろうと思い直し、代表がいるはずの事務所に立ち寄った。


「モニカ代表いる?」


 奏太は代表室の前で、受付カウンターの担当を務めている女性に声をかけた。


「あ、ソウタさん。モニカ代表なら、奥の部屋で仕事していますよ」


「忙しそうな雰囲気だな。さっそく、狩りに行ってきたから、一言伝えた方がいいと思ってさ」


 彼女は代表の秘書を務めているマリナで、昨日のうちに挨拶をすませている。


 挨拶では、マリナは眩い笑顔を浮かべて握手を求められた。可愛らしい顔立ちの女性に握手を求められれば、男は無意識に手を差し出してしまう。すると、両手でギュッと女性らしい柔らかい肌の感触で握り締められた。


 世間一般からモニカとまた違う麗しいと評価される女性だろうが、背丈は一五〇センチほどしかない。また、慎ましい体型から、グラマーな胸と尻好きの奏太からすれば色香(いろか)はまったく感じられず、幼女を大好物としない限り性的対象外である。


 マリナは笑顔で頷くと、


「分かりました。モニカ代表へお聞きしてきますので、少々お待ちくださいね」


 モニカを呼びに奥の部屋に引っ込んだ。マリナがモニカを呼びに言ってくれた後、五分も経たずにやってくる。昨日のダンディーな護衛も一緒だ。


 スリムな体型に合わない素晴らしいボリューム感のある乳房は、締めつける白のワイシャツを内側から押し上げるようにパンパンに張っていた。それは歩くたびに小刻みに揺れ、奏太は表情が緩まぬよう、その素晴らしい光景を目に焼きつける。


「早速狩りに行ってくれたのね」


「ああ、仕事を中断させて悪かった。初勤務だし、紹介して貰った狩り場のおかげで、なかなかの獲物を狩れたからその戦果の報告をしたほうがいいじゃないかと思ったんだが、必要がなかったか?」


「いえ、仕事ならちょっとくらい気晴らしに時間とっても大丈夫よ。でも、その言いようだと、期待できそうな感じね。教えたかいがあったわ」

 

 奏太がモリンヌ大森林について教えてくれたのはモニカであり、どれだけ危険な森なのかも教えてくれた。


「それと、生きて帰ってきたということは、約束は守ってくれたみたいだし」

 

 約束とは森深くには踏み込まないというものだ。彼女の話では森の奥深くに進むにつれて、魔力濃度の関係から人間の身体では耐えられなくなり、自然と息苦しくなっていくという話しだった。奏太は全くそうならなかったので、問題なかったはずである。


「ああ、俺は意外と約束は守る方だぞ」


「そのようね。じゃ、さっそく魔物素材の鑑定といきたいけど、貴方うちで買った素材を収納する薄っぺらな鞄一つしか持ってないじゃない」


「いや、俺の魔法で作った空間に、魔物素材は収納している」


「へっ」

 

 素材用の鞄は両肩に背負うタイプの鞄や、奏太の買ったズタ袋タイプがある。両方ともただの袋で、一杯になれば終わりだ。しかも、奏太は専門的な解体技術も知識もない。さらに魔物の知識も詳しいわけでもないため、どの部位が高価なのかも分からない。勘頼りに部位をカットして持ち帰ったとしても、買い取ってもらえない可能性もあるのだ。


 この世界にはゲームに出てくるような、魔法鞄も存在する。その技術が確立しているため、一般販売されているが、屋敷一軒分の価格と高価な販売だ。例え買えたとしても、ただの平民が所持していたら悪目立ちし、ゴロツキのターゲットにされるだろう。

 

 しかし、奏太は空間を操る魔法を多少扱え、便利な倉庫として使用できたので、悪目立ちする魔法鞄を必要としなかった。素材用の鞄をわざわざ買ったのも、出入国検査で衛兵に怪しまれないフェイクのためなのだ。


 奏太が次元魔法を扱えたことに対して、きちんと話さなかったのが気にくわなかったらしく、前を歩く奏太の背中にぶつぶつとモニカの不満をぶつけられながら、大きい倉庫へと連れて来られた。


 奏太は何もない空間を歪ませ、大森林から狩った素材を放出する。キングオーガは勿論、ニードルタイガーと類似して三倍でかく、凶悪顔の魔物。牛魔王みたいな牛の魔物、その他諸々を狩った。


 これらは全て一撃で仕留め、魔物の肉体の何処かには、奏太の拳の痕が残っていた。


 モニカや解体作業員全員が、顔を青白くして驚愕する。


「……なっ何これ……どれもこれも、Bランク以上じゃない」


「お、期待できそうな反応だな」

 

 ロッセリー商会の驚きように高額報酬が見込めると、奏太は笑みを見せた。


「いやいやいや、何のん気に笑っている場合ではないですよっ。どれもこれも簡単には市場に流せれる魔物ではない」

 

 ニードルタイガーの魔石を鑑定してくれたキグアムは、昨日見せた落ち着いた雰囲気から一変し、慌てふためいて否定する。


「え、それって、売れないってことか?」


「できないことはないですけど、確実に王族や貴族に目をつけられますね」

 

 それは自由をなくし、面倒事になるとキグアムは匂わせた。


「それは困るな」

 

 状況を理解し、奏太は顔を歪ませた。ようやく人と出会えたというのに、下手に目立てば快適な異世界ライフが送れなくなってしまう。


「正直、あれだけ森の奥深くまで潜ってはいけないと言ったのに、無下にされて怒りを覚えるけど……それは別として、何とかなるかもしれない。いえ、何とかするべきよっ」


「俺は言われたとおり危険を感じなかったし、約束は守ったはずだ」

 

 モニカの物言いに、奏太は心外だとばかりに反論する。


「はぁぁぁ、貴方が規格外なのはよく分かったわよ」

 

 額に手を当て、どっと疲れたように溜息を吐くモニカ。


「それはそうと、この好機を見逃すのは愚かな選択だわ。私たちロッセリー商会が、もう一つ上に登るには多少危ない目に遭ったとしても、この好機をものにするべきよ」

 

 モニカは商会の代表者らしい凛々しい顔つきでそう語り、今の彼女は普段の年相応の若い女性から、威厳のような風格を醸し出す。

 

 モニカが放った大陸一の商会は、夢見がちな妄想でも、絵空事で終わらせる気はなかった。彼女の先見の目と豪胆があるからこそ、ロッセリー商会はここまで大きくすることができた。商会の従業員は、そんな彼女の才気をよく知っており、危なかった時期でも迷いなく残ったのだ。

 

 そんなところが、幼馴染のお嬢様に少し似ていると感じる奏太は、モニカの横顔を見ながら独り推し量る。


「できたら、俺のことは伏せてほしいな」


「分かっているわよ。ロッセリー商会の全人脈と、貯め込んだ多額の資金を使って貴方のことは表に出ないようにするわ。その代わりにソウタには、高ランクの魔物をじゃんじゃん狩ってもらうけどね」


「ああ、分かった」

 

 その後、ロッセリー商会の素材解体要員の方たちが倉庫に集まり、鮮度を落とさないうちに解体を始めるからと、倉庫から追い出された。

 

 モニカら商会の幹部たちは、これから商運をかけた事業に向けて会議をするということで、奏太は空気を読んで店を後にしようとしたところで、肝心の給金をまだ貰っていなかったことを思い出す。


「モニカ、残金が心もとないから、しばらく食っていけるぐらいの給金は欲しいんだけど」


「あ~昨日、家を買い取ったし、そうよね。といっても、あんな高ランクの素材を払うお金なんて、うちにはないわよ。それに、こういった素材はオークションに出した方が高額を望めるし」


「とりあえず、しばらく食っていけるだけでいい」


「そう、分かったわ。残りはうちの店の名でオークションに出品するから、少し待っていて」


「ああ、残りからは借金引いといてくれよな」


「分かっているわよ。それじゃ、ギルダー金庫から一〇〇〇万ヘル持って来てちょうだい」

 

 キルダ―と呼ばれたダンディーな護衛は、「分かった」と返事を返し、店の奥へと歩いて行った。


「あのダンディーの男は、モニカの護衛者なのか?」


「正確には、私じゃなくてうちの商会のよ。死んだ両親に命を助けられた恩義を感じて、Bランクまで上り詰めた冒険者をすっぱり辞めちゃう酔狂者よ」

 

 モニカの話では運悪く魔物の大群に襲われ、大怪我を負っているところを他国へと取引に向かっていた、モニカの両親が救ったようだ。


「へーBランクって強いのか?」


 サンドリ―から戦闘力のランクについて説明を受けていたが、奏太はどれぐらいの強さなのかいまいち把握できず、ピンとこなかった。


「ソウタみたいな規格外とは別として、Bランクの数は冒険者や軍隊でも数が少ないと、世間では言われているわ。まあ、分からないけど、その強さは本物よ。敵に何人も囲まれても、ギルダーは顔色変えることもなく、あっという間に剣で切り伏せちゃうところを私は見たことがあるわ」

 

 誇らしくギルダーを語るモニカが、たまらなく美しい。こんな美女から誇られるギルダーを、奏太は内心憎く思って仕方がない。


「――なるど……」

 

 一言返すのが精一杯だった。


「モニカ譲、勝手に人の過去を明かすのはどうかと思うが」


「別にいいじゃない、恥ずかしい過去でもないし」

 

 けっこうな重量の膨れ上がった袋を片手で持ったギルダーが、呆れたようにモニカを(たしな)める。

彼の手の持つ袋をカウンターの上に載せると、ズシリと鈍い音を立てた。奏太は一〇〇〇万ヘルの重量の重さは知らないが、軽くはないはずだ。


 こちらの世界は、印刷技術がそれなりに発達しているらしく、貨幣に日本札と同じサイズと思われる札束が存在する。


 札束には渋い老人と、国旗らしきシンボルが描かれており、硬貨は銅貨と鉄貨がある。札束があるぐらいだから、財布も奏太のいた世界と同じかと思ったが、そこは違うらしく丈夫な布袋だった。


(今度、うちの世界の財布、モニカに作ってもらうか)

 

 奏太はギルダーが持ってきた袋の中身を確認すると、札束の山だった。札を数えるのが面倒に感じた奏太は、ギルダーを信じることにする。


「確認しないのか?」


「モニカが率いるロッセリー商会は、社員の金をちょろまかすような商会なのか?」

 

 奏太はギルダーの顔を見て述べる。そんな低劣なまねをするような商会では、ここまで大きな商会にはならないだろう。それに昨日今日の関係ではあるのだが、モニカらがそのような卑しい行為をするような人間には見えない。


「ないな」


「ありえないわ」

 

 二人はきっぱりと否定する。


「なら、問題ないな」

 

 奏太は金を自分で作った空間にしまい、この場から去ろうとした時、呼び止められる。


「分かっていると思うけど、段取りが整うまで納品はできないわよ」


「ああ、分かっている。段取りできたら連絡くれ」


「ええ、そうするわ」

 

 そう返事を返し、出勤一日で長い休暇を頂いた奏太は、今後の予定と夕飯は何を食べようかと考えながら、ロッセリー商会を後にした。


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