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マエブレもなく  作者: ショウゴ
18/37

2-1

短いので、今日はもう1話投稿します。

キリカは目を覚ますと、ウイング兵団の宿舎で寝かされた。部屋の中は隊長格もあって、個室があたえられている。とはいえ、机やテーブルに着替えが入ったタンスだけで質素なものだ。


 視線を自分の体に向けると、タオルケットがかけられていた。


 気だるさを感じながら、タオルケットを退けると、キリカはしゃれっ気のない動きやすさを優先させた上下の下着姿。全身の至る所に包帯が巻かれ、消毒の匂いがする。


 どれぐらい寝ていたのか、頭の中に霧がかかったかのように頭が上手く働かない。筋肉も強張ってしまって、体の節々が痛む。


 思考力低下がいちじるしいさなかで、記憶を呼び覚ます。思い出したのは黒い巨人と、筋肉の鎧に覆われた裸の男だった。裸の男に抱えられ、黒い巨人の拘束から逃れるシーン。そこまで思いだすと、記憶が一気に蘇る。


 タンスから予備のウイング兵団の制服を取り出し、痛みを無視しながら制服の袖に身を通す。


(魔人)


 キリカは寝ている間に魔人はどうなったか、イディリオに聞こうと部屋を退出した。


 扉を開けると、廊下の先から女性の声が飛び込んできた。


「キリカ隊長、なにしているのですか! まだ、寝てないとだめですっ」


 声の主はキリカの受け持つ三番隊、エリーナ副隊長だった。


 丁寧に手入れされた金色の髪を頭の後頭部で結び、綺麗な直線で流している。長身ながら均等のとれた体つき。顔には、固い性格を強調するかのように眼鏡がかかっている。


「エリーナ、私はどれだけ寝ていたの」


「三日間です。魔力の欠乏と、無茶な肉体の酷使が原因でしょう。さあ、ベッドに戻ってください、怪我はまだ完治はしてないはずです」


「戻らないわ。イディリオに会って、現状を確認する」


「その必要ありません。私がある程度把握しています」


 中指で眼鏡の位置をなおして述べる。さすが三番隊の参謀を補っているだけあって、抜かりはないようだ。


「魔人はどうなった?」


「イベリア大将とサンドリー総隊長が魔人を討ちました。ただ、その代償は大きかったようで、二人とも軽くない怪我を負ったようです。特にサンドリー総隊長は酷かったと聞いています」


「……そう。私はどうやって助かったの」


「カルフェール伯爵家の騎士が駆けつけ、救助してくれたようです」


 キリカが記憶する情報とは、違うものだった。


「やっぱり、イディリオに会う」


「キリカ隊長!」


「エリーナ、イディリオは今どこにいる?」


「人の話しを聞いているのですかっ」


 エリーナがキリカの身体を気遣ってくれているのは充分理解できるが、魚の骨が喉もとに引っかかったような気分を、迅速に晴らしたい欲求が強かった。


 彼女の瞳に視線を送り、考えを変える気はないと目で訴える。


 しばらく、二人の視線は重なり合う。キリカの感情を映さない無情の瞳は、普通に見られただけで圧迫感を感じる。エリーナの眼鏡の奥にある瞳の目力は、身を縮ませる迫力を持ち合わせている。二人の美女は一歩も引かずに睨み合い、凍りつかす廊下で対峙した。


「なにをしているのです。キリカ隊長、エリーナ副隊長」


 二人に声をかけたのは、キリカが探していたイディリオ副総隊長であった。皺一つないウイング兵団の紺色の制服を着衣し、片袖だけ空白となっている。


「他の隊員から、苦情が上がっていますよ。私も暇ではないのですがね。二人は隊員たちの見本とならなければいけないのを、自覚を持ってください」


 彼の言葉にキリカもエリーナも、ぐうの音もでず、二人は沈黙する。そこで、キリカはイディリオの右袖が空白となっていのに疑問を抱く。


「その腕どうしたの?」


「魔人の一件で、少しドジを踏みましてね。ですが、この片腕を代償に、隊員たちから死傷者を出さずにすんだのは上出来と見ていいでしょうね」


 少しも嬉しそうな表情を作らず、イディリオは述べる。


「そう。大丈夫なの?」


 キリカは心配する言葉を述べるも、その表情は無にひとしい。


「幸いにも、利き腕ではない右腕でしたので、幸運でした」


 そう話すも、片腕を失えば戦闘力は半減するといっても過言ではない。イディリオの得物は、キリカと同じ片手半剣の細剣を扱い、戦闘時に応じて水属性の魔法を放つものだ。


 臨機応変の対応力を持ち、隙を生みにくい戦闘スタイルである。


 ウイング兵団の管理や平民街の治安維持で、頭を使う姿が目立つイデリィオであるが、その実力は副総隊長なだけあって折り紙つきだ。


 キリカはイディリオの戦いかたを参考として、格段に腕が磨かれていた。


「副総隊長、現場を引退する言葉をかける前に、私が寝ている間になにが起きたのか聞かせて」


「随分と冷たいものですね。仮にも、上司ですよ」


「机に齧かじりついていたほうが、副総隊長にはお似合いだわ。それに、ちっとも後悔しているように見えない」


「なるほど。では、キリカ隊長が知りたい話は、歩きながら話しましょう。私はこの後に予定がありますので」


 キリカはそれでかまわないと首肯する。


「ダメです。キリカ隊長には少しでも早く、身体の完治を優先してもらわないと三番隊としては困ります。そもそも、先ほどの報告は間違いないはずです」


 キリカへ不満そうに述べるエリーナは、眉をひそめていた。


「エリーナ副隊長、落ち着いてください。私から説明すれば本人も納得して、大人しく治療に専念するでしょう」


「それは、私の説明が間違っているということですか、イディリオ副総隊長」


 自分の仕事に高い矜持を持っているエリーナは、一段と眼鏡の奥の瞳が鋭くさせる。


「いえ、間違いではありませんよ。ただ、キリカ隊長が求める答えではなかったということです」


「……」


 イディリオの言葉を聞いても、知的な小顔は納得いかないと書かれていた。


「それでは、キリカ隊長ついてきてください」


 エリーナを残し、キリカはイディリオの後に続いて歩き出した。

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