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マエブレもなく  作者: ショウゴ
16/37

1-エピローグ

これで、第一章の終わりです。

「なにが起きたの……」

 

 二人の女性はあまりの不意の事態に、呆気にとられてしまっていた。幼馴染みであり、婚約者でもある人物が、執務室で談笑しているところで突然姿を消したのだ。


 女性とは、華奈巳と夏希であった。そして、姿を消したのは言うまでもなく、奏太だ。だが、呆気にとられた時間はごくわずか。正気を取り戻し、ふたりは速やかに捜索の行動へと出る。


「夏希、うちの警備隊を総動員して奏太を探すよう指示と、警戒レベルを上げてちょうだい」

 

 頷くと、部屋を飛び出すように退出して行く。ここまで、一分未満の判断と行動であった。十分もかからず、敷地の出口に屈強の警備員で固められる。華奈巳の両親が経営する本条コーポレーションには警備部門が存在し、その中で本条家を警護する精鋭部隊たちが目を光らせている。


 短い時間で、奏太を連れて誘拐するのは難しい。


 常日頃から、本条財閥の才女は様々なところから命を狙われていた。その理由は身から出た(さび)もあるが、彼女の豪胆さと怜悧(れいり)、さらに人を魅了するカリスマ性にある。それは、世界の覇権を狙っている者らにとっては非常に脅威であり、隙あれば命を奪うのに充分あたいした。息苦しくあるが、警備隊から二十四時間体勢で警護するのも致し方ない。


 敷地内には、高度なセンシング機能搭載の防犯カメラが、いたるところに設置されている。屋敷内にも私室を除き、人通りの多い通路や出口付近を中心に設置されていた。映像は屋敷の録画装置に記録され、リアルタイムで本部の警備部門PCにもデータが送られるようになっている。本条警備隊は警察とも連携をとっているため、東京都内から逃げ切るのは非常に難度が高いものとなっていた。


 華奈巳は冷静に状況を整理し、安堵するには早いが、焦りは毛ほども無くなっていた。


 ――しかし、


「なぜ、見つからないの」

 

 警備員にくまなく探させ、防犯カメラをチェックするも、誘拐犯どころか奏太も発見できなかった。


「そもそも、どうやって私と夏希が奏太の側にいたというのに、連れ出せたわけ」

 

 ふたりは人間の壁を抜けた存在である。(くつろ)いでいたとはいえ、人攫(ひとさら)いする輩に抜かるような間抜けではない。百歩譲り、催涙弾(さいるいだん)で華奈巳らが狼狽(ろうばい)したとしても、誘拐を未然に防ぐ自信がある。

 

 それなのに、執務室だけではなく、何処からもなにひとつ手がかりが見つからなかった。

 

 奏太が行方不明となってから、一ヶ月が経つ。

 

 屈辱であった。目前で、婚約者を連れ去られるなど、本条華奈巳の名に泥を塗る行為だ。なりふり構っていられない。捜索を初めて日づけが変わろうとしたその日、才女はある決断をした。今まで誰にも頭を下げたことがなかったモニカは、家族に頭を下げて協力を要請した。


 彼女にとって奏太の存在はなによりも、優先するものなのだ。ところが、協力を取りつけるも、捜索から月日が流れるだけで、奏太は見つからずに捜査状況に進歩がなかった。

 

 進展のない現状にどうにか打開しようと、親友と呼べる夏希は独自で奏太を捜索すると述べ、屋敷を出て行った。

 

 華奈巳は、バルコニーへ移動して空を見上げながら(うれ)える。いつも凜とした表情が、今はどこか虚ろとなっていた。世界が朱に染まり、紺碧(こんぺき)がおとずれ(せめ)ぎ合う。視線を映す街は落日を浴びて、赤みかかっていた。夕暮れを眺め、気づけば闇が空を覆っていた。夜空には欠けた月と、小さな星々を描かれている。


 あんなに満たされた日々が、偽りだったよう底冷えがする。二人と出会う昔に戻ったように、孤独感が身体の芯を食い込んだ。


 底知れぬ怒りが心で荒れ狂う。何でもできると思っていた己を恥いて、悔しさで一杯となる。

 

 いつまでも三人の関係は変わらないと、華奈巳は疑わなかった。それは恋人となり、結婚をして幾つになっても同じだと。


 彼女の左手の薬指には、奏太からプレゼントされたペアリングがはめられている。安価な指輪であるが、実質これが彼女にとって婚約指輪であり、どんな豪華な指輪よりも価値がある。華奈巳にとっては、どんな物より高価にうつる宝物だ。

 

 薬指の指輪にそっと触れ、そして右手で包むように握る。


 華奈巳や本条当主の子供たちは、幼少期から一流企業の先導者となれるように教育を受けてきた。両親に甘えることも許されず、家族の顔も滅多に見られない環境で育ってきた。


 もの心がつくころには胸裡(きょうり)(とばり)が下ろされ、子供らしい表情とはどんなものなのかさえわからない。色あせた世界を、歩んでいる気分だ。その世界は心が満たされず、なにが足りないのかさえわからず、苛立ちを覚える日々をすごしていた。


 あてもない灰色の世界を歩みつづけ、唐突に終わりを迎える。


 それは奏太と出会いだった。彼女の世界を彩られ、華奈巳の孤独感が徐々に薄れいき、気がつけば跡形もなくなっていた。


 彼は華奈巳を救い出してくれた恩人であり、己が婚約者に選んだ男。


『今日から俺らは親友だ。つまり、ずっと一緒というわけだ』

 

 出会って間もない頃、奏太が華奈巳に発した言葉だった。その言葉には呆れるような下心が隠されていたが、周囲から畏怖されていた彼女にとって、そのような台詞を言ってくれた者はいない。だから、ほんの少しだけ、嬉しかったのを覚えている。


「――嘘つき……」

 

 夜空の下、独り華奈巳は声を殺して、肩を震わせた。


奏太は大学を卒業して半年後ぐらいに、異世界に転移する感じです。


一章はいろいろと伏線をばら撒いて回収してませんが、おいおい回収していくつもりです。


奏太は何故幼馴染との再会したい姿を見せないのか? そして、幼馴染と再会できるのか?


それも、おいおい語っていく予定なのですが、あまり人気がなければまた打ち切りして、違う話を執筆してしまうかもしれません。申し訳ありません。

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