福島悟と花火大会
俺たちは花火大会の会場に来たのだが・・・
「お前、なんで浴衣に着替えてきてんだよ」
陽菜は宿でレンタルできる浴衣を身にまとっている。浴衣は藍色でいつもの明るい性格とは裏腹に落ち着いた色でありながら、とても似合っている。
「だって、せっかくなんだし」
俺たちは今小高い山の上に登って花火があがるのを待っているのだ。この場所は宿の女将さんに教えてもらった穴場スポットだ。
「そろそろだな」
丘の上に夏の風が吹き付ける・・・そして爆音とともに花火が夏の夜空にはじける。
横を見ると俺の隣に座る陽菜と目が合う・・・まずい、目が離せない。
「悟・・・」
陽菜が上目遣いで俺を見つめてくる、そして俺の手に陽菜の手が重なる・・・
「・・・っ」
目の前が真っ白になり、何かが俺の脳でフラッシュバックする。
その記憶は俺の子供のころの記憶だった。
それはまだ両親が生きているときの話だ。
俺は父親と母親とこの地のこの祭りに来ていて、あの時も宿の女将に教えられてこの丘に登ってきた。
俺はあの時父親と母親、そしてあと一人いたはずだ・・・あの時一緒にいた人は、まぎれもなく陽菜であった。
あの時も陽菜の両親が旅行に出かけていてそれを可愛そうに思った俺の両親が陽菜もつれてこの花火大会に来たのだった。
あの時、あの日、あの時間。あの時も陽菜は俺の手に彼女の手を重ねた。
あの後俺はどうしたのだろう・・・
我に返ると陽菜は俺の手に彼女の手をのせた状態で花火を見ていた。
「俺の考えすぎか・・・」
俺は少し悲しさを感じながら花火を見た。
そして、あっという間に花火が終わる・・・
たぶん陽菜は過去に来たことを覚えていない。
「陽菜、これからどうするんだ?」
少し気まずい静寂を切り裂いて俺が質問する。
「これから?もちろんお風呂だけど?」
「もしかして・・・混浴?」
「もちろん!」
これからもっと気まずくなりそうだ・・・
「悟?もう入っていい?」
「・・・あ、あぁ」
運よく混浴の場所には俺たちのほかに誰もいなく、貸し切りの状態であった。
「入るよー」
浴場のドアが開き体にタオルを巻いた陽菜が入ってくる。陽菜はやはり運動部ということもあって締まるところは締まり、出るとこは出ている。
「何見てるの・・・よいしょっと」
陽菜が俺の横に座り、思いのほかに密着してきたせいで俺の鼓動が陽菜に聞こえるんじゃないかというほど高鳴る。
「悟私はさ、さっきも言ったけどずっと悟とこんな感じで接してきたかったんだよ?でも悟はいっつも優しくしてくれなくていっつも冷たかった、だから私も話しずらかったんだよ。でも最近は普通に接してくれるから、私はうれしいな」
「・・・その、なんかごめん」
「そういうときは、ありがとうっていうんだよ。私がしたくてしたことなんだから」
「あぁ・・・ありがとう陽菜」
ある程度温泉に浸かったのち、俺は風呂からあがろうとしてふいにフラついてしまう・・・なんだ?足に力が入らない。俺はそのまま浴場の床に倒れこんでしまった。
「悟!?大丈夫?」
陽菜が駆け寄ってくる・・・
どうやら俺はのぼせてしまったようだ・・・