福島悟と伊藤加奈
伊藤加奈に手を引かれ俺は人気のない場所へと連れていかれる。
「あのさ、サトルっち。私ね、本当はあんたのことがずっと・・・す、好きだった。だから私と付き合ってください」
好きという言葉を告げた伊藤加奈の声にはいつものような軽さはなく、真剣さの伝わる落ち着いた声だ。俺はいったい今、どんな顔をしているんだろう。
確かに伊藤加奈という女の子は素晴らしい。いつも笑顔で元気があって彼女の周りの人を自然と笑顔にしてくれるような性格であった。
しかし、俺は彼女と付き合っていいのだろうか・・・頭の中にそんなことが浮かんでくる。
彼女は性格がいいから多くの男と付き合ってきたに違いない。そして俺はその一部にしか過ぎないのではないのか、ととてつもなくしょうもないことを考えてしまう。
「俺なんかでいいのか?俺なんて根暗で、冷めてて、非力で、そんなやつだぞ?」
俺は今まで周りの奴に冷たく接してきた。
それは幼馴染の陽菜も例外ではない。
俺は家族を失った。それを理解してくれる奴が周りにいなかった。
だから俺は一人になった。
「あんたは本当に強いよ・・・一人になってもずっと生きてきた。私だったらパパやママをなくしたら自殺だって考えちゃうかも。でもあんたはこうやって生きてる。そんな強いところが好き。大好きなの」
伊藤加奈が同情の目を向けてくる・・・
俺がほしかったのは同情なのか?そう心に問いかける
俺は同情がほしかったわけじゃない。
同情ならいろんな人からもらったはずだ。親戚から、友達から、先生から。中には軽蔑してくる奴もいたが、多くの人から同情された。
しかし、彼女の言葉はいやな気持にはさせない暖かさを持っていた。
非モテの俺にはまたとないチャンスじゃないか、いま「付き合おう」と返事をすれば脱非モテだ。
「わかっ・・・」
返事をしようとしたとき、ふと陽菜の顔が思い浮かんだ。
彼女は両親が死んでから俺に同情の目を向けただろうか。それは否だ。
彼女は俺に一度も同情の目を向けたことはなかった。
そこで何か心の奥にあった霧が晴れた気がした。
そんな彼女に俺は好意を抱いていたのではないか?心の奥底から思いが昇ってくる。
悩みに悩んで出した答えは・・・