第二話
ユキは花が好きだ。
彼女に限らず、娘には花を好むものが多い。
儚くも可憐であるところに自身を重ねているのだろうか。
「神様、神殿に花を飾っても良いですか?」
「あぁ構わないよ」
ユキの頭を撫でてやる。
嬉しそうにこちらを見上げるユキ。この感情は親愛だ。恋愛ではない。
「ユキは誰かを好きになったことはあるかい?」
「はい」
意外な返事だ。
「それは誰だい?」
「父さまと母さま、神様のことも」
「……そうか、ユキは良い子だな」
俺はもう一度彼女の頭を撫でた。
ユキからは香しい花の匂いがした。
「神様は私のこと好きですか?」
「あぁ、好きだよ」
「嬉しいです。ありがとうございます」
神の業をもってすれば、恋愛感情を持たせることはできる。
でも、俺はそれをしない。
即物的な感情には深みがない。
深いコクのある心はゆっくりと醸成された感情で作られるのだ。
ユキは花を飾るための器を探し始めた。
俺はその様子を横になって眺める。
人間が恋愛感情を持つに至るには、「時期」、「直感」、「契機」が必要だ。
時期とは、恋愛感情を持つために適正な成長度合いのことだ。ユキは十三歳。時期については申し分ない。
直感とは、相手を恋愛の対象として見ることができるかと言うことだ。これは俺の努力を要する。
そして契機とは、芽生えた恋愛感情を自覚させるような出来事だ。
今はまだ「直感」が不十分。「契機」を仕掛ける時ではない。