願い事
星神と呼ばれる田舎の伝説は、星に願い事をすれば願いが叶うといわれている。ただし、それを行うには条件がある。条件は空気が澄んでいて、星がきれいに見えるとき。それ以外では星は願いを叶えない。これは、星神の若者の間ではあまり知られていないため、伝説は今の時代に試されたことがない。今、若者達の間でそのことを知っているのは、この田舎のなかで1番偉い者の娘しかいない。その娘は玲奈という。
少女は胸の前で手を組み、こちらを見上げている。
「お星さま?どうか私の願いを叶えてくださいな」
少女の期待と希望に満ちた声が天まで届く。俺はその声を寝そべりながら聞いていた。
「どうか、私に彼氏をください」
ああ、まただ。もう、このセリフには飽きた。それはもう何百年も聞いてきた。そして、聞くたびに思った。なぜ、人間は愛に飢えているのか。もちろん、そうでない者もいる。が、どうやら俺は世話好きのようだ。内容に関係なく、願い事を叶えてしまう。今回も、俺は願いを叶えに地上へ降りる。
『…しょうがない。今回もまた、俺の監視のもとにいる人間だ。願いを叶えてやらなくもない』
だが、最初は必ず願い事を聞いてなかったふりをする。
『私が星神だ。おまえの願いは何だ?』
少女はにっこりした。
「私、玲奈。あなたに願いを叶えてもらいたいの」
ここまでは俺の知っているパターンだった。が、ここまでは、だ。まさかこいつが、常人とは大きく異なる想像力と慾があるとは思いもしなかった。
あの後、俺はあいつの願い事を叶えるためにあちこちを飛び回った。大変だった。玲奈は田舎では売っていない文房具を欲しがったり、服を欲しがったりした。ずっと田舎を見てきた俺には流行りの文房具など、全く知らないのだ。ま、おかげで少しは退屈せずに済んだ。が、その時…。
「あのね、今度はおとぎ話の世界に行ってみたいな」
『…は?』
それは、ここでも話は聞けるくらい有名なディなんとらやの事だろうか。
『そ…それはどういう事だ?詳しく説明してもらわんと…』
「え?だから、絵本の中のおとぎ話。行ってみたいなあ…」
…嘘だろ…?そんな想像力を持った高校生がどこにいる!?…いや、ここにいるが…。
初めての願い事に戸惑いを隠せずにいると、玲奈は俺の顔を覗き込んできて「やっぱりダメ?」と訊いてきた。
『し…しかたないな。良いだろう』
うるうるしていた玲奈の目を見て、ついそう言ってしまった。…さっきも言ったように、俺は世話好きだ。
そういう小さい子のような顔をされると、そう言ってしまうのだ。
「や、やった!やばい!すごい嬉しい!」
…てことで玲奈は絵本の中へ…。としたいところだが、こいつは何をしでかすかわからない。仕方なく俺は玲奈についていくことにした。
「うわあ!なにこれえ」
『うお!やめろ!それはここの姫が食べる、ストーリに重要な物なんだ!触るな!」
…こいつが興味を示したものは全てストーリーに深く関わる物で、壊れやすいものだった。
『…はあ…』
もう帰りたい。願いを叶えることで、初めて大変だと思った。
「今日はありがとう!」
『あ?おぉ…』
「…それで、最後のお願いなんだけど…」
…まだあるのか。正直マジ勘弁。
「あのね、私、星神の事好きになっちゃった!…どうかな?ダメ…?」
今、玲奈の初めの願い事を思い出した。確か、「どうか、私に彼氏をください」か。気付けば俺の口元はほころんでいた。
『ま、確かにおまえのそばにいれば退屈はしないな』
「…それって…?」
『一生、おまえのそばにいてやるよ』
「…いいの?」
『…ったく。神を地上に落とす人間なんて初めて聞いたぜ』
玲奈はにっこり笑った。
「ホント?」
『神は嘘は言わねえ』
「じゃ、これからよろしくね?私だけのお星さま☆」
こんにちは、桜騎です!今回もまた、ファンタジーと恋愛を混ぜた話を書かせていただきました。今回のは急に思ついて何の予定も無しに書いたので、少し変になったと思いますがお許しください!
次回の話もよろしくお願いします!