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第四章 奇襲同盟

 生還の宴、その次の日私は元第四軍及び大鳶山賊団、その非戦闘員を含めた総勢50名で依頼を受けたフロスガーの砦へと急行した。情報が漏れたことがアリンゴスに気付かれてしまったら間違いなく最初に襲われるのは我々のキャンプだ。防衛設備もなく、兵力も潤沢でないキャンプは私がいなければ正規軍が魔術師を要する一個中隊【二百人程度の部隊】を差し向けてきたら簡単に全滅させられてしまうからだ。故に、あの心優しい領主に報酬として保護させようという話だ。無論、いつかはキャンプを改造し戦術拠点とするつもりだ。そしてその暁には非戦闘員であっても我々の拠点を離れなくていいように。

「おかえりない、リヴィア様!おかえりなさい、親愛なる同盟諸君!」

 砦に着くと途端に驚かされた。いつの間にか同盟扱いになっている。それも一国にすら満たぬ矮小なる我々にだ。フロスガーがその気になればいつでも潰せるというのに。

「よくぞお越しくだされた。リヴィア殿。」

 私たち一行が門の中を進むと砦へ行く道中領主が出迎えに来ていた。そこからは歓談しながら広間へと向かう。途中しきりにユリヤを気にかける領主だがさすが我が娘しっかりと礼儀正しく朗らかに対応している

 砦へ着くと、正式な話が始まった。ユリヤは兵士たちと一緒に外で待たせようとしたが嫌がったので連れて行くことにした。邪魔にはなるまい。そんなわけもあって、依頼の報告と報酬の交渉に向かったのは私、ベルタ、ユリヤの義理親子三代であった。

「つかぬ事をお聞きしますが、ルーフェンのベルタ殿で相違ないでしょうか?」

 ルーフェンのベルタ、最大魔術師、永遠の魔女、現人神、彼女の異名ならいくらでもある。その全てが彼女の理不尽さを表すのだ。たとえ魔術師の一個師団でさえ彼女を倒すことは叶わないルーフェンの最後にして最高の砦だ。

「我が名を知っているとは光栄です。」

 ベルタは極めて礼儀正しく答えた。

「何故リヴィア殿の一団にいらっしゃるのでしょうか?」

 領主が訪ねて。

「これは私が育てました。我が娘も同然。離れた娘が心配になり追いかけてしまったというところです。」

 ベルタが答えた。

「なるほど。リヴィア殿、我が軍に志願してはくださいませぬか?」

 領主が私に尋ねる。無理もないだろうベルタがいれば国は安泰だ。ベルタも今では一応私の指揮下に居る。

「申し訳ないが、我々はどこにも属する気はない。」

 私は答えた。

「あ、いや失礼。さて、どうでしたか?アリンゴスになんか変化は?」

 さて、本題だ。

「麻薬だ。アリンゴスの兵は麻薬を使って自ら魔術師に覚醒しようとしてた。残念ながら麻薬のサンプルは……。」

 そこまで言うとベルタがポケットから一輪の花と白い粉を取り出した。

「なんで持ってる!?」

 思わずベルタに尋ねた。

「アリンゴスの砦で盗んでおいたんだよ、役に立つかなぁって。」

 それにしても豪華なこそ泥である。世界最強の名をほしいままにするベルタの窃盗を誰が止めれるだろうか。ベルタの窃盗なら見つけてしまった方が不運である。音もなく殺すなどベルタには赤子の手をひねることと大差ない。

「まぁ、助かった。これが麻薬のサンプルでこっちは原料か?」

 ベルタの方を見ると頷いている。

「だそうだ。」

 やはりベルタがいると締まりがない。

「それで、アリンゴスの兵はあのような状態に……。なんと非道な。」

 どうやらこの領主もあの時の私と同意見らしい。

「対策をとらなくてはいけないだろう?どうする?」

 私は領主に尋ねた。

「対策については国王に掛け合ってみます。報酬の件ですが。」

 ベルタとユリヤは黙っていた。

「報酬なんだが、この一件に関わってしまったために我々が狙われる可能性は極めて高い。故に、匿ってはもらえないか?」

 私が提示すると領主は快諾した。

「もちろん、構いません。並びに今回の依頼の危険を鑑みて、第四金貨100枚をお渡ししたい。」

 金貨には大きさと純度に応じて第一から第五まであり第四金貨は純金で作られており、五枚もあれば家が一つ立つ。ちなみに第五金貨は第四金貨1000枚を固めたものであり保管用に作られた硬貨で金貨と言うよりは金貨に変換することが許された印の付いた金塊である。

「ありがたい。」

 私がそう答えると、領主は席を立った。

「では、報酬は持って来させます。私は早馬を飛ばし王とあってまいりますのでしばしお待ちください。」

 その後すぐに金貨を持ってフロスガー兵が入ってきた。私は報酬を確かめ、間違いがない旨を伝えるとフロスガーの兵が先に仲間を案内していたフロアに案内してくれた。

「我が領主は帰りが遅くなるやもしれません。その間、こちらのフロアをお使いください。」

 そのフロアには一人一室でも何部屋か余るほどの部屋があり全てが下品にならない程度に装飾されている。

「驚いたな、フロスガーの砦はこんなに豊かなのか。」

 ベルタが言うがルーフェンも別に負けてはいないのだ。ただし、少し方向性が違った。ルーフェンはモチーフにこだわる、砦ならな剣と杖、それから盾だ。故に軍人然とした厳しい雰囲気になっているが決して貧相なわけではない。

「さ、部屋で休むぞ。ユリヤは私の部屋だ、一人だと寂しいだろ?」

 ベルタを半分無視しながらユリヤを連れて部屋へ入る。

「はーい。」

 と言いながら笑顔でついてくるユリヤ。

「ちょっと待った、お母さんも同じ部屋がいい!」

 ベルタがそんなことを言っているが、部屋のベッドは一つ。さすがにそこに三世代は狭苦しい。

「悪いけどこの部屋、ベッド一つなんだ。」

 そう言うとベルタはふざけた。

「あの時のくちずけを忘れたのか?私とは遊びだったとでも言うのか!」

 ユリヤが悪ノリする。

「お母さんとベルタさんて……。」

 あぁいちいち疲れる。

「親子だ!それ以上でもそれ以下でもない、帰れ!」

 そうして、ベルタを締め出すとやれやれと苦笑いした。

「大丈夫かな?」

 ユリヤは優しい子だきっとベルタが私をとられて寂しがってないかを案じている。

「大丈夫、ベルタは大人だからな。」

 全くもってベルタがいると緊張感がなくなる。


 それから待つこと一晩、私は領主に呼び出された。隣には、ベルタとユリヤが。結局また付いてきたのだ。

「大変お待たせいたしましたね。アリンゴスでの件王都にて報告して参りました。その際、薬学士に鑑定させたところあれは一定の量までは摂取しても感情が高まる程度。しかし、その一定を越えると強烈な依存性を発揮し、さらに一定を越えると精神を崩壊させてしまうようです。さらに特異な事に、依存性も精神崩壊の原因も薬物が分解された後の別の物質によって起こされるもの、これは体外へ排出されるのが非常に遅く、そのくせこの麻薬自体では禁断症状を抑える事ができず過剰摂取に至る流れだそうです。」

 領主は拳を固く握り怒りに震えていた。

「それで?何か頼みたい事があるんじゃないか?」

 私は領主に問うた。

「わが国はルーフェンと同盟し、アリンゴスを打倒したい。ルーフェンへの口利き頼めないか?」

 思惑通りだ。

「私は亡命者、ルーフェンへの口利きなどできぬよ。」

 領主は落胆した。

「それでは……。」

 しかし、その先を考えているからこそ思惑通りなのである。

「口利きはできないけど、策はある。」

 領主は立ち上がり尋ねた。

「それはいったい?」

 私は笑顔で言った。

「魔術師を五人連れてルーフェン王都に忍び込み、王に脅しをかけつつ直接交渉する。」

 あまりに乱暴な策だ。だが効果的で話が早い。

「ちょうどこの後方に控える砦には2人の魔術師がいます。そこにリヴィア殿、ベルタ殿、ユリヤ嬢を足して五人。」

 この領主も先読みがうまい。

「できればユリヤは連れて行きたくないが……。」

 そう言いながらユリヤを見るとユリヤは思った通りの返事をした。

「ついてく!」

 私は予想していたが故にユリヤの言葉を聞く前には領主を見ていた。

「だそうだ。魔術師五人決まったようだな。」

 私が言うと、領主はすでに伝令の兵を呼んでいた。

「話は聞いていましたね?後方砦にあの2人を呼びに行ってください。」

 伝令兵に言うと、伝令兵はほくそ笑んだ。

「あの二人ですか。なるほど領主様、さすがの御慧眼。」

 伝令兵はそう言うと踵を返し早馬を出した。


 その日の夕暮れ、砦には黒装束の男と青髪の少女、それから私と、ベルタ、ユリヤ、領主が馬に乗って集まる。

「概要を説明する。ルーフェンの王都には地下に水道、および下水道が埋設されておりこれを通り王宮を急襲し、王と無理矢理謁見する。その後は王を人質にするなりなんなりして無理矢理同盟を組む。その際に役立つ能力のあるものは名乗り出てほしい。」

 私が言うと青髪の少女が一歩前に出る。

「私の魔法なら敵を眠らせる事ができる。またこの男は姿くらましが得意だ。」

 好都合すぎるくらいだ。さてはこの領主奇襲の事も考えていたな。そう思いながら領主を見るとなんの事やらと笑う。

「二人とも御誂え向きの能力だ。さて、行くぞ。」

 そういうと、馬を走らせルーフェンの王都に向かった。


 夜陰に紛れ、男の魔法で姿をくらまし、青髪の少女の魔法で見張りを眠らせると驚くほど簡単に王の寝室へとたどり着いた。

「王よ、無礼をお許しください。」

 そう言いながら、眠る準備をしていた王の前に魔術師五人および、領主が片膝をついて頭を垂れる。

「許そう。しかし、誰にも気付かれず私の元に来るとはさすがはフロスガーが誇る奇襲部隊の隊長である。」

 それを聞き、青髪の少女と黒装束の男が顔を上げた。

「私たちをご存知で?」

 その質問に王は応えた。

「知っておる。微睡みのインガ殿と宵闇のヴラドレン殿であろう?今宵は何故に参った?」

 王が尋ねると領主が立ち上がり何やら書状を渡している。

「これを。」

 王はそれを一瞥すると一度深く考え込み、顔を上げた。

「私はこの話、受けたいと思う。」

 王がそういった頃、武装した兵がなだれ込んできた。

「国王陛下!無事ですか。」

 とっさに、領主とユリヤの前に立ちはだかる。ここにベルタと、先ほどインガと言われた女、ヴラドレンと呼ばれた男が続いた。

 しかし、これは無駄だった。国王が、静止したのだ。

「こ奴らは今よりこの私の友人だ!武器を向けるのは許さんぞ!」

 兵士は引き下がれない。

「しかし、この者たちはフロスガーの人間と亡命者ではありませんか!」

 ルーフェンの国王は知略に優れた名君として君臨し続けている。故にこの兵を納得させるなどこの国王には造作もなかった。

「貴様らが亡命者というこいつらは私が放った諜報員よ!此度もこうしてアリンゴスの情報と打開する策を持ってきよったわ!誰ぞ褒美を取らせよ!」

 勝手に諜報員にされたが無為な戦闘を避けることができた。

「すまなかったな、諸君。さて、話の続きだ。きっと、諸君のことだ。門前払いをされると思いこのような形で参ったのだろう。」

 その通りなのだ。敵国の使者など門前払い、もしくは殺される。

 王は続けた。

「同盟の使者は明日こちらから出そう。それでフロスガーとルーフェンの同盟を築こうではないか?」

 そうしなければこの同盟が不可解なものになる。

「わかりました。ルーフェンの使者には我々フロスガー門を開きましょう。では、これにて。」

 領主がそう言うと、踵を返すが王が呼び止める。

「待て、そこの子供に渡したいものがある。」

 そう言いながら王は引き出しの中を漁り、一つの宝石による装飾が施された剣。儀礼剣をユリヤに渡した。

「これを持つことは、我が国の宝ということだ。そこのリヴィアもベルタも持っておる。良いか、これを持つからには死ぬことはこの私が許さん。いついかなる時も、健やかに生きて欲しい。」

 ルーフェンの儀礼剣が国民以外の魔術師に渡るのは初めてだった。ルーフェンの儀礼剣は刀身が真銀、鞘は聖堂の神木の枝、鍔が黒鉄、柄は孔雀石と象牙でできており柄頭にいくつもの宝石がひしめき合っている非常に豪華な作りである。

「どうして私に?」

 ユリヤが呆気にとられた様子で訪ねた。

「貴君らは危機に関する情報と打開策を持ってきた。民でなくとも私の宝だ。フロスガーの宝を奪うわけにはいかんでな、故にそなたに授けたい。」

 ユリヤは納得して、柄と鞘の端を持ち受け取る。

「わかりました。ありがとうございます。」

 こうしてユリヤはルーフェンの儀礼剣をもつ魔術師の一人となった。


 翌日にはルーフェンの王都から使者が来て、翌々日、ルーフェンとフロスガー両国は互いの前線から兵を引いた。そしてその翌日にはアリンゴスとの前線に両国のほぼ全戦力。魔術師の一個中隊及び一般兵の二個師団【約三万人】が北方、南方の前線拠点に戦列を揃えた。私たちはフロスガー側の対アリンゴス軍前線基地に配置された。かの領主は、表向きの同盟の立役者として演説を始める。

「我々はこの数千年成し遂げられなかった同盟をついに結んだ!中にはルーフェンの軍に家族を、友人を殺されたものもいるだろう。だがそれを憂いてなんとする!?我々は名誉にかけて戦い、名誉のうちに死んでいったのだ!彼らの名誉の死を仇討ちの口実にしてはならない!ゆえに肩を並べよう!ゆえに、槍の穂先を揃えよう!我々は、ともに人を人とも思わぬ外道に人のあり方を問おう!中には命を落とすものもいるだろう、敵の凶刃に倒れるものもいるだろう!されど我らは死ぬのではない!我らは平和の礎となり、千年、万年先まで生きるのだ!我らの敵は戦争だ!我らの敵は憎しみだ!我らの敵は、欲だ!さぁ、終わらせに行こう。久遠に続く憎しみの連鎖に終止符を刻みに行こう!!!」

 地響きのような兵士たちの歓声が聞こえる。兵士たちが鐓を地面に叩きつける音が聞こえる。

「進軍せよ!」

 領主が叫ぶと兵士たちは軍靴の金属音を、万を超える人が歩く轟音を響かせながら進軍していく。まっすぐとアリンゴスの砦を目指して。

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