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第二十七話 「行ってらっしゃい」

 規則正しく木々が立ち並ぶ、森の中に作られた白い道を歩く。


 向かう先は電磁加速射出砲リニアレールガンロケットアーティカル・セカンドだ。


 住宅街からココまでかなりの距離が有る訳だが……送迎を出そうというロックからの提案を断って、自転車だけ用意して貰っていた。


 一度強化系の自転車速度を体験してみたかったんだよね!


 役所から森の入口までを、早朝にぶっ飛ばす僕を見た者は揃ってこう思っただろう。


 視界を黒豆がよぎった――と。


 パワードスーツに包まれた僕の体は、日の当たらない場所では黒く見える。

 そして、この小さくて丸い体躯だ。

 わざわざ、この時の為だけに作られた僕専用の自転車は非常に小さい。

 風の抵抗を排除するために前傾姿勢で滑走する僕は、緩やかな流線形ヘルメットとシルエットが混ざり――まさに黒豆に見えた事だろう。


 別に、途中から恥ずかしくなってぶっ飛ばしていた訳ではない。


 ――断じてない。



 森を抜けると、視界には金属製の巨大な山。


 たしか……道を抜けた先でキョウと待ち合わせしてたはずなんだけど……。


「――あ」


 思わず声がでてしまった。


「……何か沢山いる」


「シン! 皆待ってたんだぞ?」


 見慣れた顔が幾つも並んでいる。

 クラスの面々や先生達。

 お世話になったロックの人達やシナプスの面々もいた。


 そんな沢山の顔が僕に注目するなか……。


 何でキョウだけは這いつくばっているのだろう?


 そして、コモモちゃんとみっちゃんにストンピングを受けている。


「遅いッスよ? 罰ゲームに私連れてくッスか?」

 カナコさん。


「すん」

 ハヤコさん。


「すまんな、目覚ましが調整中で起きれなかったんじゃ」

 ドクター。


「クニ君! 見送りに来たよ★」

 みっちゃん。


「私は、許した訳では有りませんので。組織に従っているだけです」

 スメラギさん。


「へっ、しばらく見ない間に良い顔するようになったじゃねえか」

 ニジバヤシ君。


「ニジモン絶対に見に行くんだーって言ってたんだぜ?」

 アカハタ君。


「モリイ君! あの、私手紙書いて来たの、後で読んで」

 サトウさん。


「キョウコの抜けがけは諦めた! クニクニ! 帰ったら遊びに行くよ?」

 ススキさん。


「大切な生徒の門出です、皆で祝福にきたのですよ」

 学院長。


「坊ちゃん、カレーいーかがっすかー」

 なんでフヨシさん?


「先生の事は俺にまかせろ!」

 えっと……ケインだったっけ? コスギだったっけ?


「この! ブタ! ブタ! なんなんですの! この! この!」

 コモモちゃん……そろそろキョウの顔がヤバイ、色々と。


 他にもご近所さんや、ジェロウさん、アマゾニスでお世話になった面々もいた。


「皆……僕なんかのために……」

「そうだぜ? シン。皆シンのために集まったんだ」

「っちょ! 急に動くなですの!」


 未だ飛び跳ねていたコモモを華麗にかわし、キョウが僕の前に立つ。

 僕の肩に手を乗せ、集まってくれた面々手のひらで指した。


「フフッ……」

「な、シン! 何で笑うんだ!?」


「アハハ――普通だったら凄く格好いいのに――こんなに泥だらけじゃ格好付かないよ」

「むぅ……仕方ないじゃないか! シンが来る正確な時間を教えてくれなかったんだ、皆に待ってもらっている間、退屈させないように――」


 キョウなりに頑張ってくれていたのだろう。

 ただ、結果としてこの有様なわけだから……恐らく、また欲望が暴走してしまったのかな?


「でも、有難う。嬉しいよキョウ」

「あ、ああ! 喜んでもらえたなら頑張ったかいが有った!」


 僕の我儘で、この星を飛び出すと決めてから。一体どんな風に思われていたか気になっていたのだ。


 よかった、僕は皆に祝福されてこの星を飛びたてるんだ。


 そんな、安堵が――僕のズット深いところを温かく満たしていく。


 でも……マリは……来ていない。


「キョウ、マリは?」

「マリは……連絡が付かなかった。ほんと……こんな時には一番に駆け付けそうなヤツなのに」

「最近、様子おかしかったもんね」

「そうだな……」


「おう、すまねえな坊主ども!」


 僕たちが表情を暗くしている中、一人の益荒男(ますらお)が歩み出て僕たちに近づいてきた。


「ジェロウさん?」

「お嬢な、ちょ~っとスランプこじらせててな」

「スランプって……シンの門出より大事なんですか?」


 キョウの言葉にジェロウは「あ~」とか「う~」とか言って上手く言葉を選べないでいる。


「ほれ……乙女心? っつうのかねえ……俺にゃあ良く分かんねえが――だが、必ずお嬢は来る」


 そう言って、僕の出てきた森の方へ視線を移す。


 その時だ。


 ドドドドドと地鳴りのような低音が、集まる皆の耳に届いた。


 遠くの方では大きく土煙が上がっている。


「ただ――ちーとばっかし、他のヤツらとは趣旨が違うかもしれねーがな?」

 それだけ言い残すと、ひぇ~っはっはっは、と笑いながら引っ込んでしまうジェロウ。


 一体どういう事なのか。


「皆さん、状況が変わりました森から離れアーティクル・セカンドの方へ下がってください」


 皆が森に注目するなか、声を発したのはスメラギさんだ。


 いつの間に現れたのか、詰襟の男が何か報告をしている。


「キョウイチロウ、アナタも出動です」

「え、俺も!? 何で?」

「スドウ・マリを止めます」



 スメラギさんの説明によるとこう言うことらしい。

 森の入口で待機していたロック隊員がマリを発見、此方への案内をかってでたところ、マリの目的が〝発射の阻止〟に有ると発覚。

 森に配置されたロック隊員により、マリの侵攻を止めようとしたが、その勢いは余りにも強く、そして強靭で、足止めすら出来なかったらしい。


 そして今、戦う力のない僕たちはアーティクル・セカンドを背にして一か所に集まっている。


 森の出口には、幾度もの妨害を受け所々砂埃の付いたマリ。

 全身の筋肉を二回り膨張させ、肩で息をしながらキョウと対峙している。


 恐ろしいのは、道中に一度も傷を負っていないところだろうか……。

 一般市民と言うこともあり、ロックも手荒な事は出来なかっただろうが、まさか無傷とは……マリの戦闘力は計り知れない。


「キョウちゃん! そこどいて!!」

「マリ! 落ち着くんだ! 一体どうしたって言うんだ!」


 マリの表情は度重なる連戦で、すでに軽いトランス状態にあるようだ。

 目を大きく開き、噛みしめる歯の間から荒い息を押し出している。


 両手に愛用のノミを持ち、胸の前で交差させて見つめる先は、対峙しているキョウではない。

 はるか前方、アーティクル・セカンドを背にする僕達だ。


「いくらキョウちゃんでも今回は手加減出来ない!!」

「何を言っているんだ! マリ、何でアーティクル・セカンドを狙う!?」


「うるさい! うるさいうるさいうるさい! 分からないならソコをどいて! どかないんなら――押し通る!!」

「クソッ!! ダメか!!」


 キョウの言葉を聞き入れず、マリが姿勢を低くして跳躍する。


 その動きに合わせ、キョウは一瞬の内に黒い霧を集めた。


 現れるのは自身の身長ほどもある棍だ。


 そして、深呼吸一つ。


「ふんっ!!」


 キョウの丸い体から筋肉が盛り上がる。


 四肢を一回り大きくし、駆けるマリに正面から立ち向かった。


「マリ! 少し、痛い目にあってもらうぞ!!」


 振りかぶられるマリの拳。


 その拳を棍で受け流しにかかるキョウ。


 だが――。


「ジャマをするなああぁぁーー!!」


「な!?」


 次の瞬間、キョウの体が宙を舞っていた。


 そしてその横で回転しながら飛ぶ、真中から折れた棍。


 だが――まだ終わりではない。


 空中で体制を立て直したキョウは宙を舞う棍をキャッチ。


 棍を更に黒い霧が覆い、太さが倍以上となると地上を駆けるマリ目がけて〝空を蹴った〟。


「とぉぉおお、まぁぁああ、れぇぇええ!!」


 マリにとって完全に意識の外に有った上空からの攻撃。


 キョウの攻撃に気付き、咄嗟に構えたがもう遅い。


 物凄い地響きとともに立ち込める土煙。

 二人がどうなったのか見えなくなる。


 だが、煙の中を動く影、ぶつかり合う金属音がココまで響いてくる。


 戦闘は続いている。


「まずいですね……」


 口を開いたのはスメラギさんだ。


「え……?」

「キョウイチロウはまだ強化系を上手く扱えていません」

「それって?」

均等融合者(イコルティーマージ)の戦い方に慣れていないという事です。彼はまだ〝操作系として〟戦っている」


 確かに、キョウはもともとが操作系だったけど……でも強化系を全然使えてないって事はないんじゃ?


「先生、お願いします」


 繰り広げられる戦闘からこの先が予想できたのか、素早く後ろを振り向くとボッケーっとして突っ立っていたみっちゃんに声をかけた。


「っげ……あ、コホンッ。う~ん? 何かな? クリスちゃん★」

「スメラギです――いえ、クリスとしてお願いします」


 スメラギさんの雰囲気に言わんとすることを察したのか、みっちゃんの表情が苦虫をつぶしたように変化する。


「え~……! 私~……、野蛮な事キライだし~★」

「お願いします」


「チッ……わかったよ」

「有難う御座います」

「だが刃は潰させてもらう」

「結構です」


 いったい何の話をしているのか……。


「生徒の皆さ~~ん! 今からちょ~~っと目と耳を塞いでくださいね~★」


 後方に控える生徒たちにクルリ一回転しながらお願いした。

 さっきまでの苦悶の表情はドコへやら、完璧な早変わりだ――色々手遅れな気はするが……。


「もし、見たらトラウマになっちゃう……ッゾ?★」


 最後の顔が凄く怖かった。

 しかし、誰一人として指示に従う様子がない。

 みっちゃんも仕方ないと感じたのか、軽いため息の後に小さな声で「しらねーからな」とだけ続けた。


「先生、急いで下さい」

「わ~ってる! せめて耳位ふさげよ~!!」


 そう言って両手を大きく広げるみっちゃん。

 だが、黒い霧が現れる訳でも無ければ、以前見たレールガンでもない。


 戦闘とは別の地響きが聞こえる。


 足元から? そう思った時――。


「うわ! 地面がとんだ!」「何これ! これみっちゃんの力なの!?」「カレーでーすねー」「いや、一本○ソッスね」「すん」


 長く太い、柱のように地面がせり出してきたのだ。


 しかも二本。その長さは裕に五十メートるはあるのではなかろうか。


 真っすぐ抜き取られたその地面は中空で停止すると、一瞬の静寂のあと、物凄い高音を上げながらその体積を〝捩るように〟減らし始めた。


「ぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」


 みっちゃんの雄叫びと、金切り声にも似た金属同士の擦れるような音があたりを蹂躙(じゅうりん)する。


 気付くとスメラギさんとみっちゃん以外全員が耳を塞いでいた。


「スメラギさん!! これは一体!?」


 引き抜かれた大地が徐々に体積を減らし、始め赤黒かったそれは徐々に黒に近づいていく。


「ただの圧縮です。ただ――膨大な操作系の力を必要としますから先生にしか出来ない芸当ですけどね」


 圧縮される大地を見ながら、どこか自慢げに説明してくれた。


 そして、音が徐々におさまり、耳を塞がなくても良くなったころ――二本の大地は〝二本の刀〟になりスメラギさんの足元にその刃を突き立てた。


「あーーーー!! 疲れた!! もう一週間くらい何もしない!!」

「有難う御座います、おかげで間に合ったようです」


 刀を作り終わりへたり込むみっちゃん。

 本当に疲れたのか、キャラを忘れて荒い息を上げている。


「刃は潰したからな! 後、間違っても超振動を使うなよ!?」

「大丈夫です、先生のドウジとヘシはそれでも十分人を殺せます」


「殺すなよ!?」


「冗談です」


 先生と一緒に僕も突っ込みそうになる。

 スメラギさんも冗談を言うんだなと、こんな所で新たな発見をしてしまった。


「あちらも……もうじき終わりますね」


 視線の先は、未だ土埃の中で激戦を繰り広げるマリとキョウだ。


 土煙のせいで僕に戦況は見えないが、スメラギさんにはわかるのかもしれない。


「ぉぉぉぉおおおおぁぁぁぁああああ!!」


 響くのはマリの雄叫び。


 そして、吹っ飛ぶ人影――。


「キョウ!!」


 まるでボロ雑巾のように、錐揉みしながら中を舞って……遠くで新たに土煙を上げた。


 吹き飛ぶのを見て、僕が駆け出そうとするのをスメラギさんが止める。


「スドウ・マリさん。次は私が相手です」


 マリを包む土煙が晴れる。

 肩で息するマリの額には、キョウから受けた傷が薄く血をにじませていた。


 こんなになってまで……なんでマリは止まらないんだ。


 僕には分からなかった。

 どうしてマリはこんなにも必死なのか……。


 スメラギさんが跳躍する。

 未だ構えを取っていないマリとの距離が一瞬で詰まった。


「ッグッ……ゥゥウウァァアア!!」


 振り下ろされる二本の刀をノミで受け止める。

 しかし、あまりの威力に押され、マリは片膝を付いた。


 その隙を見逃さないスメラギさんは体をスピンさせ、そのまま回し蹴りを放つ。


 マリが吹っ飛ぶ。


 だがネコのように四肢で着地し勢いを殺すと、その姿勢のままクラウチングスタートのように跳躍した。


 スメラギさんは避けない。


 ドウゥン! と空気が鳴った気がした。


 その位の大きな衝撃が、僕達のところまで届く。


 発信源であるスメラギさんは、地に両足を突き立て、突進するマリをその刀で見事に受け止めていた。


「マリさん……何を思っての行動か分かりませんが……もう諦めなさい」

「ぅぅうう! うるさい! うるさいうるさい! ウチが止めるんだ! ウチが止めなきゃいけないんだ!!」


「残念です」


 スメラギさんの言葉の後、二人が一瞬光ったような気がした。


 そして、音もなく崩れ落ちるマリ。


「マリ!? スメラギさん!! 一体何を!?」

「軽い電気ショックです。命には別状ないでしょうが数時間は意識が戻らないでしょう」


 倒れるマリを一瞥もせず、こちらに戻ってくる。


 だが――。


「ぅぅ……ぁぁぁぁああああ、あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 マリは立ち上がった。

 スメラギさんが驚愕の表情を浮かべ振り返る。


「何故です! 何故立ち上がるのですか!?」


「ウヂが……ウヂがとめなぎゃ!!」

「クッ――!」


 なおも迫るマリにスメラギさんも駆け出す。


 振り被られるノミを刀で受け、柄で殴り、回し蹴りで吹き飛ばす。


「っ……ぁぁぁぁああああ!!」


 だがマリは立ち上がる。


「何故……」


 なおも立ち上がるマリに、スメラギさんが後退る。


「な゛んで! な゛んでダレも止めないの!!」


 マリが……。


「なんで誰もしーちゃんを止めてあげないんだ!!」


 泣いていた……。


「アナタはそんな力があるのに!! なんで力のないしーちゃんが宇宙なんかに行かなきゃいけないの!!」


 マリは僕の為に?


「しーちゃんは誰かに必要として貰いたかったダケなのに!! それをアンタ達は利用して!! しーちゃん一人に辛い思いをさせて!!」


 マリは僕の事を思って……。


「ならウチが止めるしか無いじゃない!! 誰もしーちゃんを大切にしないなら!! ウチが止めるしかないじゃないかあああああ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 マリが再び跳躍する。


 だが、すでに体はボロボロだ。


 先の感電で筋肉の一部が言うことを聞かないのだろう。


 その動きは非常にぎこちない物となっていた。


「クッ!」


 スメラギさんも跳躍する。


「じゃまをぉお、するなぁぁぁぁああああ!!」


 振りかぶられるノミ、スメラギさんは長い方の刀で受ける。


 その時――。


 マリの腕が、足が――更に一回りの膨張を見せる!


「ぁぁぁぁああああ!!」

「そんな!!」


 ノミを受けた刀が折れ、拳が深々とスメラギさんを捉え――。


「クッ……ガッハ!! そんな……ドウジが折れるなど」


 体をくの字にして倒れるスメラギさん。


 全身を三回り膨張させた、従来の強化系を超越したマリがそこには立っていた。


「げー!! やべーぞ!?」


 目の前の現状にいち早く反応したのはみっちゃんだ。


「先生、お願いがあります」

「あ!? 嫌だよ!? 私は戦えないからな!!」

「いいえ……皆を、ココから避難させてください」

「へ? 戦わなくて良いの? でもなんで?」


 キョトンとするみっちゃんの顔に、僕は出来る限りの笑顔を向ける。


「僕が止めます。皆を、僕から離してください」

「あー……よし分かった! まかせて★」


 戦わなくて良いと分かった途端現金な人だった。


「みんな~~、逃っげる~わよ~~★」


 さて、後はマリを何とかしなきゃ……。


 今までに無い膨張を見せたマリは、とても動きづらそうに近づいてくる。


 一歩、また一歩。

 少しずつ少しずつ僕との距離が縮まっていく。


「マリ……」

「しーちゃん……ウチが……とめるがら!!」


 僕を見下ろす大きな影。


 その大きな体が迫り、小さな僕の体を抱きしめた。


「いっちゃ……やだよ……しーちゃん」

「マリ……」


「ウチ、しーちゃん守るから……何があってもしーちゃん守るから……だから行かないでよぉぉ……しーちゃあうぅぅ」


 最後は泣き声に混ざってめちゃくちゃだ。

 抱きしめる力も尋常じゃない……パワードスーツを着てなかったら骨の二三本折れてるかもしれない。


 でも、そんなマリが……堪らなく可愛らしい。


「マリ……ありがとう」

「しーぢゃん――なら!」


「でも、ダメなんだ」

「え……?」


 僕達二人を竜巻が包み込む。


 僕の背中から広がる風は外へ外へと流れていき、マリの膨張した筋肉を徐々に細くする。


「しーちゃん……」

「ごめんね、マリ」


 僕の背中には小さな、小さな光の束が揺れている。


 四肢が細くなり、へたり込んだマリが僕を見上げて泣いていた。


「酷いよ……しーちゃん……乙女を二回も骨抜きにするなんて」

「マリはその位が丁度いいんだよ」

「あはは……酷いな……」

「うん」


 マリはもう、足腰に力が入らないのだろう。

 だが腕だけは僕に回したまま、なんとか上体を起こしている。


「しーちゃん、これ……持って行って」


 ドコから出したのか、マリから木製の彫刻を渡された。


「これは……僕の――顔?」


「うん――好きです。ズット好きでした」


 僕にしか聞こえない小さな声だった。


「ありがとう、マリ。行ってきます」


「行ってらっしゃい」



 マリは泣きながら笑っていた。



 さあ、出発だ。

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