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第十八話  「クニヒコさん、逮捕です」

「――パパ? 僕が?」


 目の前にはボブカット位の明るい金髪をした幼女が一人。

 妹のミクよりも少し小さい位の女の子が座り込んでいた。


「パ……パ! パパ!!」


 白いワンピースが地面で汚れるのも気にせず、両手で地面を押し出すように擦りよって来る。


「あは、あっはははは。こりゃーいい! よかったなぁクニヒコ! 可愛い娘が出来て」

「んな! 何で僕がパパにならなきゃならないんだよ! それにこの子誰だよ!?」


 やったー幼女の娘だ―って喜ぶのはキョウ位なものだよ! ほんといい加減にしてくれ! 確かに可愛いけどさ!?


「パパ……? パ……パ……ぅぅ……ぇぇぇぇええええ!!」


「あ~あ……泣かしちまった~。誰ってお前の先生だろ?」

「な! 何で泣くの!? って……え? 先生?」


「先生」

「へ?」


「ぅぁぇぇええ……パーパ!! パーパー!!」


 顔全体で悲しみを表現し、涙と鼻水でグシャグシャになりながらも此方に両手を伸ばしている幼女。

 少しでもこっちに近づこうとしているのか、上半身をピョンピョンと動かし、お尻を浮かせている。


「あーあー……ごめん! ごーめーん!! ほーら、パパですよ~~」


 たまらず駆け寄り抱き上げてしまった。


「ふぅぇぇ……パーパ?」

「そーだよー、パパだよーー」

「パパ!! パーパ!!」


 抱き上げ、膝の上に乗せてあげると先ほどまでの涙が嘘のように晴れ渡る。

 僕の服に顔をグシグシと擦りつけてご満悦だ。


 あ~あ……鼻水が糸引いちゃって……

 たしかに……みっちゃんの面影? と言うか雰囲気はあるのかな?


「で、でも……何でみっちゃんがこんな事に?」

「そりゃお前、さっき見たいにアルス被ってたって事だろ」

「被ってたって、これは流石に被りすぎだろ!?」


 厚化粧にも程がある!


「ど、どうすんのさこの……子? この先生?」

「お前がそんなにしたんだから責任はお前が取るもんだろ? 後、子に疑問符を付けてやるな……」

「パーパ? パッパッパッ?」


 ううう……可愛い……


「とっ、とりあえず一度家に帰ろう!」



■◇■◇■



「で、その子は一体誰なのですか?」


「あの……その……あの……この……子はっ」


 しまったぁぁーー!! 家につれて帰れば一安心だと思ったのが間違いだったぁぁーー!!


「パーパ?」

「ほう? パパですか。クニヒコさんには隠し子がおられたと」

「いやいや! リイン誤解だって! パパはパパでもパパじゃないんだって!」


「ほう? パパでは無いパパと。このような幼女を相手どって血縁関係のないパパだとおっしゃりますか」

「ぎゃぁぁーー! 誤解だーー!! ソラオ! ソラオも何かいってやってよ! ってか助けてよ!」

「クッ、クックッ――しーらね。俺しーらねーっと」


 僕は今自宅の玄関にいた。

 脇には、服をしっかり掴んで離さないみっちゃん。

 ソラオは一人でさっさと中に入っていってしまう。


「あの、この子は、拾っ――そう! 迷子なんだ! そこの公園で!!」

「迷子ですか。近くに親御さんの姿は無かったのですか?」

「そうなんだよ! パパの事探してるみたいでね? いや~まいったな~! このまま一人にしとく訳にもいかないから――」


「連れて帰ってきたと?」

「……はい……」


 リインの疑いは晴れていないのだろう。薄く細められた瞳には光を感じられない。

 こんな日に限って、和服姿で迎えてくれたリインの圧力は通常の三割増しに感じられた。


 僕がリインに睨み倒されていると、リビングの方から小動物の駆けてくる音。

 ドアが勢いよく開かれると、妹のミクが満面の笑みで現れる。


「にーちゃん! おかえりー! にー……ちゃん?」


 玄関に駆け寄るミクが、みっちゃんの存在に気付いて勢いを緩める。

 ジッと見つめながら、僕の側に来るとあどけない瞳で聞いてきた。


「にーちゃん! このこ、だあれ?」

「ただいまーミクー。この子はねー、迷子さんなんだよー」

「まいご?」

「そ、迷子。お父さんお母さんと逸れちゃったみたいなんだ」

「かあいそぉーね~、いいこ~、いいこ~」


 そう言うと僕の側にしがみ付くみちゃんの頭をやさしく撫でてくれる。

 いくぶん緊張が取れたのか、みっちゃんもじょじょに僕のすそから手を放し、ミクに意識をむけるようになった。


「パーパ?」

「ちあうよー? みくはね、ネーネらよ?」

「ねーね?」

「そ、ネーネ。いいこ~いいこ~」


 何と微笑ましい情景だろう。

 外見年齢が近いせいか、みっちゃんも警戒せずミクにされるがままとなっている。


 その情景を見ていたリインも、いたしかたないと判断したのか、フンスッと鼻息一つ。


「仕方ありません、家であずかる事を了解いたします」

「リイン! ありがとう! やっぱりリインは――」

「ただし!」

「ひうっ」


 僕が気を抜いたのが分かったのだろう、釘をさすように一喝されてしまう。だが、すぐに優しい表情に変わり、みっちゃんに視線を送りながら先を続けた。


「ただし、ちゃんととどけを出して下さい。分かりましたか? ご両親もさぞ心配しておられるでしょう。少しでも早く御返し差し上げるのが理想と思われます」

「うん、わかったよ」


 真剣な顔で答える。だが……


 どどど、どおしよう!? マッチの効果って二日は元に戻らないんじゃなかったっけ!? 届をだして誰が迎えに来るの? ってかみっちゃんって何所に住んでたっけ? 場合によっちゃ二日間あずかる事に……父さん達になんていえばばばばば――


「にーちゃん! ねぇ! にーちゃん!」

「ばばば……え? あ、なに? ミクどうしたの?」


 裾をクイクイ、僕を見上げてミク何か言いたそう。


「このこ、とろとろらお?」


 とっ、とろ――!? ああ、ドロドロか。


 確かに公園での遣り取りでみちゃんのワンピースや膝下、手のひらなどは土で汚れていた。


「パーパ? ねーね?」

「そおよ、ネーネよー。にーちゃん、このこ、おふろいれう?」

「あー……そうだね。たしかにこのままじゃ可哀相かな……ミク、お願いできるかな? リイン、サポートお願い」


「あーい!」「了解しました」


「あい、ネーネとおふろよ~、こっちよ~」


 みちゃんの手を取り、ミクがリビングへと向かおうとすが、思わぬ障害が起こった。


「ぅぅうう……ぃぃぃぃいいいい! パーパ! パーパ!!」

「らめれしょ? ネーネとおふろよ?」

「パーパ! パーパー!!」


 みっちゃんが僕の裾を放そうとしないのだ。

 もともと白い肌がさらに染まるほど強く握りしめ、ミクがどれだけ引いても話そうとしない。


「困りましたね……これではお風呂に来て頂けません」

「そうだね……どうしよ?」

「ろおしよ?」

「パーパパ?」


 四人で首を傾げてしまう。


「致し方ありません」


 流石はリインさん、こんな時頼りになる!


「クニヒコさんにも同行頂きましょう――目隠しで」


 どうしてそーなるの!?



 僕の抵抗空しく、頭にはハンドタオルが巻かれる事となった。


 一体幼女相手に何を警戒しているんだ!

 まったく! ミクとだってお風呂に入った事有るんだぞ!? 一年前だけど!


 明るさだけを感じられる視界の中、リインに手を引かれるようにして脱衣場までやってきた。


 ぁ、下の方だけチョット隙間が……


 シュルシュルと服を脱ぐ音が耳に入る中、色白な細い足と健康的な足がパタパタと動き回っている。


「あい、ネーネとぬいぬいよ~」

「ね、ねーねーねー?」


 ミクの指導でみっちゃんが服を脱いでいるのだろう。

 もしくわみっちゃんのワンピースをミクがはぎとっているのか……。

 向かい合う二人の足が近付いたり離れたりしている。


 うわ、足しか見えないから逆に色っぽい……。ダメだダメダメ!! そんな想像しちゃ!! うわ! でもみっちゃんの下着が見え……って……黒のレースって……みっちゃん……なんか切なくなっちゃう……。


「クニヒコさん、何をしているんですか? 行きますよ」


 足もとにばかり集中してたら、引かれるように浴室へ誘導される。


「にーちゃん! このこ、なまえ、にーちゃん!」

「うん、ミク~。この子の名前はにーちゃんじゃないよ~。この子の名前はね~――」


 名前は~……なんて言おう? みっちゃんって言って良いのかな……でもリインが聞いたら絶対色々演算して先生と関連付けちゃうんじゃないか?


 お得意の各種センサーが猛威を震いそうだ。


「この子はね~、み~ちゃんって言うんだ」

「み~ちゃん?」

「猫のような名前ですね」

「み~?」


 リインの突っ込みが痛い……

 今絶対に白目でこっち向いてるんじゃなかろうかと思うくらいに。


「そ、そうなんだよ。ほらこの、子喋れる言葉が少ないからさ……名前らしいのって『み』しか分からないんだよ」


「み~ちゃん! みくはみくらよ! み~ちゃん! よろしうね!」

「み~?」


 お風呂で自己紹介というのも結構シュールだな……などと考えながら。


「それじゃ、リイン〝いつもの〟を二人におねがいできるかな?」

「了解しました」


 草原を風が流れるような音がする。


 目には見えないが、現在幼児二人の頭には空気の膜が出来ているはずだ。

 アルス性のシャンプーハットである。


「リイン、シャワーとスポンジをかして」


 僕が手を伸ばしニギニギして待っていると、手のひらサイズ固い物が握らされた。

 表面がとてもツルツルしている――


「って、これ石鹸じゃん!?」

「申し訳ありません、スポンジはミクさんが使用されておりますので」

「み~ちゃん、きれいきれいお~」

「ねーね! ねーね!」


 むぅ……なら体を洗うのはミクに任せるしかないか……

「クニヒコさんは石鹸を泡立てて手で洗って頂いたらと思います」


 なるほど! その手があった!


「わ、わかったよ、ドコを洗えば良いかな?」

「では、泡だてた手を、そうです、真っ直ぐ伸ばして下さい。はい、もう少し右、ソコです。」


 リインの誘導に従うと、ツルツルとした緩やかな曲線の肌に触れる。


 ああ……子供の肌ってすごくツルツルしてるんだな~……。


 それにしてもドコを洗ってるんだろ? 手を下げたら直ぐに空中だし……腕……にしては広いし? 手を上にしたらプックリ膨らみが……。


 ま、まさか僕はとんでもないトコロを洗わせられているんじゃ!?


「はい、結構です。後は自分で流しますので手をさげて下さい」


 って! リイーンかぁぁーーぁぁいい!!


 まさかリインを洗わされてるとは思いもよらなかったよ!!


 面積を誤魔化すために、手に合わせて上手にスライドでもしてたんじゃないかと思うくらい、見事に騙されてしまった。


「さ、お二人とも洗い終わりました。後はクニヒコさんだけですのでユックリ洗って出て下さい」


 ひどい!!


「パーパ!! パーパーパー!!」


「ちっ……仕方ありません……早く洗って下さい。み~さんが出られません」


 もっとひどい!! しかも今『ちっ』って言った!!


「で、でも僕石鹸しか持ってないよ!?」

「何か問題でも?」

「いえ……無いです」


 シュワシュワシュワシュワ、ペタペタペタペタ、ザーーザーー


「はい! おわり! 出よう!」

「あーい」「み~?」「了解しました」



 これでやっと目隠しが外される……そう思ってた時期が僕にも有りました。


 簡単に言うと浴室を出ても僕の目隠しは直ぐには外されなかった。


 みっちゃん用にリインが用意した下着とパジャマ。それを頑なに嫌がって、全く着ようとしないのだ。

 仕方なく、最初から着ていた下着とワンピースを急ぎ洗濯し、今現在高速乾燥中なのである。


「クッ、ハハッ。全く――何が起こるか分かったもんじゃないな」

「誰のせいだと思ってるんだよ……」


 僕は目隠しをしたままリビングの椅子に腰かけている。

 ソラオの声がするのは恐らく卵型の椅子の中なのだろう。

 今はリインに入れてもらった黒烏龍茶をチビチビと飲んで、たいして火照っていない体の熱を下げている。


「俺のせいだって言うのか? 嬉しかったんだぜ? お前が俺を助けようとしてくれてよ~」

「そんなんじゃ……ないよ別に」

「お前は俺が消える未来を諦めたんだ……そうだろ?」

「ソラオのその言い方嫌いだ。僕は選んだんだよ……諦めたんじゃない」


「み~ちゃん、めーよ! かみー、かわかさないお!」

「キャァーッハ! ねーね、ねーね」


 何かテーブルの周りが騒がしい。


 この家になれたのか、ミクになれたのか。

 浴室から出たみっちゃんは僕の側を離れても大丈夫になっていた。

 今は髪の濡れた全裸のみちゃんをミクが追いかけまわしているのだろう。


 別に見えなくて悔しいとかは無いんだけど……自分の家でこれは今一釈然(しゃくぜん)としないな……


「ほう? 何を選んだってんだ?」

「誰も……もう傷つかない、傷つけない事」

「かー! 言うね~……格好いいねぇ~……これで目隠しさえしてなきゃな~」

「それはソラオだって一緒だろ?」

「ちげーねー」


 ソラオが声を大にして笑う。

 積る話があるけれど、今この場で話すわけにはいかない。


 夜まで待とう、ソラオと二人きりになるまで。

 


 その後、ミクと打ち解けたみっちゃんに服を着せ四人で昼食をとった。


 食後に始めた|スマロゼ《大激闘スマッシュロボティック・エグゼ》が思った以上に白熱してしまい、タイトル通り激闘を繰り広げたミクとみっちゃんは中よく卵型椅子の中で眠っている。


「まさか、み~ちゃんがあんなに上手になるなんてね……」


 最初は操作方法も分からなかったみっちゃんだったが、スポンジのような吸収力であっという間に基本操作を習得し、終盤にはミクの操るカエル型キャラと互角に戦っていたのである。


「クッ、ハハ。まさかお前があんなに弱いなんてな!」

「う、うるさいな! ソラオ絶対ズルしてただろ!」

「するかよ!」


 ソラオを入れ丁度四人になる事から、自然と二対二のタッグ戦へ移行したゲーム勝負。

 ミクのカエルと僕の青ヘルチーム、ソラオのキリカブとみっちゃんの安全ヘルメットチームに分かれ戦ったのだが……ソラオとミクのキャラは相性が悪かった。

 ミクの操るキャラの竜巻攻撃をソラオのキリカブは葉っぱのバリアーで無効化してしまうのだ。

 動きが鈍重なことから特別強いと言うキャラでは無いのだが、竜巻を無効化されてはミクの勝機が激減してしまう。

 結果的に、僕がソラオの相手をする事になったのだが……


「いや、あんな動き説明書にも乗って無かった! ゲームのプログラムをいじったんじゃないか!?」

「ひでー言われようだな……俺は目的の為に手段を選ばないがズルはしねーよ」


 手段は選ばないらしい。


「お話し中失礼します」


 僕がさらに詰め寄ろうとする中、リインの声で中断されてしまう。


「リイン? どうしたの?」

「はい、先ほどカイトさんとイオリさんから連絡を頂きました」

 げっ! ならみっちゃんの事を報告しちゃったんじゃないの!?


「今夜は遅くなる、先にご飯食べて寝といて。だそうです。あとみ~さんの件は一人増えるも二人増えるも一緒。とのことでした」


 さすが僕の両親だった。ものすごいアバウトさ……。

 でも今回はそのお陰で助かったかな……みっちゃんを見て気付く可能性もあるんだし。


「さて、後顧(こうこ)うれいも無くなりましたし。夕食の準備を始めさせて頂きます」


 ぁ、やっぱり憂いあったんだ。



■◇■◇■



 その日の夜。

 四人で仲良く夕食を頂き、本日二度目の目隠しを経験した後。


 ミクとみっちゃんを両親の寝室で寝かせ、僕は自室でソラオと向き合っていた。


「さあソラオ、今日こそ聞かせてもらおうか」

「いや、お前。聞かせてもらおうかは良いんだが――」


 眉根を寄せるソラオの視線の先。

 それはベッドに座る僕の左上後方だ。


「お構いなく」

「いや別に俺はかまわないんだがな? 昨日の今日でどうしたんだ」

「良く考えたらこの家の中でリインに隠し事なんて出来ないと思って」

「大丈夫です。耳ふさいどきますから」


 そう言うと自身のアバターに特大のヘッドホンを装着する。


「いや、それ意味ねーだろ」

「何も聞こえません」

「聞こえてんじゃねーか!」


「みっちゃんの件があって考えたんだ。いつまでも隠しておくわけにはいかないって」

「やはり御教諭(きょうゆ)でしたか」


 流石リインは話がはやい。


「そうなんだ、チョットした事情で今の状態になっちゃって……しばらく家で与りたいんだけど協力してくれないかな?」

「チョットした事情……ですか。それはソラオさんと、クニヒコさんの腰の物とも関係があるのでしょうか?」

「おいおいおいおい、勘が良いにも程があるぞ。それに耳せんはどうしたんだよ」


「唇がよめますので」

「意味ねーじゃねえか!」


「そして今のソラオさんの発言で確信いたしました」

「俺をはめるなよ! 超能力者かよ!!」


 センサーですよ、と返すリイン。いつの間にかソラオとリインのコントみたいになってしまった。


 いざ本題を始めようとした時、僕の部屋のドアが静かに開かれる。


 自動で開く事は無いのだ、誰かが開けている。

 そして、ドアを開ける可能性の殆どが既に部屋の中にあった。

 ミクは眠りが深い、今まで起きた所を見た事がない。

 導き出される答えは一つ――


「パー……パ?」

「みっちゃん……ごめんね、おこしちゃった?」


 そこには枕を抱きしめた明るい金髪の幼女。


「パーパ、パーパ?」

「うん、ここにいるよ」


 よたよたと、僕の側まで寄ってきて僕に向けて両手を掲げる。


 ダッコって事なのかな?


 その軽い体をベットの上に引き上げてやると、まるで糸が切れたように僕のヒザとお腹めがけて倒れこんでくる。

 しばらくすると浅い寝息を立てだした。


「お前、そーとー気に入られてんなー」

「クニヒコさん、逮捕です。いえ、刷り込みだとは分かっています」


 この状態、刷り込みだったんだ!


「と……とにかく! ソラオ、アルス干渉を無くして何を狙ってるの!?」

「ん~? そりゃお前が何をしたいか何だがな~……」

「それ、聞きたいッスね」


 聞きなれない声に弾かれるように視線を向ける。


 ソコには大きくあけ放たれた窓。


 黒いジャージのフードを目深に被った人物が座っていた。


「クニヒコさん!! 下がってください!!」


 いつの間にドアを開けたのか……ってか今日そのセリフ二回目なんですけど!!


 だが冗談では済まないようだ、リインが今まで見たことのない緊張感で相手に対峙している事からうかがい知れる。


「この方、生命反応を察知できません!!」

「そうッスね~、そりゃしかたないッスよ」


「アンドロイド!?」

「うひ~、なにもんッスかあんた」


 正体を瞬時に看破したリインに侵入者は面食らう。


 その隙にと言うかほぼ同時に、僕の部屋のドアが激しく打ち開かれ、数々の刃物が僕の部屋へと侵入をはたした。


 包丁、はさみ、カッター、ナイフにフォークに先割れスプーンまで。

 侵入者っと僕を隔てるように、リインの周辺に浮遊して全ての切っ先を相手へ向けている。


「あちゃ~、これは穏便にって訳にはいかないッスね~」

「アナタは何者ですか!?」


「自分シナプスのカナコって言うッス。ホームプロセッサさんにわ悪いッスけど……彼、借りて行くっすね?」

「何を勝手な事を! アンドロイドと言うならなら容赦しません!!」


 浮遊する数々の刃物がカナコと名乗った侵入者に殺到する。


 一瞬でハチの巣になると思われたその時――


「メタルブレードッス」


 迫りくる刃物が全て円盤状のノコギリによって打ち払われたのだった。


 数々の金属片と火花をまき散らしながら、一瞬で僕の側まで跳躍する。


「すまんッス、少し眠ってて貰うッスね?」

「な!?」「クニヒコさん!!」


 特に何をされたわけでもないのに、急に意識が遠のく。


「エアーマン、アンタも来るッスか?」


 そんな言葉が聞こえた気がして――


 僕の意識は深い闇へと沈んでいった。

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