6.地属性女子はインテリ派です!!
注意! ちょい残酷描写があります。
苦手な人はスキップ推奨します。
中立地帯に現れた地属性使いによりロザヴェルト軍が撤退する中、
帰還せず中立地帯に残った部隊があった。
中立地帯に戦争以外の目的で来た者達だ。
商人や貴族の依頼を受け、奴隷の調達・密輸に来た者。
そして、様々な技術発展の為の人体実験の素材、魔法儀式の生贄を調達しに来た者。
新兵器の魔法剣、魔法武器の試し斬り、試し撃ち。
無実の罪人の口封じ等の暗殺。
しかし、中立地帯に住む者達とて馬鹿ではない。
この地が安穏と過ごせる場所で無いこと等、百も承知だ。
彼らは自らを食い物にする者達の数の暴力を地の利を活かして抵抗する。
並みの兵士程度なら返り討ちに出来るし、逃げ延びる事もあるし、隠れるなどして身を守る事もある。
確実に中立地帯で仕事をこなせる実力者が必要だった。
彼らこそ、帰還せずに残った部隊『猟犬』だ。
彼らの主任務は表向きは『人型の魔物』の討伐、捕獲である。
魔物には人に擬態する習性を持つ者がいる。
吸血鬼や悪魔等がいい例だろう。
その擬態能力を見破り討伐、捕獲するという名目で発足された部隊である。
構成員も人に化けた魔物の正体を見破る事が出来る能力と討伐、捕獲能力に長けた人材で占められている。
しかし、その実態は中立地帯にいる人間を狩る為の部隊である。
だが法律上、中立地帯に人間は存在しない。
故に人が居たならそれは敵国の兵士か、ジンガイという魔物だ。
何処の国の庇護下にもないなら、人間ではない。
魔物をどうこうしようが、生態系を著しく乱すような乱獲ではないのなら虐殺しようが自由だ。
など如何に強力な力を持つ人間がいようが関係無い。
自分たちの仕事は怪物退治では無い。
中立地帯に住む人間によく似た魔物を狩る事だ。
アクシデントは起きたが仕事に支障は無いだろう。
化物の目を掻い潜り、何時もどおりヒトモドキの討伐及び、生態調査の一環で捕獲する。
楽な仕事だ……
そんな思いを抱いて彼らは本来の任務に就いた。
『猟犬』は今日も魔物…ジンガイを狩りに向かうのだった。
◆◆◆◆◆◆
ユーストマ国(旧・中立地帯)某集落
「人は話し合えば分かり合えるとか言ったよな?」
「はい! 兵隊さん達も言葉が通じたでしょう。」
村人風の少年の呆れた問いかけに、赤髪の少女は満足げに応える。
しかし、少年が少女に問いただしたいのは、足元に転がってるモノである。
「それで……この村を襲って来た奴等は?」
「この世にはジンガイっていう人に化ける魔物がいるそうですよ。きっと彼らがそうなのですよ。」
少年たちは地面に蹲る者達を指差す。
其処には少女のいうジンガイという魔物が転がっていた。
ジンガイ……人の形をした魔物とされるがここに住む者の蔑称だということは、少年も知っている。
何とも痛烈な皮肉だなと思いつつも、少女の場合、本気でヒトモドキという魔物では無いかと思っているんだろうなとも考える。
『きっと』という少女の確証の無い言葉に呆れつつも少年は話を続ける。
「へぇ……こいつ等が人に化ける習性を持つ奴か? 何故ジンガイだと?」
「ふふふ、さっき確認しましたが彼らには鬼種の様に角も牙もありません。……残念な事に見た感じ尻尾もケモノ耳もありません!!」
「……調べたのか?」
「ふっふっふ、丁度検査用器具がそこに落ちてたのです!!」
誇らしげに小枝を掲げる少女。
どうです! いいでしょう!?
とばかりに、小枝でツンツンとジンガイ?を突つつきながら応える。
しかし、調査対象が獣族系では無かった為か心なしかがっかりしているようにも見える。
少年は質問の切り口を帰ることにした。
「武器持ってたよな?」
「知らないのですか!?小鬼や豚鬼でも武器を使いますよ?」
何を言っているんだと少年を、信じられないとばかりに両目を広げて驚き、慄く少女。
確かにゴブリンなどの低級の魔物でも棍棒や拾った武器を持つ者もいる。
しかし、どう見てもこのヒトモドキはかなり洗練された魔法武器を持っていた。
少年はその様子に眉間に手を当て、頭痛を堪えるも気を取り直し、少女に質問を問いかける。
「……それで、鬼種でも無ければ、獣族性も無いこいつ等は何のジンガイだ?」
「きっと新種のジンガイです!! 何故なら兵隊さんに化ける習性を持っいるんですよ!?」
「………」
「発見者の名前って私の名前が付くのでしょうか?学会、いや歴史的発見です!!」
どうだと言わんばかりに、たわわに実った巨峰の胸を張る少女。
村人風の少年は、顎に手を当て少女の意見を反芻しだした。
そして納得したかのように相槌を打った。
「……成程、確かに新種かもな? それ現在、ユーストマにはロザヴェルト軍は居ないしな。」
「フフフ、お間抜けさんです!! 本物のロザヴェルト軍はもう帰っちゃったと知らなかったのですよ!!」
少年が納得してくれ事に少女は満面の笑みを浮かべ、少年は地面に転がるヒトモドキ達を見下す。
「まぁ確かに間抜けだわな? 俺の間合い に入ってたロザヴェルト軍に紛れたんだから。」
「ロザヴェルトの兵隊さんは、コウ君のお話を聞いて、帰ってくれましたからね。」
言葉が通じたのなら、警告の内容もしっかりと聞いたはずだ。
故に、ここに居るのは兵隊に化けたジンガイ。
兵隊だと安心した市民を襲う魔物なのだと、少女は結論付けたのだ。
なぜなら、村人風の少年と赤毛の少女はこうロザヴェルト軍にこう、警告した。
『この大地、全てが俺たちの武器であり、間合いだ。降伏しろ。』
『お前たちは完全に『ほーい』されている━━━━♫』
間合いとは、攻撃が届く射程距離だけを指す言葉では無い。
攻撃を当てる標的を認識できる空間を差す意味も含まれる。
そして、標的は全て、完全に包囲されていた。
当然、村に襲撃を仕掛けに来たジンガイは、待ち構えていた少年達に尽く返り討ちにあったのだ。
それに気づいて村の外で馬車を用意していたジンガイは、仲間がやられた相手を見るや地震に怯えて逃げ出すネズミの群れの様に慌てて逃げ出した。
中には何やら魔力を持った武器を振るったものがいたが、少女が武器が届く前に全て手刀でへし折ったのだ。
「じゃあ コウ君…納得してくれた所で逃げたジンガイを駆除するです?」
「ああ……そうだな、攻撃性から身を守る為の擬態じゃないな。危険な魔物な以上、逃がさない。特に俺の間合いに入った魔物はな。」
少年が地面を踏みしめ呟いたと同時に遠くから地鳴りと地震が起こる。
「序でに分かりやすく国境線も引いて置くか?」
「そうですね。間違って入ってくる人もいますから分かり易いのは賛成です。」
そう言いながら、少女はジンガイの逃げた方へと走り出した。
残された少年は後始末してからいけよと愚痴りながらも足元の新種のジンガイだった者に目を向ける。
「……人を魔物扱いして、散々好き放題してきたお前ら、『人でなし』に相応しい末路だな。 後でお仲間と飼い主も同じ場所に送ってやるが……大地に還れると思うなよ?」
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この後、突如ユーストマ国の国境に現れた城壁が現れ、記憶が錯乱したロザヴェルト軍、斥候兵がその壁の一角に新種のジンガイの実物大の標本とし、壁につきたった標本、石像、剥製が展示されるコーナーを目撃する。
そして、その標本に見立てた城壁には赤い字で大きくこう書かれていた。
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~ジンガイ・ヒトデナシ種~
『ロザヴェルトの兵隊に化ける新種の魔物です!! しかも偽物の犬です。犬耳も尻尾も無いです!!
お間抜けさんですね? ロザヴェルトの兵隊の皆さんも気をつけてくださいね?』
ユーストマ王妃より!
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この新種の魔物がこれ以降、発見された報告は無い。
しかし、この巨大な標本の存在を知った国では年間のジンガイによる被害と目撃例と同時に、行方不明者の数が昨年と比べ激減したという。
斥候兵が記憶を失った理由
嬉々として新種の標本を自慢とする謎の少女が原因。
3/18修正
ヒトモドキは史実でも別称として扱われた為、ジンガイに変更しました。