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6. プラン2

 ぼくはエレベーターに乗っていた。

 やはり落ち着かない。自分にこの仕事は合っていないのではないかと、これまでにもよく自問したが、実際に何かの役割を割り当てられた時程、それを実感しない事は無かった。

 先程からずっと、エレベーターに乗っては降り、また乗ったりを繰り返しながら、様々な階を訪れていた。

 もう一度頭の中で、自分がこれからしなくてはならない行動を思い浮かべようとした。

 その時、エレベーターがある階で止まった。

 エレベーターの役割として、誰かの乗り降りに際し停止するというのは当然なのだけれど、ぼくの心臓は凍りついたように強張り、早鐘を打ち始める。

 薄っすらと額が、湿り気を帯びていくのがわかった。

 やっぱり、向いていない。

 一組の男女が乗り込んできた。ぼくより少し高い背丈の女性と、それよりさらに頭一つ高い男。

「ヒッ」

思わず小さく声が出てしまった。聞こえたかもしれない。

 この時間帯は、あまり人がいない時間だって聞いていたのに。

 仕方なく、二人の方を何気なさを装って見てみる。恋人同士かと訝ったが、二人の間にある距離がそうではないのかもしれないと思わせた。

 人が乗ってきた時は、目立たないようにと言われている。

 ぼくは狭い箱の隅っこの方で、肩を小さくして佇んだ。

 よし。

 フロアのボタンを見ると、二つ上のフロアのボタンが光っていた。第四フロアで降りるらしい。

 エレベーターが停止した。二人は降りた。しかし、女の方が少しこちらの様子を窺うように振り向いた事が気に懸かったが、ちょうど扉が閉じるところだった。

 エレベーターは再び上に向かって動き出した。

 時計を見る。もうすぐだった。

 通信機のスイッチをオンにして、身動きせずに呼び掛けた。

「ゲイリーさん」

少しして返事が返ってきた。

「ハリーか、もう少しだ。気が散るから通信を切るぞ」

実にそっけない。

 心臓の鼓動がもう一段早まる。フロアは第六番目を過ぎた頃だった。

 例え、最上階まで行ってしまっても、また乗り込めばいいだけなのだが、エレベーター内には監視カメラが仕掛けられている。あまり不自然な行動は取りたくなかった。

 第七フロアに差し掛かった時、通信が入った。

「こちらゲイリー、止まるぞ」

 その途端、エレベーターは停止し、エレベーター内の照明が消えた。同時に前後左右に揺れる。やがて、非常用の電源に切り替わり、照明が点いた。さっきより、若干暗い明かりだった。

 よし、やろう。

 僕はフロアボタンのパネルの下部にある、緊急時の呼び出しボタンを押した。

 少しして、「どうしましたか?」と、男の声があった。

「え、えっと。エレベーターが突然止まったんですけど」

「ええっと、ああわかりました。すぐに動き出しますので、お待ちください」

だが、そのような事は無いと、ぼくは知っていた。

 五分くらい経った頃、修理に時間が掛かりそうなので、取り敢えず係りの者が救出に向かうと連絡が入った。

 ぼくは指示通りに、手動でエレベーターの扉を開けた。エレベーターの上の方が、第七フロアへの入り口に掛かっていた。

 第七フロアのドアが開かれ、外の明るすぎる光が差し込んできた。係員が呼び掛ける。「出られますかー?」

「一人では……ちょっと。てっ、手を貸してくれませんか?」

係員の手が伸びた。だが、低身長のぼくには、まったく届かない。

 次の手段だ。係員は、先端にベルトの着いたロープを下ろしてきた。ベルトを胴体に巻き、ぼくは引っ張り上げられた。間も無くして、両手がフロアの床に掛かった。

「もう少しです。頑張ってください」

係員がさらに呼び掛け、引っ張る。

 上半身を隙間に滑り込ませた瞬間、ぼくは密かに右手に握り締めていた小型のスタンガンを作動させた。小さい分、電圧の最大値が低めだが、人の意識を一時的に奪うのには十分な性能だった。

「ぐっ」という短い悲鳴を漏らし、係員は失神した。

 すぐさま、スタンガンをポケットの中に滑り込ませ、第七フロアに立つ。

 係員がもう一人いた。

「どうもお手数おかけしました」

もう一人の係員が頭を下げた。

「いっ、いえ、こちらこそ」と、こちらも頭を下げる。

ふと、その係員は、うつ伏せの状態で動かない同僚に気が付いた。

「おい、何やってるんだよ」

しかし、返答する筈はない。

「おい、ふざけてるのか?」

彼は同僚に近寄っていった。ぼくの方に背中を向けたのだ。

 その隙に、スタンガンをもう一度使う時が来た。

 僕は倒れた二人の男を見て、小柄な方の係員の服を脱がせ、身に付けた。ぶかぶかだ。

 それから職員の目に筒状の機械を当て、反対の手で瞼を持ち上げた。ピーと小さく音が鳴るのを確認して、筒をポケットに仕舞った。

 それから、ぼくは周囲を確認して誰もいない事を再確認した後、通信機に呼び掛けた。

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