12. 最後の別れ
いくつもの足音と振動が、床を通じて感じられた。大きな声や物音はしない。実に静かな逮捕劇だった。
続いて、近づいてくる複数の足音の後、操舵室に二人の警察官が入ってきた。
膝を抱えて座る独りの少女、その顔には、真っ赤に充血した目と無数の涙の跡が残されている。
私は、なるほど、と冷えきった心の中で呟いた。この状況を見れば、私は人質。恐怖で泣き続けていた被害者。そんな解釈がなされるだろう。
警官の一人はゆっくり静かに歩み寄ってきて、優しく言った。
「怖かっただろうね、もう大丈夫だよ」
ああ、やっぱりだ。
エディは自分が傷つく事も厭わず、私を守ってくれたのだ。まだ精神の乱れが続いている私が、厳しい聴取に耐える事は難しい。エディが残した最後の優しさ、気遣いだった。
だけど。
私は突然立ち上がり、声を掛けてくれた警官を置き去りにし、部屋の出入り口に立ち尽くすもう一人の脇をすり抜け、外へと走っていった。
甲板では、これだけの人数が本当に必要なのだろうかという程大勢の警官が、僅か四人しかいない海賊達を乱暴に拘束して、接舷した警邏艇へと連行しているところだった。
私は彼らのもとへ走って行きたい衝動を抑え付けて、その代わりに大声で叫んだ。
「エディー! あんたの事、別に嫌いじゃないよ!」
すると、数秒後にエディが叫び返してきた。
「馬鹿野郎ー!」
私は近くにいた警官達に両の手を掴まれ、自由を奪われた。
「ありがとー!」
後は彼らの姿が見えなくなるまで、溢れる涙をそのままに、思う存分笑った。




